第6話「日曜あさの現実」

 平成三十一年九月一日。未来永劫、この日を人類が忘れることはないだろう。


 その日、外宇宙から突如として現れた謎の知的生命体は、人知を超える超常的な力により、地球の侵略を開始した。侵略者は青白い肌に紅の瞳をもち、髪は色素が薄い青や緑系統が多く、手の指は四本で足の指は六本あったが、二足歩行の人型知的生命体であったという。


 前触れも勧告もなく主要各国は奇襲され、日本をはじめとした多くの国に侵略者は同時降下し、侵攻を開始した。これに対話を試みようとした国もあったらしいが、ことごとく失敗。九月三日、国連が未知の脅威との開戦を発表し、各国は軍事力によりこれの迎撃にあたった。しかし、侵略者の身体能力は戦闘機や戦車にも匹敵し、驚異的な機動性に翻弄された各国の軍は、劣勢を強いられていた。


 そんな中、奇跡的な勝利を挙げたのは日本軍だった。

 東京へ襲来した侵略者の降下部隊を殲滅。大阪を占領した敵部隊が、東海道沿いを東進してくると、御殿場三島付近に展開し、迎え撃った。


 その快挙の立役者は、なんと一人の少女だったという。

 少女の目撃証言は瞬く間にネット上で拡散され、偶然にもその姿が映りこんだ映像がニュースになったことで、戦場伝説でないことが明らかにされた。


 くわえて、少女のいで立ちがあまりにも軍人とは思えないものであったことが、さらに世間を騒然とさせた。纏っている戦闘服が、水色を基調にしたフリル付きのファンシーなワンピースだったのだ。

 戦場に不釣り合いな姿でありながら、人類を守るために戦う少女。

 誰が言いだしたのか、瞬く間に少女は、魔法少女と呼ばれるようになった。


 平成三十二年九月六日。魔法少女の活躍により活路を見出した各国は、どうにか侵略者を撤退させることに成功した。けど、この戦いで多くの命が失われ、人々の大切なものが奪われた。残った爪痕は、あまりにも深い傷跡として今もなお、人々の心を抉り続け、埋めてくれるものなどありはしない。


『私は、一人でも多くの人々を救って見せる! だって、それが魔法少女だから!』


 お父さまにあてがわれた疎開先のマンションの一室で、つけっぱなしにしていたテレビの音が耳に入ってしまったのは不覚だった。叫んでいるのは、可愛らしいフリフリの衣装で戦う魔法少女アニメの主人公だ。


 あたしは、もうじき高校二年生になる。

 幼少期は楽しんで観ていたはずの魔法少女アニメが薄っぺらいと気づいたのは、最近のこと。長らく見ていなかったから、気づきようもなかったんだけど。


 相も変わらず毎週日曜日の朝八時三十分に放送しているらしいこのアニメは、今日も道徳と幻想をはき違えて、地球を救った英雄であるらしい魔法少女を美化した内容を垂れ流し続けている。


『魔法少女は、誰も見捨てたりなんかしない! 諦めないもん!』


 アニメの中の作り物の魔法少女の言葉なのに、あたしはやるせない気持ちになる。

 嘘ばっかりだ。魔法少女を信じることなんかできない。誰かが守ってくれるなんて、そんなの強者に縋りたい弱者の妄想だ。


「お母さまを、見殺しにしたくせに」


 ぶつけるあてのない気持ちが、口を突いて出てしまう。

 でも、涙は流さない。あたしは藤村家の娘、藤村祥子。強くなること以外に道はない。

 魔法少女も、腐った侵略者共も、あたしが残らず殺してやるために。

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