第78話「頑なな藤村さん」
悲鳴!? ……これは多数。助けを求める叫び声も……。
「くそっ!」
なんだかわからないが、行くしかないだろっ!
俺は悲鳴の聞こえたほうへと全速力で走っていく。住宅街を駆け抜けていくも、声の発生場所がわからない。くそっ! このあたりだろうに……。
そう思った直後、三度、発砲音が鳴り響いた。
「これはっ!」
もう、間違いようがなかった。
細い道へと入っていくと、そこには三人の死体と片手で銃を構える藤村さん。そして、その前に立つ長身のアグレッサーの姿があった。
「キケ、ニンゲン」
「冗談じゃないわ! なんであんたの言葉なんか!」
っ! あいつ、日本語が喋れるのか!? 格好もアグレッサーがよく身に着けていた戦闘用のものじゃない。若者のカジュアルなファッションといった様相だ。擬態して紛れてたのか。
「ムスメ、コロス、ナイ。キケ!」
そう言ったアグレッサーの腕が藤村さんへとのびる。それに反射的に引き金を引いた藤村さんだったが、その至近距離の銃弾ですらアグレッサーは易々と避け、そのまま藤村さんの首をつかもうとした。
その腕を俺はつかんだ。
「ッ!
「そう簡単に藤村さんをやらせるかよっ!」
俺はそのまま腕ごとアグレッサーを持ち上げると、無造作に放り投げた。それでも、アグレッサーはまるで動じることなく、空中で一回転すると平然と着地して見せる。
「
「お姫様? どういうこと」
「
「……質問に答えて」
「
「ああ、そう」
けどつまり、藤村さんを意図的に狙ってきたってことなのか?
いや、そんなことを考えている余裕はない。
「藤村さん! 早く逃げて!」
「冗談じゃないわ! 私も戦える!」
「藤村さん! ……っ!」
一瞬、気をそらしていたのがあだとなった。気づいたときには、アグレッサーの拳が目の前にあったのだ。
それをすんでで、半身動かしてかわすが、それを想定していたようにアグレッサーは左足を軸にターンし、その勢いで蹴りを放ってくる。それを避けるために跳びつつ俺の膝をアグレッサーの顔面に入れてやる。膝がアグレッサーの顔面に触れる瞬間、俺はブルートを込めた。
それに驚き、恐怖に顔を染めたアグレッサーの表情は、次の瞬間、顔もろとも粉々に破裂するかのように四散した。
「はぁはぁはぁはぁ……」
頭の無くなったアグレッサーの体が、重力に逆らえず地面へと崩れ落ちた。
変身もしないまま、アグレッサーと対峙する精神的疲労は計り知れない。完全武装の敵と満足な武器も持たずに裸で戦っているようなものだ。けど、ここで藤村さんを説得するためには正体を明かすわけにはいかない。
「藤村さん! 早く逃げるよ!」
「ふざけないでよ! 逃げるわけないじゃない!」
そう言い張ると、俺をおいて藤村さんはまた走り出した。
くそっ……きりがない。
当然、俺も後を追いかける。さっきは俺を甘く見てなのか、ブルート消費を抑えるためか、アグレッサーは肉弾戦しかしてこなかったが、次も同じとは限らない。この状況を見ていたほかの仲間がいたとしたら、次は集団で来られるかもしれない。今は、逃げてでも態勢を立て直すべきなのに……。
藤村さんはそのまま走っていくと、路地から飛び出そうとして……。
「っ! 藤村さん!」
見えた。それはブルートの光だ。藤村さんの足へ確実に狙いを定めた光が襲う。
くそっ! まにあわないっ!
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