とある勇者達の異世界生活

 あの謎の魔法陣に呑み込まれてから数日。

 俺達は今、中世ヨーロッパみたいな雰囲気のお城の訓練場にいた。


「よし! かかって来い、ユウマ、キョウシロウ!」

「行きます!」

「おう!」


 俺の視線の先では、訓練用の木剣を構えた神道と剣が、金髪碧眼の綺麗な女の人にしごかれている。

 おっと、卑猥な言い方になったな。

 けど、ヤってる、もとい、やってる事は至極健全な訓練だ。

 あの金髪美女さんの名前は、ウルフェウス王国騎士団長のアイヴィ・ブルーローズさん。

 実に、ファンタジーっぽい役職とお名前。


 そこから少し離れた所では、魔木をはじめとしたグループが、魔法使いっぽいローブを着たおじいちゃんに魔法を教わっている。

 あのおじいちゃんは、宮廷魔導師筆頭の、ランドルフ・フォックスターさん。

 実に、ファンタジーっぽい役職とお名前。


 そして、俺のいるグループを教えているのは、筋肉だ。

 比喩でもなんでもなく、筋肉だ。


「ケンジィ! よそ見をするなぁ!」

「サー! イエッサー!」

「よし! 良い返事だ!

 いいか!? お前達は強力なユニークスキルには恵まれなかった!

 だが、決して自分を落ちこぼれと思うな! 普通の奴はな! ユニークスキルなんて持ってないのだ!

 むしろ、そんなものを持っているだけ幸せだと思え!

 何事もポジティブシンキング! 上の奴らとの差は気合いで埋めろ!

 わかったか!?」

『サー! イエッサー!』

「よろしい!」


 この筋肉ムキムキの暑苦しい人は、騎士団所属のカルパッチョ・ボンバーニさん。

 実に、ファンタジーっぽい役職とお名前……でもないか。

 他の人と比べると、この人だけ妙に色物っぽいんだよな。

 でも、良い人ではある。

 それは間違いない。

 熱血すぎて訓練は厳しいけど……。


 さて、何故、俺達がこんな場所で訓練なんかに励んでいるのか。

 その原因は数日前、俺達があの魔法陣に呑み込まれた直後にまで遡る。






 ◆◆◆






「やりました! 成功です!」

「おお」

「彼らが、人類の希望……!」


 魔法陣に呑み込まれた俺達が最初に聞いたのは、そんな喜色に満ちた人達の声だった。

 魔法陣の光が眩しくて閉じていた目を開けると、そこには魔法使いみたいなローブを纏った集団の姿が。

 そして、足下にはさっきの魔法陣と同じ模様が刻まれた光る台座があり、その光が徐々に薄れていく。


 俺は、そんなファンタジーな光景を目にして、呆気に取られていた。


 そりゃ、そうだ。

 むしろ、こんな突然のSF展開の中で、冷静に行動できる奴がいたら見てみたいわ。


「これは驚いた……で、あなた達は何者なんですか?」


 いたよ。

 冷静に行動できてる奴。

 超イケメン優等生こと、神道が困惑しながらも魔法使い(仮)の集団に向かって話しかけた。

 大人のソラちゃん先生ですらまだ混乱してるのに(というか、先生が一番混乱してるのに)凄いな神道。

 これが本当のイケメンの力か!


「はじめまして勇者様方。

 我らはウルフェウス王国宮廷魔導師。

 以後、お見知りおきを」


 そんな神道の質問に答えたのは、魔法使い(仮)集団の1人だった。

 宮廷魔導師とか、いかにもファンタジー。

 国の名前も聞いた事ないし、勇者様方とか呼ばれてるし、これはマジで異世界なんじゃなかろうか?

 始まっちゃうのか?

 剣と魔法の世界での大冒険が!


「さっきも言ってましたが、その勇者とは?」

「あなた方の事です。我らが神、世界の守護神たる女神様によって選ばれ、異なる世界から招かれし英雄達。それが勇者様です。

 詳しくは国王陛下よりご説明があります。

 どうぞ、こちらへ」


 そう言う魔法使い達の案内に従い、俺達は神道を先頭として王様とやらの所へと向かった。

 何人かは、素直に付いて行っていいのかと不安そうな顔をしてたけど、神道が迷いない足取りで進むのを見て、この場に残る選択をした奴はいなかった。

 まあ、ここでゴネても埒が明かないだろうし、神道の判断は正しいと思うよ。

 発言力のないボッチは、せいぜい素直に追従しておこう。



 そうして訪れた玉座の間っぽい場所で、偉そうにふんぞり返っているおじさんがいた。

 渋めのナイスミドル。

 多分、いや、ほぼ間違いなくあの人が王様だと思う。

 何せ、オーラが違うもの。

 オーラが。


「余がウルフェウス王国国王、アレクサンダー・ウルフェウスである。

 勇者達よ、まずはこちらの都合で汝らを呼び出した事、深く詫びよう。

 すまなかった」


 そう言って、王様は頭を下げた。

 俺はよくわからんけど、仮にも一国の王様が頭を下げるって相当な事態なんじゃなかろうか?

 それだけ、勇者が重要な立場って事かね?


「その上で頼みたい。この世界は今、悪しき魔王の手によって滅びへと向かっている。

 それを退ける為に、勇者達の力が必要なのだ。

 どうか、我らに力を貸してほしい」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 俺が魔王というワードに興奮していると、ここまで混乱しまくって黙っていたソラちゃん先生が、王様相手に口を挟んだ。

 取り巻きの貴族っぽい人達が顔をしかめ、その雰囲気を感じ取ったソラちゃん先生が怯える。

 それでも、ソラちゃん先生は退かなかった。

 怯えながらも、毅然とした態度で(腰が引けてるけど)ソラちゃん先生は言葉を続けた。


「そ、それは、生徒達に戦えという意味ですよね?

 私は教師として、彼らに危険な事をさせる訳にはいきません!

 お願いします!

 どうか、彼らだけでも元の場所に帰していただけないでしょうか!」


 凄い。

 ソラちゃん先生凄い。

 明らかに怯えてるのに、あのオーラが凄い王様相手に要望を言い切った。

 その姿に心打たれたのか、クラスメイトの一部が慈愛の目で先生を見つめている。

 でも、あいつら、合法ロリを合法的に愛でてるグループだ。

 すなわち、yesロリータ、noタッチの紳士淑女達。

 あいつらの好感度上げてもな……。

 既に上限突破してるようなもんだし。


 他の連中の反応としては、先生に同意する連中、余計な事を言うな的な目で先生を睨む連中、そんな発言をしてしまっていいのかと不安になる連中の三つに別れた。


 同意してるのは神道や魔木、剣なんかの比較的常識的な連中だ。

 異世界へのワクワクドキドキよりも、現実的な事を第一に考えてそうな奴ら。


 先生を睨んでるのは、俺みたいに異世界にワクワクドキドキしてると思われる連中だな。

 俺は睨んでないけど。

 筆頭は、イジメッ子代表、現代のジャ◯アンみたいな男『郷田ごうだ大地だいち』率いる不良グループ。

 現実社会に不満持ってそうな奴らだからな。

 異世界でヒャッハーな展開を期待してるんだろう。

 こんな奴らと一緒にされたくはない。


 最後の不安に思ってそうなグループは……まあ、一番普通の反応なのかもしれない。

 完全なる一般人達が、そこにはいた。


「……悪いが、汝らを元の世界に帰す事はできない。

 汝らを呼び出した召喚魔法は、女神教が神からの神託を受けて作成した秘術。

 そして、この秘術は我らの理解の及ばぬところにある。

 故に、秘術を使って呼び出す事はできても、秘術を解析して送り返す魔法を開発する事はできぬのだ。

 すまぬ」

「そ、そんな……!?」


 おっと、俺が人間観察に精を出してる間に話が進んでた。

 それにしても帰れないとな?

 友達もいなくて、家族との関係も冷えきってた俺は日本に未練とかないから別にいいけど、そうじゃない奴らは凄い困るんじゃないか?

 とか思ったら、案の定、クラスメイトの一部が顔面を蒼白にしていた。


「だが、安心せよ。確かに我らでは・・・・汝らを送り返す事はできぬ。

 しかし、方法がない訳ではない」

「そ、それは何ですか!?」

「魔王を倒す事だ。

 魔王を倒し、この世界を守る事ができたのならば、勇者の使命は終わる。

 その暁には、女神様のお力により元の世界へと戻れるであろう。

 当然、戻りたくない者は戻らずともよい。

 魔王討伐の後、この世界に留まりたいと言うのであれば、我が王国に永住を許可した上で、望む褒美を取らせよう」


 王様の言葉により、モチベーションを上げる奴が増えた。

 でも、そうじゃない奴も多いし、何より先生は未だに顔面を蒼白にしてる。


「で、ですが、私達は争いとは無縁の場所にいました!

 とても、魔王なんて恐ろしい存在と戦えるとは思えません!」

「それに関しては問題ない。

 勇者達は、この世界の者達とは比べ物にならぬ潜在能力や成長速度を有し、更には一人一つの『ユニークスキル』を持っている筈だ。

 それだけの力を持った者が、これだけいるのだ。

 そして、我が国を含め、世界中の国が汝らを全力で支援する。

 それだけの力が集えば、必ずや魔王を打ち倒せるであろう」

「うっ……でも、その、ええっと……」


 先生が言葉に詰まった。

 オロオロしてるソラちゃん先生可愛い。

 それはそれとして、やっぱりあるのか勇者のチート能力!

 まあ、そういうのがなければ勇者召喚なんてやらないだろうしな。

 お約束万歳!

 俺のチートってどんなんだろうか?

 ステータス!

 とか叫んだら見れるのかな?


「先生。僕達は大丈夫です」


 俺がまだ見ぬチートに思いを馳せていた時、今まで黙って王様の話を聞いていた神道が、安心させるように先生の頭を撫でながら、会話に割り込んだ。

 ナデポ!?

 このイケメン、教師を相手にナデポを使いおった!?


「国王様、そういう事であれば僕達は戦います。

 ただし、僕達の中にも戦いを望まない人や、どうしても戦う事ができない人はいます。

 だからせめて、嫌がる人に戦いを強制したりはしないでください」

「うむ。わかった。それは約束しよう」

「ありがとうございます」


 そうして、神道がサラッとやってのけたファインプレーによって、戦いたくない奴は戦わなくていいという事になった。

 これは、ありがたい。

 もし万が一、俺のチートが戦闘向きじゃなかった場合、これを口実に逃げさせてもらおう。

 俺の人間観察能力で見た感じ、少なくとも王様は割と良い人っぽいから、やっぱり気が変わって戦場にぶち込まれるとかはないと思うし。


 こうして、俺達の異世界生活が始まったのだった。






 ◆◆◆






 その後、『鑑定石』とかいうアイテムで、全員が自分のステータスを開示した。

 自分で自分のステータスを見るだけなら、俺が妄想したみたいに「ステータス!」って叫べば見れるらしいけど、他人に見せるには鑑定石がいるとの事だ。


 そうして表示された俺のステータスは、こんな感じだった。


ーーー


 異世界人 Lv1

 名前 メラ・ケンジ


 HP 30/30

 MP 25/25


 攻撃 7

 防御 8

 魔力 9

 魔耐 6

 速度 11


 ユニークスキル


 『鑑定』


 スキル


 なし


 称号


 『勇者』『異世界人』


ーーー


 鑑定!

 チートの代名詞キタコレ!

 とテンション上げていたのも束の間、周囲で勇者のステータス開示を見守っていた、この世界の人達の反応は良くなかった。


 後で聞いた話だと、確かに敵のステータスを見れるというのは強いが、いかんせん基礎ステータスが低すぎて話にならないとの事だ。

 言われてみれば、その通り。

 俺の知ってるラノベの主人公とかでも、鑑定を強い武器にしてる奴は多いが、鑑定だけ・・を武器に戦ってる奴なんていねぇ。


 俺に求められてる役割は、他の勇者達にくっついて行って敵のステータスを教える事らしいよ。

 解説役だね。

 違う!

 俺の求めてたチートはこれじゃない!


 それに引き替え、神道とか魔木とか剣とかのトップカーストどもは、マジもんのチートスキルを持ってる。


 神道のユニークスキルは『勇者』。

 称号の勇者とは別の扱いらしい。

 効果は、全ステータスの大幅な上昇とか、専用スキルの獲得とかいう、もう清々しいまでに王道のチート。

 理不尽!


 で、魔木のユニークスキルが魔法チートの『大賢者』。

 剣のユニークスキルは剣術チートの『剣聖』。

 他にも、ソラちゃん先生の『空間魔法』とか、郷田の『破壊王』とか、凄いスキルが多い。

 不公平!


 それで、俺達は自分の能力に合わせた教官に教わる事になった訳だ。


 神道とか剣とかの物理系は、騎士団の皆さんに。

 魔木とかの魔法使い系は宮廷魔導師の皆さんに。

 そして、俺みたいな戦闘に向かない連中は、カルパッチョ教官に鍛えられている。

 この顔ぶれの中で、カルパッチョ教官の異色っぶりときたら……。


 ちなみに、この訓練は全員参加だ。

 俺と同じで戦闘に向かないタイプや、『農業』とか『錬金術』とかの、もう完全に後方支援タイプの奴らまで参加してる。

 勇者である以上、鍛えれば強くなる筈だから、とりあえず護身ができるだけの能力は身に付けといた方が良いとクラス会議で決まった結果だ。

 まあ、それについて異論はない。

 それに、俺はまだ、チート無双を諦めないからなぁ!


「ケンジィ! もっと声出せ!」

「サー! イエッサー!」


 でも、訓練がキツイので、今は休みたいです。



 その後、俺はカルパッチョ教官に気絶寸前までしごかれ、住んでいいよと言われたお城の一室に戻ってから泥のように眠った。

 俺達の冒険は、まだ始まったばかりだ!

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