第9話「クラスメイト」

「えっと、渚くんは、そんなにあの子のことがいいのかなぁ……?」

「え、いやまあ。みんなやっぱり憧れるとは思うよ」


 朱音も同じくらい校内では人気があるし、間違いなく一、二を争うほどの美少女だと思う。だが、恥ずかしいので本人の前では言えない。


「えっと……そっか。今年は、藤村さんと同じクラスになれるといいね」

「そうだなぁ」


 去年は残念ながら、藤村さんとも朱音とも違うクラスだった。

 藤村さんと同じクラスになれると話せる機会が増えそうなので、勿論そうなってほしいと思う。ただまあ俺、学校に友達と呼べるような人が朱音以外いないからな。朱音と同じクラスだと良いな、とも思っている。恥ずかしいから言えないけど。


「よし、朱音。見に行こうよ、クラスわけ」

「えっと、そうだね」


 と、二人で下駄箱のところに張り出されているクラス分け表を見ていたのだが、


「えっと、渚くんは見つかった?」


 朱音はすぐにこちらへとやってきたのだ。


「え、いやまだだけど……あ、あった」


 俺もすぐに見つけて朱音のほうを見ると、見るからに落ち込んでいる。


「朱音? どうした」

「あ、ううん。違うクラスになっちゃったね」

「……そっか」


 早々に、自分の名前を見つけたからやってきたわけか。でも、朱音もどうやら俺と同じクラスになりたかったようだ。……俺も、心底残念だ。


「まあでも、違うクラスでも会えないわけじゃないからさ。今年はたまにはお昼、一緒に食べるとかしようよ」

「えっと、うん。その時は是非」


 俺の提案に、朱音の元気な笑顔が戻ったので一安心。けど、朱音は俺と違って友達がいるからな。なかなか、タイミングはなさそうだけど。


「じゃあ、また帰りにでも一緒に帰ろうよ」

「えっと、うん。待ってるね」


 そんなわけで、俺は朱音と別れて自分の教室へと向かったわけだが、自分の名前を見つけただけで来てしまったので、クラスメイトの名前などろくに見てなかった。


 教室のドアを開けた瞬間、一瞬硬直したよ。

 窓際の一番後ろの席に藤村さんが座っていたのである。いつものようにすまし顔で風に吹かれながら小説か何かを読んでいた。

 風に乗って甘い香りとかがやって来るのでは、などと考えつつ、教卓に置いてある席順を見ると、奇跡的なことに俺の席は藤村さんの隣だった。


 やばい。これは、今年の運をすべて使い果たしてしまったのではなかろうか。

 そんなご機嫌スキップで席に向かった俺は、満面の笑顔で隣を見つつ座った。すると、藤村さんもこちらを見てきた。


「え……」


 開口一番、心底面倒そうな顔を添えて睨まれた挙句、そっぽを向かれた。

 物音に目を向けたら、害虫がいましたって感じかな? などと納得して終わりでは、いつもと変わらない。せっかくお隣になれたのだ。もっと会話を続けようじゃないか。


「藤村さん……」


 めげずに関係の進展を目指して話しかけたのだが、


「ホームルーム始めるぞー」


 などと言いつつ、新担任が間の悪い登場をしやがった。

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