第7話「魔法少女と呼ばれた幻想」
『終戦から約一年半がたとうとしています。歴史的建造物にあふれ、その町並みから観光客が絶えることのなかった京都の復元に、多くの人々が協力しております』
定点カメラで撮ったのであろう京都の街並み復興の推移が、テレビに映し出されていた。続いて、人の戻り始めた大阪の様子が映った。
『関西住民の足である大阪環状線は、未だ利用できない区間はあるものの、復興への希望を乗せ、電車が走っております』
晄の作った朝飯を、何とか胃の中に流し込みながらテレビを眺めていると、画面がスタジオに切り替わり、コメンテーターに話題がフラれていた。
『各地の復興は、目覚ましいものがありますね。こうして平和が保たれているのも、ひとえに、魔法少女と呼ばれた日本人の少女の力が大きいでしょうね』
勝手なことを言ってやがる。少女が、水色のフリフリファンシーな衣装で戦ってるからって魔法少女あつかいするとか、魔法少女に失礼だろ。
「魔法少女はたとえ侵略者であっても、軍と一緒になって殺したりしないっての」
本当の魔法少女だったら、もっと上手に多くの人を平和にしたはずだ。
「お兄さんは、魔法少女のことになると熱いですよね。ちょっと引きます」
「地味にグサッとくるな。どこで覚えたんだよ、そんな言葉」
「え? テレビですよ?」
「なるほどね」
晄は、俺の向かいでちまちまと焼き魚を口に運んでいた。晄もすっかり箸の扱いが板についているな。食欲旺盛なことが習得を速めた理由かもしれないが。
ただ、俺は朝からこんなにしっかり食べられるほど、元気な胃をしていないんだ。
「ごちそうさま」
「お兄さん。今日もお残しですか? 許しまへんでーっ!」
なんだそれは。それもテレビで見たのか?
「悪いけどさ、晄。もう少し少な目にしてよ」
「そうですか? でも大丈夫ですよ。残った分は私が食べますから」
そう言って満足げに笑った晄は、俺のおかずやご飯も自分の周囲に並べていく。
「あんま食べてると太るよ?」
「地球人に比べて太りにくいので大丈夫だと思いますよ?」
「ああ、そうですか」
俺の忠告など、どこ吹く風といったようにご飯を胃に入れていく晄を尻目に、自室へ向かった。
戦後、群馬に疎開してきて、もう一年以上経つ。こっちでの生活にもなれてきた。今日から俺は高校二年生だ。
去年の夏ごろに、戦争孤児をはじめとした被害を受けた子供たちの受け皿として廃校舎を使った学校が始まった。豪華な宿舎も提供してもらえているので、何不自由なく生活を送ることができる。生まれ故郷である東京には未練もないし、復興作業で資材不足の首都なんて、住むには最悪だろうから、この暮らしはご時世的にも恵まれているだろう。
「さてと」
昔ながらの詰襟制服に袖を通すと、去年と変わらず自分の体が小さいことに辟易しつつ、リビングへ。俺、育ち盛りのはずなんだけどな。
「じゃあ晄。行ってくる」
「あ、はい。行ってらっしゃい、お兄さん」
ご飯の片手間のように俺を送り出す晄は、出会った当初とは別人のようだ。勿論、いい意味で。会ったころの死んだような瞳を覚えているからこそ、今の平和には感謝していた。
けど……。
「いつ崩れるかなんて、わかんないんだよな」
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