魔法少女に憧れた俺が、魔法少女になるまでのお話。
𠮷田 樹
プロローグ
第1話「毎週日曜あさ8時30分」
魔法少女マジカルプリティー第8話「キュアっとムーンなの!?」
私、忠野うさこ十三歳!
前の大戦からせっかく復興を遂げた東京に、黒い巨大生物フザッケン・ナ達が現れたから、さあ大変! しかも、フザッケン・ナ達は地球侵略を宣言したの!
でも、もう地球に魔法少女はいない!
どうしようっ! って思ったら、私が魔法少女に選ばれちゃった!?
葛飾区に迫る魔の手に、今日もマジカルンルン頑張ります!
~♪
「お兄さん!」
「え……」
リビングのテレビがいきなり消され、ポップな導入とともに始まろうとしていたオープニングは遮られた。毎週恒例の導入語りも聞き終えて、気分は最高潮だったのに、なんてこった。
その犯人、十条晄は俺の横に立ち、小さな体躯をこれでもかとふんぞり返らせ、威厳を出そうと奮闘している。
「晄……なんで止めたんだ。これから毎週お楽しみのオープニングタイムだったのに!」
「録画してあるんですから、後でそれを見れば良いじゃないですか! 今日はお医者さん先生の所に行かなきゃならないって、わかってますよね?」
頬をぷくりと膨らませた晄は、透き通るような碧眼で俺を見てきた。
「日曜日の朝は、これを見なければ始まらないんだ! それに、俺の一週間で一番の楽しみなんだ! 第一、録画はリアルタイム視聴したうえで、もう一度見かえすことで……」
「はぁ……はいはい、わかりました。でも、ダメです。呑気に座ってないで早く準備してください!」
「そんなぁ~」
部屋着のままソファーでくつろいでいた俺は、晄に無理やり引っ張られた。馬鹿力により強制的に立たされた俺は、適当な服を選びに隣の自室へ行こうと思ったところで、あることに気付いた。
「晄、寝癖なおってないよ?」
「ほぇ? あ、ほんとです!」
晄は黄色味のあるプラチナブロンドの髪をなでると、後頭部のハネた毛に気付いたようで、困ったようにこっちを見てきた。
「そんな顔しなくても直してあげるよ。ちょっと待ってて、着替えてくるから」
そう言って俺は、足早に自室へ。
非常に安値なこのマンションの二人部屋は、リビング、台所、トイレ、風呂場、個人用の自室が二つ、と言った間取りになっている。値段のわりに、広くて綺麗だと思う。都内と違って、この辺は物価が安いからこそ実現可能なのだろう。
私服は、黒のズボンに白のTシャツ。無地なうえ、この色だと適当に選んでも無難になるから楽である。まあ、だからいつも同じような格好になっちゃうんだけどね。
二、三分で着替えを完了させ、部屋を出ようとしたところで足が止まる。
「忘れるところだった」
机の上にある蘭のような形状のスチール製ジュエリースタンドに唯一かかっているペンダントを手に取る。青く球体状のラピスラズリのペンダント。簡素な作りで別段高価なものでもないらしいが、大切な人からもらったもので、いつも身に着けるようにしている。
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