第4話「地球外知的人型生命体」

 そうして、車に揺られること三十分。こっちに引っ越してきてから、何度となく訪れた藤本家に到着した。朱音の父の実家である。


 一軒家としては大きめな庭付き一戸建て二階家だが、センチュリーが停まるほどの豪邸という感じがしないので、車が浮いてしかたない気がするのは俺だけだろうか。

ドライバーさんは、執事的な仕事も兼任しているらしい。ドライバーさん、もとい執事さんが家のドアを開けてくれたので、朱音に続いて俺と晄もお邪魔した。


「お父さん。渚くんたち、来てくれたよー」


 朱音が普段よりも声を張って呼ぶと、家の奥からスリッパの音が近づいてきた。


「どうも、幸城渚くんに十条晄さん」


 いつも通り、わざわざフルネームで俺たちを呼びつつやってきた男性は朱音の父、涼太郎さんだ。親子とは思えないほど身長は高めで、朱音と同じ点を上げるとすれば栗色の髪くらいだろう。さっぱりと散髪されたその風貌に銀縁メガネが利発さを強調している。


「お医者さん先生。よろしくお願いします」


 晄が丁寧にお辞儀をしたので、俺は軽い会釈だけしておく。


「十条晄さんも、すっかり日本人のようだね。さあ、どうぞ。適当な格好で悪いね」


 ワイシャツにスラックスと言う服装は、どう見ても適当な格好ではないと思うんだが。

 などと社交辞令にわざわざ突っ込むバカではないので、黙って涼太郎さんについていく。

 階段を上がった先の奥の部屋が目的地。涼太郎さんの書斎である。


「えっと、お父さん。私は部屋の外で待ってるね?」

「そうだね。朱音は、リビングでゆっくりしてると良いよ」

「うん」


 一人下へと降りて行く茜を見送り、書斎に入る。室内のデスクまわりは、まるで病院の診察室のように、いろいろなものが並んでいた。本棚には、大量の本や専門書。そして、フワフワしてそうなベッドとソファーとシックなテーブルがあることを除けば、まんま診察室の様相だ。


 一番に入っていった涼太郎さんは、デスクの上のリモコンを何やら操作した。すると、すぐに部屋のカーテンが自動ですべて閉まっていく。


「幸城渚くん。部屋の鍵を閉めてもらえるかい?」

「はい」


 指示に従い内鍵を閉めると、涼太郎さんは優し気な笑顔とともにうなずいて、デスクの椅子に腰かけた。


「では、十条晄さん。いいかな?」

「はい」


 そう答えた晄は、ワンピースを脱いでいく。透き通るような肌に下着だけをまとったその姿は、幼い容姿と相まってとてつもない破壊力、もとい、犯罪臭がしてしまう。


「っ……」


 いつも、何とも気まずい気分になるなこれは。

 俺がよこしまな発想をしているだけで、これはれっきとした診察なのだから気にする必要はないのに。

 とはいえ、年頃の男の子としては少々刺激が強すぎる。

 そう思ってつい最近、立ち合いを辞退する旨を伝えたのだが、俺がいたほうが安心して落ち着けるからという理由で晄に却下されてしまったのだ。


「十条晄さん。それではお願いできるかい?」


 涼太郎さんの言葉に続けてうなずいた晄は、ゆっくりと深呼吸し……。


「偽装……解除します」


 その一言と共に、晄の体が淡い光に包まれた。光は次第に剥がれ落ちていき、隠されていた姿が露わになる。


 薄く青白い肌。ラベンダーを思い起こさせる淡い紫の髪。そして、紅色の瞳。四本しかない手の指や六本ある足の指など、細かいところが違う。


 その姿は……。



 一年前、地球を襲った地球外知的人型生命体アグレッサーの特徴と同じ姿だった。

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