第72話「戦友へ」
知っている名前があった。知っている名前がいくつもあった。
励ましてくれた人だ。心配してくれた人だ。笑いかけてくれた人だ。悩みを聞いてくれた人だ。元気づけてくれた人だ。
この人とは一緒にご飯を食べた。この人とは簡易的なお風呂でも湯船につかれたと一緒に喜んだ。この人は俺のファンシーな服装に興味津々だった。この人は息子さんの話をしてくれた。この人は故郷で待つ彼女の話をしてくれた。この人は学生時代の話をしてくれた。
……どこかで思っていた。俺はこの人たちとは違うと。本当の意味では仲間になれないと。そうやって勝手に線引きして、自分の現状から逃げ続けた。
けど……。
ありがとうって言われた。抱きしめられた。握手を交わした。君がいてくれてよかったって……そう……。
「言って、くれていた……」
あんなに支えてくれたのに、あんなに一緒にいてくれたのに、仲間……だったのに。
俺は、最後まで自分一人で戦っているような気になって……自分が救えなかったって思いあがって、そして我がままだけを貫き通した。
「っ!」
あった。冨士村義美。その名前が。
「くっ……ぅっ……」
石碑の名前をなぞるように指を添わせる。
辛かった。苦しかった。逃げたかった。痛かった。
もう嫌だって、なんで俺は叫べないんだって、なんで俺がみんなを守んなきゃいけないんだって、心の底ではそう思っていたんだ。
でも、この人たちは違う。
力があるとか、運が悪かったとか、そういうことじゃない。ただ、まっすぐに信じるもののために戦い抜いたんだ。
これはきっと、今だからわかることで、どうにもできない現実で……。
気づくのが遅すぎた。俺はずっと甘えていたんだ。信じればよかった。心をもっと許せばよかった。
「なんで俺はっ……」
勝手に、独りになった気になって、誰も理解してくれないって思い込んで、寄り添ってくれていた人たちを拒絶し続けていたんだ。
「冨士村さん……」
涙が止まらない。
戦争中の記憶なんて、悲惨で凄惨で思い出したくもない記憶だと思っていた。でも、忘れちゃいけなかった。そこにいた人たちのこと。一緒に笑った人たちのこと。一緒に泣いた人たちのこと。目をそらしてはいけなかった。
涙が止まらなかった。
なんでだろう。思い出すのは、みんなの笑顔ばかりだ。
「渚くん」
後ろから朱音が抱きしめてくれた。
「お兄さん」
右手を晄が握ってくれた。
俺は顔を上げる。涙は止まらない。それでも、俺は前に進むためにここに来た。現実を受け入れるために、ここに来たんだ。
そのために、俺は謝るべきだと思っていた。俺の過ちを少しでも認めるべきだと思ったんだ。力を持っていたのに、助けられなくてすいませんでしたって、そう伝えるつもりでここに来た。
……でも違った。
今、ただ、俺が伝えたいことは。
「ありがとう、ございました……」
……これ以上ないほどの感謝だった。
もう二度と戻ることのない
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