第12話「幼少期に抱いた想い」

「あたしの認知しているところで、こういうことが起こったから助けたの。見て見ぬふりをして、嫌な思いをするのはあたし自身だから」

「はい……まあ、その……」

「何が原因なの?」

「……それは」


 きっと、原因なんてない。そもそもこの学校は、戦争被害者か戦後処理や軍事に従事していて、養育が満足にできない親の子供が集められた学校の一つだ。まあ、当然例外的な生徒もいるだろうけどな。つまるところ、ぶつける先のない苛立ちや憤りを発散することができない生徒は多いはずなんだ。となれば、目につく気に食わないやつに適当な理由づけをしたうえで発散相手にしよう、となるのは自制心の低いバカ特有の普通の発想だろう。


 なにを言いたいかといえば……。


「そういう気分だったんだよ、きっと」

「はぁ? 何言ってるのあなたは。気分で暴力を振るわれて平然としてるとか、意味がわからない。理解できないわ。どうにかしようと、思わないの?」

「……そうだね。実害を上げるとすれば、時間が無駄になってることと、制服が汚れることくらいだし」


 それに、俺がターゲットから外れるだけでは、ほかの人がターゲットにされるだけだろう。なら、俺は責めを受ける理由があるのだから、解決方法は自分が暴力を振るわれることなのだと思わなくもない。


「あんたバカなの? それとも変態?」

「んー少なくとも俺は、どっちでもないと思いたいかな」


 まあ、いつまでもこのままというのも、最終的には何の解決にもならない。だからこそ、藤村さんの介入は、あの三バカに考える時間を作ってあげられただろうし、良しとしよう。

 藤村さんという影響力の強い人間があそこまでしたのだから、状況が好転すると信じたいものだ。


「あたしからしてみれば、あの三人もあなたも同じ馬鹿よ。目の前の壁を見て壊せないと嘆いて、当たり散らしてる子供だわ。壊せないなら登ってみようと、チャレンジしようと思わないのはなぜなの?」

「……」


 藤村さんと、こんなに長いこと会話をしたのは初めてだ。

 ゆえに、拒否以外の感情に初めて触れた気がする。それは、素直に嬉しい。

 とはいえ、自分の価値観が強すぎる。藤村さんが努力家であることは、なんとなく知っていたが、どうやら努力をしていない他人を許せないタイプのようだ。


「……藤村さんは、魔法少女マジカルプリティーって知ってる?」

「はぁ? なによ急に。日曜の朝にやってる、女児向けアニメよね?」


 関係ない話だと一蹴されるかと思ったが、人の話を聞く気はあるらしい。


「そうそう。そこで、主人公のプリティーが言っているんだ。戦うことでしか解決しないなんて、悲しいことだって」

「それは詭弁よ。戦争でどれだけの人が亡くなったと思ってるの? 何もせずに蹂躙されれば良かったとでも言うわけ?」


 そんなこと口が裂けても言うつもりはない。……けど。


「プリティーは、こうも言っているんだ。それでも、戦わなければわからないことがある。救えないものがある。そのために私は力を使う……って」

「……結局、立ち向かわなければ駄目ってことじゃない」

「それは違うと思うんだ」

「……どこがよ」

「救えるから戦うんだ。自分や仲間だけじゃない。プリティーは敵の気持ちも考えて、いつも苦悩するんだ。全員が幸せになる答えを探し続けるんだ」

「それこそ詭弁よ。あの戦争で生き残っていながら、そんな甘っちょろいこと言っているなんて、とんだ平和ボケね」

「……確かにね」


 そうかもしれない。俺だって、あの戦争で父さんも母さんも殺されて……唯一生き残ったお姉ちゃんは、今も意識不明のまま病院で眠り続けている。それでも、いや、だからこそ、自分ができることを考え続けなければいけないと思っている。

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