第17話「残党軍の狙い」
「先生。これ、どういうことですか?」
「……見てもらった通りだよ。そして、おそらくそう遠くない段階で襲撃があるはずだ」
それが本当なら、今すぐにでも国民に知らせる必要があるだろうに。第一、アグレッサー達が襲撃を企てているとして、どうしてこのタイミングなんだ?
「……理由を聞かせてもらっても?」
「勿論。そのために、私の部屋に呼んだわけだからね。……結論から言えば、残党アグレッサーの所有しているであろうブルートが、近々足りなくなる」
「どこから、その情報を?」
「試算だよ。十条晄さんの持っていたブルートの量は、捕虜として収監されているほかのアグレッサーの所持量より多い。この一年間、節約していたと考えても情報収集や最低限の食糧調達等で擬態を使わなければならなかったりと、ブルートを消費する機会はあっただろう。とすると、歩兵連隊程度の規模だとしたら、そろそろ底を尽きてもおかしくない計算になるんだ」
……軍は何やってんだよ。なんでこんな土壇場になるまで、この状況に気付かなかったんだ。いや、それよりも俺にとっての問題は……。
「先生。……アグレッサーの探知機はできたんですか?」
出来ているとすれば、晄がアグレッサーとして発見されて襲撃される恐れもある。
「試作はできているんだ。けど、まだ大型になりすぎて、実用するには時間がかかると思う。ちなみにだけど、ブルートの探知機もないよ」
だとすれば、晄が危険にさらされることはなさそうだが……。
「先生。……軍は、魔法少女の力を必要としているんですか?」
「違う、と言えば嘘になるだろうね。探知をして、ことを未然に防ぐには、魔法少女のアグレッサーを見分けられる力が必要不可欠だという意見は出ているよ」
アグレッサーを見分けられる力。それは、実のところ魔法少女のもつ力ではなく、晄の力だった。同族を探知できるというだけのものなのだが、軍は勿論このことを知らない。そもそも、晄の存在を認知してすらいないだろう。それに、魔法少女は現在、軍役から退いて療養中というあつかいになっていると、涼太郎さんから聞いている。ということは、魔法少女を大々的に探すことはできないはずだ。それが、とりあえずの救いだが……。
「……先生。もし、晄が協力できない場合はどうなるんでしょうか?」
「……残党の狙いは、我々に鹵獲されたヴォモス機関だろうね。物資が無くなりジリ貧になるのがわかっている状況を、覆せるだけのものだからね」
ヴォモス機関。アグレッサーの乗ってきた艦艇に搭載されていた動力機関だ。ブルートの力を蓄え、エネルギーへと変換することで艦艇運用エネルギーの全てを賄うことができる。蓄えられたブルートは、緊急時のために備蓄することもでき、もちろん取り出しも可能だ。
そんなものがアグレッサーの手に渡ってしまったら、反抗作戦は激化するだろう。
「……迎え撃てないんですか? そこまでわかっているなら、軍が武装すればどうにかなるんじゃないんですか? この一年、何の対策も打ってこなかったわけじゃないでしょう?」
「もちろんそうだね」
「なら、なんでこの話を?」
困ったように頭を掻く涼太郎さんの様子に、少し反省する。別に涼太郎さんが悪いわけではないのに、八つ当たりのようになってしまったかもしれない。
「幸城渚くん。補給薬の研究を私がやっているのは、群馬の相馬原駐屯地なんだよ」
「それは知っています」
だからこそ、朱音も涼太郎さんもここに住んでいるのだろうし。涼太郎さんに至っては、自身が経営している大病院を、信頼できる部下とやらに任せて来ているくらいだからな。
「幸城渚くん。相馬原は補給薬の研究をしているだけじゃないんだ」
「え? ……それはどういう」
嫌な予感がした。
「これから言うことは、オフレコでお願いしたいんだ」
「……はい」
これからどころか、これまでの話も全部オフレコだろうに、いったいこれ以上何があるって……。
「相馬原には今、ヴォモス機関がある」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます