第28話「絶対的脅威」
どうする。俺一人であれば、力を使って逃げ切ることができる。だが、藤村さんの前で力を使うわけにはいかない。いや、藤村さんが死んだら、元も子もないだろう……正体がばれてでも力を使うのが先決か……使わなくても、ブルート切れのアグレッサーとなら互角に渡り合えるか……っ!
「しまっ……!」
考え込んで、俺の意識がそれた一瞬の間に、アグレッサーは立ち上がり、しっかりと俺たちをとらえていた。
「
アグレッサーは、俺を睨みつけていた。おそらく、俺の中に残るブルートを感知して勘違いしてくれたのだろう。……これは、好都合だ。
俺を囮にすれば、こいつを藤村さんから引きはがせるかもしれない……。
「
アグレッサーは勢いよく地を蹴ると、藤村さんに向け拳を振りかぶった。
「まずいっ! 藤村さん!」
俺がそう言った瞬間、耳を劈くような発砲音がこだました。
「え……」
状況が飲み込めない俺の耳に、
「グガァァァァァァァッッ!」
アグレッサーの悲鳴が続き、目の前のアグレッサーが足を押さえて苦悶の表情でうずくまる。
藤村さんは、咄嗟に右斜めに回避したようで、アグレッサーの背後で銃を構えて立っていた。
どういうことだ。
一般市民の銃所持が禁止されているこの国で、拳銃? しかもあれは、戦時中に一般兵が持っていた対アグレッサー用特殊弾専用拳銃、通称七九式拳銃特型だ。
スライドの先端下部が斜めにそぎ落とされた形状と、跳ね上がりを抑えるために銃口側へ重みをかけるデザインは、大戦中何度か目にした姿、そのままだ。
ということは、撃たれたのは通常弾でないはずで、当然弱ったアグレッサーには効果てきめんだろう。
実際、弾が直撃した右足を抑えたアグレッサーは、そのまま動きを止めていた。
「幸城君、逃げなさい! ここは私がっ!」
藤村さんは、右片手で持った拳銃をアグレッサーの背後から撃つが、一発目と違い今回は奇襲ではない。さすがのアグレッサーも、その驚異的な身体能力をもってすれば単発の銃弾を避けることは容易だとでも言うように、軽く横に飛び込み回避して見せた。
「
アグレッサーの足は徐々に治癒しているらしく、右足を庇いながらも立ち上がると、左足をバネのように使って勢いよく藤村さんに近づいていく。
「藤村さんっ!」
驚きに顔を染めながら藤村さんは銃撃するも、照準を合わせられずに弾丸はそれてしまう。
くそったれっ!
俺は、身をかがめて足の筋肉を最大限活用して二人の間に飛び込み、アグレッサーが振り下ろした腕が藤村さんに直撃する前に、アグレッサーの胸部へ拳をいれた。
「クッ!」
苦悶の表情を浮かべたアグレッサーは、軽く後方へ飛ばされるも、難なく着地して見せた。
やっぱり、力を使わないと分が悪いな。右手がむちゃくちゃ痛い。
「藤村さん撤退を……っ!」
振り返り、そこまで言ったところで気づいた。藤村さんの左腕が、ぶらりと垂れ下がっている。
「藤村さんその腕っ!」
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