第16話「不穏な動き」
「お医者さん先生!」
晄は、俺たちの会話がひと段落したと見るや、小学一年生に引けを取らないほど元気に手を上げて見せた。
「なんだい? 十条晄さん」
「早速飲んでみますねっ!」
「捕虜のアグレッサーに投与して何度か実験しているから大丈夫だとは思うけど、異常があるようなら早く言うようにね」
「はいっ!」
返事をした晄は躊躇なく薬を口に入れ、水で流し込んだ。
そのまま目を瞑り、少しばかり首をひねって見せた後、パッチリ目を見開き、
「補給されましたっ! 大丈夫です! お医者さん先生、ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をして見せた。可愛らしい所作だな。
「十条晄さんがそう言うのなら、大丈夫なんだろうね。安心したよ。けど、もし何か異常があったらすぐに言ってね? 命にもかかわることだろうから」
「はい! りょうかいです!」
どこで覚えたのか敬礼している晄を、俺とほほえましく見ていた涼太郎さんだったが、ふと何かを思い出したように、俺のほうへと目線を向けてきた。
その表情は少々険しい。どうしたのだろうか?
「幸城渚くん。十条晄さんの件もとりあえず大丈夫そうだし、少しいいかな?」
「……はい、なんでしょうか?」
「ちょっと、気になることがあってね。朱音、少し彼を借りてもいいかな?」
「え、うん。勿論大丈夫だよ」
「朱音は十条晄さんが体調を急に崩すことがないか、見ておいてくれるかい?」
「うん、わかった」
朱音の返事にニコリと笑ってかえした涼太郎さんは、俺のほうへ軽くうなずき同行を促してきた。俺も同じく返すと、先日もやってきた涼太郎さんの部屋へと通された。
今回は特にカーテンを閉めるわけでもなければ鍵を閉めるでもないようだが、空気が重い。何かあるなら早く話してくれ。それとも、言いづらいことなのか?
「幸城渚くん」
「はい、なんでしょうか」
「まあ、座ってくれるかな?」
「はい」
俺は促されるままソファーへと腰を下ろし、涼太郎さんはデスク上にあった資料をいくつか手に持ってやって来ると、向かいに座った。
「これを、見てくれるかい?」
渡された資料は報告書のようなものだった。報告書なんて読んだことないけど。
「これは?」
「読んでみてくれるかい?」
「……はい。……っ! これはっ」
軍の極秘情報。それも、部外秘のとんでもない情報で、要約すると……。
個人が特定できない不審な人物が相馬原駐屯地周辺で多数確認された。任意同行を求めるも拒否され、所持品等からアグレッサーであることが露呈すると擬態を解かれ交戦に移行、捕縛した。捕縛に成功したアグレッサーには尋問を重ねたものの、黙秘を続けている。
今月、他に二体のアグレッサーを発見、討伐。捕縛ならず。
このことから残留したアグレッサーが反抗作戦を企てている可能性大との見方が軍部内で強く、警戒にあたり捜索索敵の強化を図る。アグレッサー残党軍の規模は未だ知れず。
「先生。これ、どういうことですか?」
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