第83話「ごめん」

 俺は残る二体のうち、リーダーであろう大柄のアグレッサーに狙いをつける。


エマムカ悪魔め……」


 臨戦態勢を維持しながらも苦々しい表情でそう言ったアグレッサーの懐に飛び込んだ。大柄のアグレッサーは俺の動きにまるで反応できていない。


「話を聞いてもらうつもりは、あいにくないんだよね」


 それだけ答え、容赦なく備蓄器官を拳で貫こうとしたのだが、その間に割って入ってきたのは、残っていたもう一体のアグレッサーだった。

 間に入ったアグレッサーの腹部に拳が突き刺さってしまった。これでは致命打とはならない。

 それでも、俺の攻撃のダメージはアグレッサーの自然治癒力を上回っているはずだ。


イアサ隊長ヅケチスコこのことを……クオヘツトォドモヲトコノクオヤィチアタ戻って報告してください


 それだけ言い終えたアグレッサーは、俺の腕が突き刺さったまま、間もなく死に至る。残るはこの隊長とやらだけだ。


「ッ! エラツトォスクくそったれ!」


 戦うことをあきらめた大柄のアグレッサーは、俺に背を向け逃げようとしはじめたが……逃がすわけないだろ。

 俺は、胴を突き刺さしたままだったアグレッサーから腕を引き抜くと、頭部を胴から引き千切り、全力で大柄のアグレッサーへと投げつけた。


エツタァガイボサエトメヂアチオナクバ!部下の遺体を弄びやがって!


 さすがに隊長とも言うべきか、後方から飛んでくる遺体に気付き、サイドステップで瞬時に避けてみせた。だが、当然その動きも織り込み済みだ。

 俺はアグレッサーが避けたその先に瞬時に飛び込むと同時、拳にブルートを溜め突き出す。


アゴノメカバッ化け物がっ!」


 もう、どうあがいても避けることも反撃もできないと理解したからか、苦し紛れのようにアグレッサーがそう言ったのとほぼ同時に、俺は大柄のアグレッサーの備蓄器官を正確に拳で貫いた。


「化け物か。……知ってるよ」


 間違いなくアグレッサーにとって俺は、戦場の悪魔だろう。

 アグレッサーの部下の遺体だって、別に弄んだつもりはない。ただ、ああする以外に即確殺する手段がなかった。そして、そうしなければ、朱音や晄、藤村さんに被害が及ぶ。

 綺麗ごとだけで片づけられるほど、戦場は甘くないんだ。


 大柄のアグレッサーが息絶えたのを確認した俺は、藤村さん達のほうへと向き直る。


「渚くん!」


 朱音は、そう叫びながら涙を流していた。俺が戦っているのを見たのは初めてで、相当に衝撃を受けたのだろうな。藤村さんも信じられないものを見たような顔で放心状態だ。

 俺が、三人の元に駆け寄ると、急に力が抜けたように晄が地面に崩れ落ちた。


「晄っ!?」

「大丈夫なのです、お兄さん。少し、疲れちゃったんだと思うのです。安静にしていれば大丈夫です」

「そう、ならいいんだけど……」


 そうは言っても晄の声は今にも消え入りそうだ。でも、気を失ってはいないし、呼吸も正常だ。致命傷ではないだろう。


「晄、ありがとう。二人を守ってくれて」

「当たり前、なのですよ」


 弱弱しいながらも、晄は笑顔を見せてくれた。

 万が一に備えて、朱音と藤村さん二人のところに晄がいたからこそ、俺は全力で戦えた。もし、ビームをもらしても晄が防いでくれる。そう、信じられたから。

 晄がいてくれたことは、俺にとって大きな助力だったのだ。


「朱音。涼太郎さんに連絡を入れてくれる? もし何かあったら大変だから」

「うん! わかった!」


 朱音はスマホを取り出し、ダイヤルし始めた。それを確認したところで、俺は藤村さんのほうへと向き直る。


「藤村さん……ごめん」


 俺の謝罪にも、藤村さんは困惑と言った表情を見せるだけだった。それでも俺は続ける。


「嘘ついててごめん。黙っててごめん。本当のことを言えなくてごめん。力不足でごめん。お母さんのことは……その……」


 守れなくてごめん。そう言うのは違う気がした。でも、言葉が思いつかなくて、うつむいてしまった俺に、


「違うっ!」


 藤村さんはそう言って睨んできた。

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