28 あのバカ野郎……!

「なんてこった……」


 モニターで戦いの顛末を見守っていた私は、その戦いが終わった直後、魂が抜けたような気持ちでそう呟き、深くソファーに沈み込んだ。


 とんでもない事になってしまった。

 侵入者の一人が、凄いスピードでゴブリンロードから逃げ、ダンジョンを逆走して、見事に出口まで辿り着いて帰ってしまったのだ。

 逃げられた。

 呼ばれる。

 絶対に討伐隊を呼ばれる。

 もうダメだ、おしまいだぁ。

 いや、諦める気は毛頭ないけども。


 それもこれも、全部あのバカ野郎のゴブリンロードのせいだ。

 あいつが油断しまくって侵入者を逃がすからこんな事に。

 新しく捕まえた女で遊んでる場合じゃないぞ。

 何、くっ殺プレイやってんだ。

 ぶっ殺すぞ、あのバカ野郎……!


 しかし、本当にとんでもない事になった。

 これで、近日中に討伐隊が来る事はほぼ確定。

 あの逃げた男が、援軍を呼びに行く途中で事故死でもしてくれたら話は別なんだけど、それは希望的観測に過ぎるだろう。

 討伐隊は来る。

 そう考えて備えておかないと。

 

 で、討伐隊が来た後の事は、半分くらい運を天に任せるしかない。

 討伐隊がゴブリンロードだけ倒して帰ってくれるなら万々歳。

 ゴブリンロードが討伐隊を蹴散らす展開でも、まあ、大丈夫。


 問題は、何らかの理由で討伐隊が第二階層以降に降りて来てしまった場合だ。

 ゴブリンロードが逃げて、討伐隊がそれを追いかけて来るとか。

 魔王軍幹部が住み処にしてた所だから、とりあえず隅々まで調べてみっか、みたいなノリで調査されるとか。

 可能性はいくつか思いつく。

 その場合は、全力で防衛。

 ここがダンジョンだと知られた時点で、全員生きては帰さない。

 皆殺しだ。

 まあ、勝てそうにないくらい討伐隊が強かったら考え直すけど。


 それで現在、ダンジョンの強化はそれなり以上に進んでいる。

 それこそ、ゴブリンロードが相手なら何とか勝てるだろうってくらいには。

 今回の戦いで、ゴブリンロードの真装の能力を鑑定できたのも大きい。

 確かに超強力な能力だったけど、幸い、ウチのダンジョンとは相性が悪い能力だった。

 これなら、十分に勝ち目がある。


 ちなみに、鑑定したゴブリンロードの真装の能力が、これだ。


ーーー


 真装『バーバリアン』 耐久値25000


 効果 攻撃×3 攻撃以外のステータス×2

 専用効果『蛮族の狂宴バーバリアン


 真装のスキルによって顕現した力。

 本来の持ち主以外が使う事はできない。


ーーー


 蛮族の狂宴バーバリアン


 自身の率いる同族のステータスを大幅に上昇させる。


ーーー


 うん。

 強い。

 何が強いって、ステータスの強化もそうだけど、一番強いのは味方の能力上げる効果だ。

 ゴブリンロードがいる限り、奴が率いるゴブリンの群れは化け物軍団になる。

 戦闘中に他のゴブリンを鑑定した結果、全ステータス+1000になっていた。

 普通のゴブリンですら、黒鉄ゴーレム並みに強くなるとか……。

 ヤバ過ぎる能力と言っていいだろう。


 でも、ウチのダンジョンとは相性が悪い。

 第二階層は侵入者を分断する仕掛けになってるから、どれだけの大群を引き連れて来ても、途中で必ずバラける。

 そして、ゴブリンロードから離れれば真装の効果も及ばない筈だ。

 弱体化したゴブリンどもは、猛毒とゴーレムで十分に処理できる。

 残ったゴブリンロードも、タイマンならリビングアーマー先輩で潰せるだろう。

 取り巻きにチャンピオンが何匹か残ってたらわからないけど、そのチャンピオンも今回の戦いで一匹減って、残りは二匹しかいないから問題ない。

 まあ、それでも激戦必至だとは思うけどね。


 なんにしても、これでゴブリンロードを過剰に警戒する必要はなくなった訳だ。

 怖いのは討伐隊の方。

 今回逃げた男と同等の奴が10人くらい来たら、普通にゴブリンロードは死ぬんじゃないかな。

 ちなみに、あの男の真装の能力が、これだ。


ーーー


 真装『ヘルメス』 耐久値10000


 効果 速度×3 

 専用効果『伝令神の俊足ヘルメス


 真装によって顕現した力。

 本来の持ち主以外が使う事はできない。


ーーー


 伝令神の俊足ヘルメス


 発動中、使用者の速度を大幅に上昇させる。


ーーー


 凄かった。

 何せ『伝令神の俊足ヘルメス』発動中は、速度のステータスが15000超えてたんだもの。

 どんだけ速いのかと。

 攻撃力不足だったせいでゴブリンロードには勝てなかったけど、あれと方向性が違う、それこそ攻撃力特化の奴とバランスの良い奴が合わせて10人くらいいたら、ゴブリンロードは死ぬと思う。

 取り巻きのゴブリンどもを超強化しても、相討ちがせいぜいじゃないかな。

 というか、それだけの戦力が来たら、私も死ぬわ!

 死なない為に、少しでもダンジョンを強化しなくては。


 そして一応、今回の戦いにおいて、私には鑑定結果以外にも得るものがあった。

 私のLvが25から26に上がっていたのだ。

 今回の戦いで、このダンジョンは欠片たりとも戦っていないし、誰も殺していない。

 ただ、勝手に侵入者が入って来て、勝手にゴブリンどもを殺してただけだ。


 つまり、ダンジョンが手を下さずとも、ダンジョン内で誰かが死ねば、その分の経験値がダンジョンマスターに入るという事が実証された。

 これなら、討伐隊がゴブリンロードを殺してくれた時や、ゴブリンロードが討伐隊を殺してくれた時に、かなりのレベルアップが期待できるだろう。

 それで上昇するMPをDPに変換して強化すれば、討伐隊を返り討ちにする事もできるかもしれない。

 希望が見えてきた。


「よし!」


 私は気合いを入れてソファーから起き上がった。

 こうなったらもう、なるようにしかならない。

 だったら、少しでも生き残る可能性を上げる為に、努力あるのみだ!

 頑張る!


 そうして私は、今日もダンジョンを強化するのだった。

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