第89話「手紙」

「お母さまから、私に向けた手紙。お父さまが隠し持っていたらしいわ。これを読んだら、絶対に軍人になるって言いだすだろうからって。近いうちにまたアグレッサーと戦争になる可能性があって、そこで私まで戦地に送るのは嫌だったんだって、そう、言っていたわ」

「そっか……」


 親としては当然の気持ちだろう。でも、伝えなければわかりあうことはできないんだ。


「それで、手紙はどんな内容だったの?」

「あたしへの想いとかもあったけど、幸城君のことも書いてあったわ」

「俺のこと?」

「そうよ。これ」


 そう言って渡されたのは、長方形の封筒だった。


「読んでも?」

「どうぞ」


 俺は中から手紙を取り出し、読み進める。

 


 拝啓


 この手紙を祥子が読んでいるということは、辛い思いをさせてしまいましたね。ごめんね。

 どんな言葉を選んだらいいのかわからないけれど、祥子との時間をあんまり作ってあげられなくて、ごめんね。それでも、祥子には前を向いて進んでほしいです。

 無理はしないでください。復讐とか考えて、それだけのために戦地に赴くのは絶対にやめてください。祥子は自分の信じる道を歩める子です。戦うだけが全てではありません。しっかり考えて信じた道を貫いてください。

 それでも戦う道を、私や真護さんと同じ道を選ぶというのなら、止めません。でも、真護さんを納得させるのは苦労するかもしれませんね。

 祥子に渡されたお守りのペンダント、返せなくてごめんなさい。でも、あのペンダントがあったから、今まで私は無事に戦い抜いてこれたんです。

 ありがとうね、祥子。

 最後になりますが、祥子の大好きな魔法少女のことを伝えておこうと思います。

 実は私は、魔法少女の本当の正体は知りません。

 でも、その正体が人間であるかは関係ないと、そう思っています。

 一緒に笑って、泣いて、戦ってきたからこそわかることがあります。

 魔法少女はまだ、きっと祥子と同い年くらいの女の子で、私たちと同じように大切な人を奪われた被害者なんだろうと思います。

 どうしてあれだけの力を手に入れて、戦う道を選んだのか、私にはまだわからず、そして聞くこともできていません。

 魔法少女はとても責任感が強い子です。だから、もし私に何かがあったら、彼女は自分を責めてしまうでしょう。それが少し気がかりではあります。

 いろいろな問題が山積みで、真護さんは戦後処理が大変でしょうね。

 真護さんは立場もありますし、祥子のことを怒らせちゃうかもしれませんが、不器用な人なので少しは許してあげてね。

 長くなりましたが、私はいつまでも祥子の成長を見守っています。

 祥子。愛しています。

 元気で、頑張ってね。


 敬具



「冨士村さん……」


 涙が止まらなかった。どうにもならないくらい、俺の心を支えてくれたあの人に、俺はどれだけのことができたというのだろう。


「幸城君」


 藤村さんはただ、ゆっくりとハンカチを渡してくれた。


「……お父さまには謝ってもらったわ。あたしのことを苦しめていたって、そう言ってくれた。あたしもあなたに謝らなくちゃいけないわよね。考えなしに思い込みで銃を向けたことすらあったんだから。……本当に、ごめんなさい」


 俺は涙をぬぐい、あふれ出そうになるのをぐっとこらえながら首を横に振る。


「俺の身勝手が生んだ結果なんだ。そう思ってる」

「……聞いたわよ藤本さんから」

「え?」

「相模湾防衛戦で持ち場を離れたの、藤本さんのお母さんを助けるためだったって」

「朱音が……」


 この間、栃木への疎開を一日遅らせることにしたのは、俺が藤村さんに真実を話すだろうことを察したうえで、俺を弁護するためだったんだ。


「お母さまには、相談したんでしょ?」

「……うん」

「そうしたら、行きなさいって言うわよ。お母さまなら絶対」


 そう言った藤村さんは、嬉しそうで誇らしそうだった。


「けど、俺は……そう言われることを期待して、朱音のお母さんのことを話したんだよ」

「あんた、本当に手紙に書いてある通りね」

「え?」

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