第85話「どういうことよ」

 到着してからの流れは、あまりにもスムーズだった。

 藤村さんがいたことで、父である藤村真護ふじむらまもる参謀総長に直接回線が繋がったのは大きかっただろう。まあ、駐屯地警備にあたっていた軍人の反応から察するに、魔法少女が来た! と、それはもう興奮気味に連絡していたのも確かなので、それもだいぶ大きい気はするが。

 そんなわけでとんとん拍子に事は運び、俺と藤村さんは今、参謀総長室の前にいた。

 同伴していた軍人がドアをノックし、


「お連れしました」


 と言うと、短く。


「入れ」


 渋い声が聞こえた。……聞き覚えがある。

 俺は第三次東都防衛戦終結後に相模湾に立ち寄った後、そのまま逃げるように行方をくらましてしまったのだ。今更ながら、どんな顔をして参謀総長に会えば良いのかわからない。

 ここまで来て言うのもなんだが、とんでもなく緊張してきた。


「失礼します」


 そう言って同伴してくれた軍人がドアを開けてくれたので、俺と藤村さんは中に入る。

 するとそこには、厳かなデスクの椅子に腰かけた、記憶通り貫禄たっぷりの白髪でガタイのいいおじさんが座っていた。赤い絨毯と白い壁というこの一室のレイアウトが、その人の壮大さをさらに強調しているような気さえする。


案内あないご苦労。下がれ」

「はっ!」


 参謀総長の一言で軍人は外へと出て行った。分厚いドアが閉められ、この部屋には俺と藤村さんと参謀総長の三人だけとなる。

 すると、参謀総長は立ち上がり、こちらへと近づいてきて頭を下げた。


「すまなかった」

「え……」

「お父さま!? どういうことよ……」


 予想外のことに、俺だけでなく藤村さんも驚きを隠せないようだった。

 ゆっくりと頭をあげた参謀総長は、藤村さんへ目をやり。


「このお方を連れてきてくれて感謝する。もう、大丈夫だ。戻っていなさい」

「っ! 冗談じゃないわよ! ここでも私を爪弾きにするつもり!?」

「……言うことを聞きなさい」

「っ~~~~!」


 藤村さんの怒りが今にも爆発しそうになっているので、そうするべきかはわからなかったが、俺は話に割って入ることにした。


「参謀総長閣下、お久しぶりです。……こうして私がここにいられるのは、ひとえに彼女の助力あればこそ。どうか、同席させてはいただけませんでしょうか?」

「……貴君がそう言うのであれば、そのようにしよう」


 とは言ったものの、どうにも納得しているようには見えない。藤村さんも俺の助け舟とか怒りそうだけど、勘弁してほしい。……顔見なくても怒っているのがわかるから。

 そんな嫌な空気などものともせずに、参謀総長は口を開いた。


「地球防衛において、多くの責務を若い貴君に背負わせたことを私は今も悔やんでいる。私の力不足故、貴君が多くを悩み、苦しんだであろうことは想像に難くない。全人類を代表し、一度謝らせてくれ」

「いえ、そんなことは……」


 まさか、そんなふうに思ってくれていたとは。

 そう、少し気が楽になった途端に、藤村さんが横やりを入れてきた。


「お父さま。どういうことよ」

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