第22話「総合武術格闘術」

「……なんだ?」


 穏やかではなさそうだったが……。

 耳を澄ませると、すぐに次の怒号が飛び込んできた。


「馬鹿に言語が通じるなんて思ってないもの! 体でわかればいいわっ!」


 ……え?

 間違いなく藤村さんの声だった。……まさか、昨日の連中か?

 急いで階段を駆け下りるが、廊下に人の姿はない。いや、二つ隣の教室から椅子や机が激しくぶつかり倒れる音と、不良らしいオラオラな奇声が聞こえる。

 半ば反射的に素早くドアに近づいて、そっと中をのぞくと……。

 そこにはすでに、五人の男がのびていた。


「……まじかよ」


 だがまだ不良男子生徒は七人残っている。乱戦状態で状況を完全に把握することは難しいが……藤村さんは攻撃を見切って受け流して、見事な反撃を繰り出しているようだ。

 藤村さん、強すぎです。

 華麗に舞いつつ不良共を圧倒していく藤村さんの姿に半ば見惚れていたら、知っている顔が吹き飛ばされていた。昨日の奴だ、金髪の。

 本当に、こりないやつだな。仲間引き連れて昨日の報復ってか。……にしても想像以上に強いな藤村さん。


 こうして、動きをじっくり見ていてわかった。あの動き、陸軍の総合武術格闘術がベースだ。日本拳法を土台に柔道、相撲、合気道で使われる投げ技や絞め技、関節技を組み込んだ徒手格闘戦用戦技で、実用性も高い。どこで教わってきたのかは知らないが、相当に修練を積んだことがわかる動きだ。もしかしたら軍の上等兵といい勝負ができるかもしれないな。


 とりあえず一安心と、俺が傍観者に徹しているうちに、気づけば残るチンピラは三人になっていた。

 このままいけば藤村さんが圧勝して終わるだろうから、下手に出て行っても藤村さんの機嫌を損ねるかもしれないし、ここはおとなしく帰って……。


「っ!」


 藤村さんは前方二人の攻撃を受け流し、難なくダウンをとれる位置取りの構えだ。けど、丁度偶然死角に入ったのであろうガタイが良い坊主が拳を振り上げている。

 最悪なポジショニングだ。あのままでは坊主の拳が藤村さんの後頭部に直撃してしまう。


「くそっ!」


 反射的に俺は床を蹴り、藤村さんの横をすり抜けるように腰を落としてすれ違う。その時には、前方にいた二人は藤村さんの拳をもろに受けていた。

 問題はこの後だ。気配には気づいていたのだろう。藤村さんは攻撃の勢いを殺さずに振り返り、坊主の拳を受け流そうとするが……一瞬間に合わない。

 それがわかったのか藤村さんは悔し気に唇を噛み、坊主は得意げに笑みを浮かべ、俺はその坊主の軸になっている左足に足をかけた。


「へ?」


 と言う間抜けな声を上げて勢いよく後ろにすっころぶ坊主。状況をすぐに把握した藤村さんは、間髪入れずに坊主のみぞおちに拳を入れていた。

 全員見事にダウンである。

 おっと、藤村さん。今度は俺にロックオンですか? 今回は助けたのに睨まれる理由がわかりませんが……逃げたほうが良いかな?


「失礼しました~」 


 とりあえず断って去ろうとしたのだが、


「待ちなさい」


 右腕をとんでもないバカ力で掴まれてしまった。

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