第84話「行こう」
「お母さまは、あんたなんかに助けてもらわなくたってねぇ……強いの!」
藤村さんは俺が返したペンダントを持ち、見せつけるように突きつけてくる。
「このペンダント、あなたにお母さまが渡したってことは、それだけあなたと親しくて、あなたのことを大切に思ってて、あなたのことを認めてたって! そう言うことなんじゃないの!?」
「藤村さん……」
「それなのに……それなのに何であんたはそんなざまなのよ! 魔法少女だっていうなら、もっと、もっと多くの人を幸せにしなさいよ!」
「ごめん、藤村さん」
「謝るなっ! このっ……ふざけんじゃないわよ」
悔しそうに、藤村さんはペンダントを握った。強く、強く、自分の想いを握りしめるかのように、思いを伝えようとしているかのようにペンダントを握り。
「一緒に来なさい!」
「え?」
「軍に……お父さまのところへ行くわよ!」
「お父さま? それってどういう……」
「あたしのお父さま、参謀総長なのよ。まさか、そんなことも知らないの?」
「参謀総長? ……あっ!」
何回かだけど会ったことがあった。確かに冨士村さんとは気心の知れた仲って感じだったし、だから秋桜支隊のこととか俺の協力のこととか、あんなにスムーズに行ったのか。
けど、それを聞いて得心がいった。重鎮の娘だからこそ、アグレッサー達は狙ったわけだ。これは、俺と一緒に行って軍に保護してもらったほうが良いだろう。
「藤村さんも一緒なのはかまわないけど、戦場には出ないって約束してほしい」
「っ……わかってる、わかってるわよ! あたしが力不足なことくらい、今の私じゃ足手まといなことくらい、もう……痛いほどわかったわよ。それでもねぇ! あたしも相馬原まで行くわ。このままただ何もしないなんて、私のプライドが許さないもの」
「うん……わかった。朱音、涼太郎さんには連絡ついた?」
横にいる朱音はすでにスマホをしまい、晄に肩を貸して立とうとしていた。
「お父さんはもう近くまで来ているみたいなの。すぐにどうにかできると思う」
「わかった。……晄」
「はいです、お兄さん」
「無理は絶対にしないで」
「はいです。それでも、朱音さんが危なかったらどうにもしようがないです」
それはそうだ。どうしたら……ん?
すごい勢いで近づいてくる車の音。なんだ? と思っている間に黒いセンチュリーが猛スピードで迫ってくると、その勢いが嘘だったかのように俺たちの横で軽やかに止まった。
「ご無事ですか!」
そう言って降りてきたのは、いつもよく見るドライバーの執事さんだった。
「朱音お嬢様。お話はご主人様から聞いております。すぐに車内へ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
晄と朱音はそのまま執事さんに補助されながら車の中に乗り込んだ。そのまま執事さんも運転席のドアを開け、そこでふとこちらを見た。
「……ご武運を」
「っ! はい。二人をよろしくお願いします」
「この命に代えましても」
キリっとした表情で答えた執事さんは丁寧にお辞儀をすると、素早く運転席に乗り込みそして走り去って行った。……何者なんだあの人。
「さて、藤村さん。行こう」
「そうね。急いでいくわよ」
そう言うと走り出しそうになった藤村さんの腕を優しくつかみ止める。
「何よ」
「このほうがはやいよ」
「へっ? なっ……なにするのよ!」
何って、いわゆるお姫様だっこと言うやつである。
「藤村さん。しっかりつかまっててね」
「え?」
俺が足にブルートの力を込めて腰を深く落とすと、地面のアスファルトがクモの巣状にひび割れた。
「なに? ちょっと……まさかっ」
俺は全力で跳躍する。
「ちょっ……ちょっと……あ、えっ……うぁぁぁぁぁぁぁっ!」
藤村さんの悲鳴をBGMに、俺たちは五分足らずで相馬原へと移動した。
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