第14話「幼馴染との放課後」

「朱音、心配かけてごめん。……帰ろう?」

「……うん」


 俺が歩き始めると、半歩遅れて朱音はついてきた。何か、気持ちを切り替えられるような気の利いたことでも言えたら良かったのかもしれないが、残念ながら俺はそういうイケメンスキルの持ち合わせがない。


「朱音はどうだった? 新しいクラスは」

「あ、えっとね……」


 完全に話題をそらしたわけだが、朱音もそのことについて言及してくることはなかった。

 こうやって他愛のない会話をしながら帰宅できることが、本当に平和を謳歌しているという気がして心地いい。


 青春気分を存分に満喫するには、ものの数分で着いてしまうマンションの立地には不満不平をもらしたくもなるが、それはさすがに傲慢というものだろう。

 マンションの前には朱音宅のセンチュリーが停まっていた。つまり、朱音とはここでお別れなのだが……。


「渚くん」

「なに?」

「今日、うち寄って行かない? お昼まで少し時間あるし、もう少しお話したいなって」

「そうだね」


 そんなに長居しなければ問題ないだろう。晄が家でご飯を作ってくれているだろうから、ゆっくりはできないが……。


「お邪魔しようかな」

「うんっ」


 朱音も嬉しそうにしてくれるので、当然断る理由もないだろう。

 促されるまま、俺もセンチュリーに乗り込み揺られていく。

 朱音が学校前まで送り迎えしてもらわないのは、目立つのが嫌だかららしいが、こうして一緒に帰ることが多いので、俺と帰りたいからマンションの前に迎えに来てもらっているのではないか、なんて、思ってみたりする。……そんなわけないけどね。


 朱音は、新しいクラスにそこそこ仲の良かった子がいたので安心したとか、担任が優しそうでほっとしたとか、勉強難しくなりそうで不安だとか、今日の出来事を含め、楽しそうに話してくれる。

 それに俺もなんとなく返していると、朱音の家に着いていた。


「ただいまー」

「お邪魔します」


 二人で朱音宅に入り、一言挨拶しようと俺も朱音とリビングへ顔を出した。すると……。


「お兄さん! お疲れ様ですっ!」


 なぜか晄がそこにいた。リビングテーブルの椅子に腰かけ、あたかも住民であるかのように我が物顔で。


「晄、何やってんの?」

「お邪魔しに来ました!」

「うん。その理由を聞いてるんだけど」

「私が呼んだんだよ」


 俺の質問に答えつつ、台所から姿を現したのは涼太郎さんだった。

 涼太郎さんは両手に一つづつ持っていたマグカップの片方を晄に渡すと、手元に残ったマグカップをテーブルに置き、晄の前に置いてあった四角いプラスチックケースを見せてきた。


「これを、十条晄さんに試していただこうと思ってね」


 中には錠剤がいくつか入っている。


「これは……」

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