第76話「決意のうえで……」

 引き留めるためとは言え、出す話題を間違えたか。かといって、今更話題を変えるわけにもいかない。


「渡されたんだよ」

「それはさっき聞いたわよ! なんであなたがそれを渡されたのか教えなさい!」

「それは……」


 ここで俺が魔法少女だという事実を言った場合、間違いなくまたもめ事になる。どこかに報告されるかもしれないし、前の様子から考えれば撃たれるかもしれない。


 当然、最初から穏便に済むとは思っていなかったけど、これでは想像以上にこじれる可能性が高いんじゃないのか?

 まずった。どうしよう……。


「あんた! 黙ってないで答えなさいよ! 言うつもりがあったから、あたしを追いかけてきたんでしょ!?」

「えっと……」


 それは、確かにそうだ。けど、これは状況が悪すぎる。でも、嘘はつきたくないし……。


「ハッキリ答えなさい!」

「っ……えっと、俺……」


 魔法少女なんだ。


 本来そう言うはずだったのに、言葉は出てこなかった。


「俺、秋桜支隊に、いたんだ」

「っ!」


 嘘は言っていない。……だけど。

 当然、藤村さんは混乱したように戸惑いを見せている。口を開いては閉じ、何を言葉にしたらいいのか考えているのがわかった。待つしかないだろう。ここで畳みかけても仕方ない。


「あなたの……そうよ。あなたの名前、お母さまから聞いたことなかった。ペンダントを渡すくらいなら、きっと相当に親しかったはずなのに!」

「それは……」

「高街少佐だって、あなたの名前を出したことは……うん、なかったはず」

「え?」


 高街?


「藤村さん。高街少佐って、もしかして高街友加里さんのこと?」

「そうよ。同じ部隊だったのなら当然知っているでしょ?」

「いや、逆になんで藤村さんが……」

「お母さまの副官だったからか何度か面識があったんだけど、戦後、よく会いに来てくれてね。たぶん、お母さまのこと自分のせいだって思っているんだと思う」

「じゃあ、あの格闘術も……」

「そうよ。って! そんなことどうでもいいじゃない! 話そらそうとしないで!」

「あ、えっと、ごめん」


 そう言うつもりではなかったんだが……。その名前をまた聞くことになるとはな。最後に顔を合わせたときのことが脳裏から離れなくて……正直、会いたくない。


「あなた、このペンダント渡されたときに、お母さまから何か聞いてないの?」

「……娘から渡された大切なものだって、聞いたよ」

「……そう、なのね」


 藤村さんの表情は、どこか寂しそうでもありながら、少し嬉しそうにも見えた。


「藤村さんの、なんだよね? このペンダント」

「……だったら何?」

「……返すべき、なんじゃないかって思ってる」

「何でよ? もらったものなんじゃないの?」

「……違う戦地になるからって、お守りだってそう言われたんだよ。だから、戻ったら返すつもりだった」

「……そう。……やっぱり、腑に落ちないわ。教えなさい。あんた、何者なのよ。そんなにもお母さまと仲がよくって、しかも秋桜支隊の部隊員? その年齢で? そんな話、ああそうですかって簡単に信じられるわけないじゃない!」

「それは……」

「この間の、あの異常な戦闘力を見て、何かあるだろうとは思ってはいたわよ? でもね、軍人ってだけじゃないんじゃないの? もし軍人だっていうなら、なんで高校こんなところにいるのよ? ……答えなさい!」


 もう、言い逃れはできない。言うしかないだろう。ここまで来たのだ。


「俺は……俺が……」


 言おうとした。そう、決意を決めた、いや、決めようとしたその瞬間、教室のドアが開け放たれた。

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