第64話「覚悟と共に伝えたいから」

 いつもポニーテールに結われていたつややかで綺麗な茶髪は、今も変わらず維持され続けている。それだけ、姉の世話を丁寧にしてくれているということなのだろうが、それでも徐々に頬がこけ、やせ細っていく姉を見ていると、焦りがこみあげてくる。


 変えられない現実を突きつけられているようだ。

 鼻から挿入されている栄養補給用のチューブが痛々しく映る。


「お姉ちゃん。俺、もしかしたらここに来られなくなるかもしれない。俺の体、どうなるかわからないんだ」


 言葉が届いているのかはわからない。それでも、覚悟を決めるために話す。姉に嘘はつきたくないから。


「藤村祥子って子が、クラスメイトでいてさ。それはもうツンケンしたやつなんだけど……昔の俺にそっくりなんだ。俺、どこかで現実から目を背けようとしてた。涼太郎さんも朱音も、たぶん晄も……もう戦わなくていいって言ってくれるってわかってた。けど、俺はそれを受け入れてしまうのが、自分の価値を失うようで怖かったんだ。馬鹿だよね……俺自身が一番、戦うことを恐れてたのに。逃げたかったはずなのに。……戦う力以外に自分がやってきたことを肯定してくれるものがないって思っちゃってたんだよ。……でも、そうじゃないってわかったんだ。だから、わかった上で、俺は俺とちゃんと向き合って……また、力を使うよ」


 それが正解なのかなんて、わからない。でも、失敗を避け続けていたら、成功もないのだろう。なら、挑み続けなければいけないはずだから。


 俺は首から下げたペンダントを手に取り見つめる。月明かりに照らされた球体のラピスラズリは、満天の星がきらめく夜空のように輝いていた。


「……自分の保身のために言い訳をするのは、逃げるのはもうやめにする。このペンダントは、もう元の持ち主のところへ帰るべきだ。……そういう、ことなんだろう?」


 ペンダントに語り掛けても返答があるわけはないけど、それでも俺は、そうせずにはいられなかった。


「ただ、聞いてほしかっただけなんだ。お姉ちゃんには、また心配かけるけど……。今度は、俺の意思だから。前みたいに、他の道がないから戦うわけじゃない。……俺の想いを伝えるために、全力で戦わなければ伝わらないから……俺、もう少しあがいてみるよ」


 姉の表情が変わるわけもない。それでも、どこか笑ってくれているような気がしたのは、俺の都合の良い勘違いなのだろう。


 それでも良い。

 もう、賽を投げたのだ。

 あとは、立ち向かうのみ。


「おやすみ、お姉ちゃん」


 静かに、ゆっくりと病室を後にした。

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