第27話「アグレッサー」

 降りたところの横には、大きな広場のある公園があった。藤村さんは終始外を見続けていたわけだから、その時に何かを見つけたのだろう。

 階段を下り、木々に囲まれた公園内に入っていくと、


「大丈夫ですかっ!」


 慌てたように叫ぶ藤村さんがいた。横には一人の男性がうずくまっている。


「藤村さんっ! 彼は!?」

「さっき、倒れたのが見えたのよ。あたしは救急車呼ぶから、あんたが看ててあげなさい」

「あ、うん」


 藤村さんは、ポケットからスマホを取り出すと、すぐにかけ始めた。俺も何かを……いや、何をすればいいのかわからない。


「あの、大丈夫ですか?」


 とにかく、状況をわかる限り聞いてみよう。


「ア、ア……ッ!」


 辛そうにうめき声を出すばかりで、何を言うでもないと思ったら、縋りつくように俺の両足をつかんで、


ウ、オラヅコズ……オドド?ど、同族……だろう? 」

「え?」


 一瞬、何を言っているのかわからなかった。


アコニアナヤィジュコズオド?同族じゃないのか?

「っ!」


 体中に悪寒がはしった。反射的にバックステップで距離をとってしまう。


「おまえ……」


 苦しそうに顔を歪めながらも、そいつは這うようにして俺に縋りつこうとしてきた。


アドンイイエヂソクサチグシア……。エネルギーを分けてくれ……。クチニケグウヤィケルケ。急激に使いすぎた。テカヲワーイグレネッ!少しでいいんだっ!

「っ!」


 最後の力を振り絞ったようだが、とうとう突っ伏してしまう。

 死にはしないだろう。……いや、死んでくれたほうが良かった。

 ただ、で死ぬほどこいつらは軟じゃない。

 そして、ブルートが切れたということは当然……。

 倒れたそいつの体が淡い光に包まれて行き、露わになる。

 薄く青白い肌。ミントを思い起こさせる、淡いエメラルドの髪。

 なによりも、手の指は四本しかない。


「藤村さん!」

「なによっ! 今、救急隊の人に……」

「今すぐ走って逃げろっ!」

「何言って……っ! アグレッサーっ!」


 藤村さんは、急病人の正体に驚きを隠せないと言った様子で、目を見開き固まってしまっていた。


「藤村さんっ! 何やってんだ!」


 藤村さんは、手に持っていたスマホを滑り落としたまま立ち尽くしている。恐怖で足がすくんでしまっているのか? 今であれば、ある程度逃げることもできるのにっ!

 ブルートを切らしたばかりのアグレッサーは、数十秒間動きが緩慢になる。

 その間に逃げてくれれば、俺が足止めできる。


「藤村さん! 何やってるんだよ、早く逃げて!」


 アグレッサーは、ゆっくりと上体を起こしはじめていた。もう、猶予がない。


「藤村さん、早くっ!」

「何言ってるのよ! あなたが逃げなさい!」

「……え?」


 藤村さんは、俺の言うことを無視して駆け寄ってくると、アグレッサーとの間に立ちふさがったのだ。


「幸城君は逃げなさい! ここはあたしが足止めするわ!」

「ダメだ、勝てるわけないよ! 今は逃げないと!」

「うるさい! こんな弱りかけくらい、あたしにだってやれる!」

「っ……」


 駄目だ。何を言っても聞いてくれないっ!

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