第24話「これはデート?」
「幸城君?」
「はい! なんでしょうか?」
怪訝そうなジト目で見られるのも……まあ、当然か。
「デート、と言うのは好意のある二人が会って仲を深めるあれのこと?」
「その通り! 俺は藤村さんと仲を深めたいので」
俺の言葉に目を見開き驚いていた藤村さんは、額に手を当て、ため息をついてしまった。
「あたしは別段デートとは思わない。一緒に出かけるだけ。それでいい?」
「勿論! そうして仲を深めましょう」
もともと、こちらにもデート的な気持ちはない。でも、そう言ったほうが藤村さんに俺のことを覚えてもらいやすいのではと思ったのだ。
「あたしは、仲を深めるとか、そう言うつもりもないんだけど……」
心底あきれた様子の藤村さんからは、普段のような圧を感じない。それだけ、関係が深まっているということだったら良いんだけどな。
「で? 幸城君は、いつ行きたいの?」
「今日これからでっ!」
「そうね。ちゃっちゃと清算したいし、早いほうが良いわね」
いや、そういう意味じゃなかったんだけど。
「じゃあ、行きましょ」
「あ、うん。えっと、こいつらは良いの?」
俺は、床に横たわるバカ共を指さし聞いたのだが……。
「あたしの知ったことじゃないわ。こうなりたくてやってきたんだから、本望なんじゃないの?」
「……そうですか」
撃退されたかったわけではないと思うけどね。
「幸城君、もたもたしないでくれる? 面倒ごとは早く済ませたいのよ」
「……そうですか」
俺とのお出かけは面倒ごとなのね。……まあ、なんとなくわかってはいたけどさ、そうやってハッキリ言わないでいただきたい。
「行くわよ」
「……はい」
俺としてはこう、一緒に楽しい話とか、何して遊ぶかとか、そんな他愛もないことがしたかったのだが、藤村さんは俺のことなどお構いなしに、どんどん先に行ってしまう。
話しかけるなオーラを全開にした背中を追いつつ、下駄箱で靴を履き替えると、さすがに昇降口では待ってくれていた。
安堵と嬉しさを感じた直後。
「遅すぎ」
「……はい」
うん。これは確かにデートじゃないね。
「幸城君」
「なんでしょうか?」
「どこに行くつもりなの? 出来れば、あんまり遠出はしたくないんだけど」
そこまで嫌々な人と一緒に行っても楽しくなさそう……いやいや、そうじゃないだろ。これを切っ掛けに、また俺とお出かけしたいと思ってもらうんだ。そこまでいけなくても、せめて距離を縮めたい。
「幸城君、黙ってないで早く決めて」
「よしっ! 高崎まで出よう」
「……まあ、良いわよ。この時間なら、駅までのバスもそこそこあるだろうし」
決まるやいなや、藤村さんはとっとと歩いて行ってしまう。少し待ってくれてもいいのに……。
俺も歩くスピードを少し上げて、無理やり藤村さんの横を歩っていく。これは意地だ。
正門を出て左手すぐに、学校前バス停がある。戦後、この学校に通っている者の多くがこのあたりに住んでいるという事情もあり、駅までのバスの本数を戦前に比べ増やしたらしい。便利なのは、ありがたいことだ。
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