第二章「責任と覚悟」

第19話「始まりの日」

 その日。


 父さんと母さんは、仕事からまだ帰ってなくて。

 中学二年生になっても帰宅部を続けていた俺は、一番に家に帰ってきていた。

 両親は美術商をやっていて、家にいないことが多く、時には海外へと出ていることも多かった。そんな日々に何を感じていたわけでもなく、少ないながらも魔法少女アニメを語らえる友人がいて、何不自由なく生活を送れていて、この先自分は普通に大学をでてサラリーマンとかをやりながら、いつまでも日曜の朝には魔法少女アニメに熱を上げ続けているのだろうと。


 そう、思っていた。


 何の気なしにテレビをつけるとニュース速報が流れていて、チャンネルを回してもすべて同じ内容が流れていた。



 ――主要各国に未確認生命体が襲来。

 


 目を疑った。意味が解らなかった。

 何の夢だろう。いたずらだろうか。ハロウィンでもないのにそんな酔狂な、なんて呑気に考えていると、玄関が勢いよく開けられた音が響き、続いて焦ったような足音が俺のいるリビングへとやってきた。


「逃げるよ、渚っ!」

「お姉ちゃん?」


 茶髪のポニーテールが乱れていて、よほど焦って走ってきたのだとわかる。


「渚っ! もたもたしないでっ」

「えっ……」


 お姉ちゃんは俺の腕をつかむと、家を飛び出した。されるがまま、腕を引かれて走っていると、お姉ちゃんが困ったように口を開いた。


「こんな時に、パパもママも何やってるのよ」

「連絡つかないの?」

「かけても、呼び出し音すら鳴らないの。回線がパンクしちゃってるのかも」

「……テレビに出てたこと、本当なの?」

「全国に、あんな嘘を大々的に流すわけないでしょ!? 東京も狙われるかもしれないわ。逃げないと……」

「……うん」


 その時の俺は、正直言えば実感がわいていなかった。何か大変なことが起こっているのだろうということはお姉ちゃんの様子から感じられたが、それがどのくらい大変なことなのか、無学な俺はピンと来ていなかったのだ。

 そんな俺に、現実を突きつけてきたのは、天から降り注ぐ青白い光だった。


「え?」


 呆然と日が傾き始めた空を眺めた次の瞬間、その光は東京の街に降り注いだ。

 爆発と轟音が周囲から連鎖的に鳴り響く。わけがわからなかった。

 目を凝らして光の元を見ると、そこには多くの人間のような何かがいた。その人間のような何かの体を覆っているのは、近未来を舞台にしたSF映画か何かで見たことのあるようなパワードスーツに似ていた。そいつらは、ゆっくりと降下しながら手の先から青白い破壊光線を出し、俺の知っている街並みを次々に壊していっていた。

 毎朝のように通る通学路のアスファルトが粉砕した。一度だけ遊びに行ったことのある友達の住むマンションが爆発し倒壊するのが見えた。次々に上がる悲鳴の連鎖はとどまることを知らず、当たり前だと思っていた日常は、俺の知らない地獄へと変わっていく。

 現実とは思えない映画のような光景に、俺は何も考えられなくなった。頭が真っ白になった。


 ああ……これは夢だ。


 そう思った次の瞬間、青白い光がすぐ左の家屋に直撃した。それにより外れた屋根や塀などが飛び散る。それをただ、何もできずに眺めていた。


「危ないっ!」


 お姉ちゃんは俺を抱きしめ、体を張って庇ってくれた。おかげで俺の体には、擦り傷程度しかつくことはなかった。

 けど、お姉ちゃんは頭から血を流し、足を屋根に挟まれていた。

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