第13話「いつも通りに目を背け」

「藤村さんは強いし、影響力もあるから止められるかもしれない。でも、俺がもしあの不良たちを暴力で圧倒したとしても、ターゲットが別の誰かになるだけなんだ」

「そうしたら、助けてあげればいいじゃない」

「助けてあげられる保証なんて無い。根本的な解決にもならないなら、俺は自分が殴られるほうが良い」

「……おかしいんじゃないの?」

「そうかもね」


 真剣にまっすぐに気持ちを伝えたつもりだったのだが、蔑んだ目を向けられてしまった。


「でも、何より俺は誰かを傷つけるのが嫌なんだ」

「……自分を傷つける相手でも?」

「うん」


 できることなら、誰も傷つけたくはない。暴力は最終手段にすらしたくないと思ってる。

 けど、藤村さんには、あきれたようにため息をつかれてしまった。


「……あんたみたいな平和ボケのバカと、まじめに話したあたしがバカだったわ。そんなに殴られたいなら、あたしの目の届かないところでやってくれる?」

「あはは……善処するよ」


 俺のあいまいな返事に、心底軽蔑したように嫌悪を露わにした藤村さんは、


「自分に力がないことにそうやって言い訳をし続けて、努力もしない。そんな生き方をしている人には反吐が出る」


 それだけ言い残すと、颯爽と去っていった。


「これは……」


 間違いなく嫌われたな。


「はぁ……」


 とりあえず仲良くしたいだけなら、こんなこと言う必要はなかったのかもしれない。けど、上辺だけの言葉を並べるのは失礼だと思った。

 藤村さんは、自分の納得がいく正義を貫いている。そんな、強い意志を感じた。

 それと同じくらいかはわからないが、俺も自分の手で誰かを傷つけることが嫌だし、自分の行動が原因で誰かが知らないところで傷つくかもしれないと思うと嫌だ。

 でも、藤村さんの言う通り、無力な自分への言い訳であるのかもしれない。


「俺、やっぱり弱いな」


 これ以上考えても、らちが明かない。

 こういうときは、帰って魔法少女マジカルプリティーを見て、元気を出すのが一番だ。


「帰るか」


 制服に付いた埃を軽く掃い、俺は下駄箱へと向かった。

 靴に履き替え玄関を出ると、


「あ、渚くん」

「朱音」


 俺と目が合うと、嬉しそうに駆け寄って来た。どうやらずっと待っていたらしい。

 そう言えば朝、一緒に帰る約束をしたんだっけな。忘れていた。


「ごめん、お待たせ」

「あ、えっと、そんなに待ってないから、大丈夫だよ……ッ」


 朱音からは、先ほどまでの笑顔が消え、苦虫を噛み潰したような顔で俺の制服を見ていた。


「……渚くん、その汚れ」


 埃は掃ったつもりだったが、どうやらまだ残っていたらしい。心配させたくなかったんだけどな。


「あはは……いつものだよ」

「学年が上がっても続くなんて……先生に言ったほうが良いんじゃない?」


 まるで自分のことのように辛そうな表情をされると、何とも思っていない俺が悪者になったような気分だ。


「いじめ自体がこの学校からなくなるなら、先生に言うのも考えるけどさ。まあ、現状維持が一番無難なラインだろうし」

「……それ、私的には納得できないよ」


 朱音は不満があるようで、うつむきながらふくれてしまう。

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