第69話「決めた答えは曲げずに」
「十条晄さんの意思もあったから、比較のための追加検査もしてもらったんだよ。おかげで、細かい情報が得られたんだ」
「……」
渡された資料に書いてある内容をざっくりまとめるとこうだ。
晄の変化も俺の変化も、ブルートを使用していることから来ている、というのは最初の推測通りでほぼ確定。そして、俺自身の現在の肉体の変化は、戦時中の常時変身状態が長期間であったため、ここまで進行したのも確定的。
現に、変身後の少女の姿に引っ張られるようにして、俺の素の体の成長も初変身時から完全にストップしているのだという。
育ち盛りなのに、一向に背が伸びなかったのは、遺伝だけが原因じゃなかったんだな。
晄が、ブルートの使用によって元の肉体構造へ戻していくことも可能というのも、ほぼ間違いないらしい。
晄が言っていたという、お手伝いとはこれの確認作業か何かだったのだろう。
ようは、仮説が事実であったと証明できたというわけだ。
新たに分かったこと且つ、少々安心できたのは、短時間変身することによる肉体の変容速度は、そこまで大きくないと推測されるということだ。これは、俺の肉体変化と変身時間、変身頻度から割り出したらしい。ただ、大きな力を使った場合に同様であるかは定かではないため要注意とも書いてあったが。
「幸城渚くん。進んだら絶対に戻れない。後で悔やんでも、取り返せないんだよ。……それでも、気持ちは変わらないかい?」
「はい。……今力を使わなければ、もっと大きな後悔をすると思いますので」
どんな体になったとしても、俺が俺であるという事実は変わらないはずだから。
「……そうか、わかったよ。朱音はどうだい?」
「え、あ、うん」
急に話を振られるとは思っていなかったんだろう。慌てたようにあたふたしたが、それでもごくりと生唾を飲み込むと、決意のこもった瞳で涼太郎さんと俺を交互に見た。そして……。
「私は渚くんの味方だから……受け入れる以外の答えはないつもりだよ。もちろん……本心を言えば、もう変身しないでほしい……。でも、きっと、それじゃ何も解決しないし、渚くんも前に進めないんだよね?」
「朱音……」
「でも、渚くん。一つだけ約束して?」
「約束?」
「うん。……どんなことになっても、どんな姿になっても、絶対に私と一緒にいるって。そばにいるって……約束して」
俺のそばにいると、一緒にいると、朱音はずっと言い続けてきた。その言葉の裏には、朱音の想いがあったのだと今になって理解した。
約束して。今までの朱音なら、到底使わないような強い束縛の意味を持った言葉だ。それは、本当の意味で、朱音にすべてをさらけ出せるのかと、そう聞いてきているのだ。
……もちろん、答えは決まっている。
「絶対だ。俺は絶対、朱音と一緒にいる……いや、一緒にいたい」
「渚くん……」
まるで、プロポーズでもしたかのような気分だ。……気恥ずかしい。
「でも朱音。そう言ったからには、意地でも一緒にいるからね? 逃げたくなっても知らないよ?」
苦し紛れに冗談を言ってみたのだが。
「うんっ! ありがとう、渚くん!」
いやいや、そこは感謝するところじゃないと思うんだけどな。そう思いつつも、自然と笑みがこぼれてしまう。朱音も何かを決めたようで、涼太郎さんのほうへと向き直り。
「お父さん、決めたよ……。私は、栃木に逃げる」
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