第五章「魔法少女《偶像》に求めていたもの」

第57話「絶対の正義」

「だから、お父さまを出しなさいって言ってるんです!」


 半日授業が終わると、あたしはすぐに駐屯地へ向かった。レンガ造りの立派な門構えの相馬原駐屯地。その入り口で、あたしは警備をしていた軍人に詰め寄っていた。


「いくら娘さんだからと言っても、許可なく通すことはできません。軍規ですので」

「だったら、お父さまを連れて来なさいよ!」

「ですから、それはできないと先ほども……」


 お父さまなら、幸城君が何者なのか知っていると思ったのに、どうやらあたしにそれを話す気はないらしい。

 どこまで、あたしのことを侮ったら気が済むんだろう。

 ここで粘っていたところで、お父さまが出てくることはないとわかっていても、引き下がるのは嫌だった。

 迷惑だとわかっていながらも、お父さまが出て来てくれることを期待していた。


「あれ、祥子ちゃん?」

「え?」


 駐屯地内からそう言ってやってきたのは、モデル体型で高身長な茶髪サイドテールの女性、高街友加里さんだった。


「祥子ちゃん、どうしたの? お父さんに用事?」

「はい。……でも、無視されました」

「あー、そっか。また、もめたのか」


 高街少佐は困ったように笑いつつ頭をかいていて、それになんとなく気恥ずかしくなったあたしは目を逸らしつつ。


「まあ、そんな感じです」


 お父さまとは比べ物にならないほど、高街少佐にはお世話になっている。休日には、あたしのところに来てくれたりするし。あたしの話をちゃんと聞いてくれる、唯一の人だ。

 だから、こんな場面を見られたのは少しばかりばつが悪かった。

 高街少佐は、警備の軍人へと目をやると。


「この子のことは、私が預かるから。持ち場に戻って」

「了解しました」


 戻って行った軍人を横目に、高街少佐はあたしに笑いかけてくると。


「そんなに時間取れなくてごめんだけど、話聞くよ?」

「いえ、そんなご迷惑は……」

「祥子ちゃんのお母さんには、いっぱいお世話になったんだから、恩返しさせて」

「ですが……」


 そんなふうに言われたら断りづらいけど、迷惑なのもわかっているわけで……。


「良いから、ほらほら」


 高街少佐は半ば強引にあたしの手を引いていくと、左手奥にある記念館前の水色のベンチに腰掛け、隣に座るように促してきた。

 二一式戦車と三四式戦車が鎮座する庭先で、軍人と座って話す機会なんて、そうそうない気がする。


「すいません。ありがとうございます」


 そう一言断ってから、あたしは高街少佐の隣に座った。

 正直、話を聞いてもらいたかったから。


「で、祥子ちゃん」

「はい」

「この間のアグレッサーの件かな?」

「……それも、ありますが。それだけじゃないというか……」

「そうなの?」


 高街さんは不思議そうに首をかしげつつ、口を開いた。


「祥子ちゃんは、頑張ってると思うよ。でも、それが絶対の正解ではないんじゃないかな?」

「どういう、ことですか?」


 高街少佐が、ただあたしを否定するとも思えない。何か、意図があるはずだ。

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