とある勇者達と不吉の予兆
異世界に来てからしばらく。
真装の修行も大分進んで、クラスメイトの一部が遂に真装を会得した。
ちなみに、その一部とは神道とか、魔木とか、剣とかの色んな意味でトップな連中と、その他数名だ。
俺?
真装のしの字も出ないよ!
チクショー!
それでも諦めずに、今日も今日とて真装修行の一環である瞑想を行う。
真装は自分の真なる力を引き出すとかいう、中二全開のロマン武器なので、会得するには、こうやって集中して己自身と向き合う事が重要なんだってさ。
でも、既に真装使いになった連中がノリノリで訓練する様子とか見てると、あまりの嫉妬で集中が途切れる。
しかも、イジメっ子代表の郷田とか、あいつを筆頭にした不良グループとかが、全力で煽ってくるんだもん!
集中なんてできるか!
でも、集中しないと、その度に、カルパッチョ教官による容赦のない「喝っ!」が入るのだ。
修行は辛いよ。
ていうか、なんで不良ですら真装が使えるのに、俺は使えないんだろか?
しかも、あいつら、チートスキルに加えて真装にまで目覚めたせいで選民意識を持ったらしく、チートじゃない俺達をイジメるようになってきたのよね。
郷田にしょっちゅう絡まれて本城さんは、こんな気持ちだったんだろうか。
まあ、幸い、クラス最強の神道が弱い者の味方だし、アイヴィさんやカルパッチョ教官、ソラちゃん先生も全力で守ってくれるから、そこまで深刻なイジメは発生してないけども。
それも時間の問題かもしんない。
その内、調子に乗りまくった不良グループが暴動を起こすような気がしてならんよ俺は。
そんな感じで、ちょっとした(いや、ちょっとじゃないけど)不安要素を抱えながら修行に励んでいた時。
突然、お城の中が、なんか騒がしくなった。
騎士の皆さんが、てんやわんやしてる。
「敵襲だ! 滅茶苦茶素早い賊が侵入したぞ!」
「え!?」
「いや、ちょっと待て! あれは敵じゃない味方だ!」
「どっち!?」
そんな感じの、不穏なのかそうじゃないのかよくわからない声が城中に響き渡り、非戦闘員のクラスメイト達が不安そうな顔をする。
俺もビビった。
もし敵が攻めてきたんだったら、未だに雑魚でしかない俺とか普通に死ぬと思うから。
レベル上げもまだだしね。
でも、この訓練場にはカルパッチョ教官がいるし、この人ならきっと俺達を守ってくれる筈!
先生、お願いします!
でも、俺の不安は杞憂だったみたいで、城内のざわめきは次第に収まっていった。
でも、その代わり、
「アイヴィ様、ランドルフ様、陛下がお呼びです。至急、謁見の間へとお越しください」
「ふむ。先程の騒動と関係ありそうじゃのう」
「すまん。そういう事なので席を外す。カルパッチョ、勇者達を頼んだ」
「ハッ! お任せください!」
伝令に来たらしい騎士の人に連れられて、アイヴィさんと、魔法担当の教師である、筆頭宮廷魔導師のランドルフ爺様が王様の所に行ってしまった。
残された俺達は、カルパッチョ教官に教育されるのだ。
まあ、いつも通りだな。
俺にとっては。
って言っても、普段あの3人が主導で教えてるってだけであって、他にも教官は何人かいるけどね。
その後、調子に乗った郷田がカルパッチョ教官に勝負を挑み、素手でけちょんけちょんにされたのを見て心が洗われるというイベントがあったりしたけど、
それ以外はいつも通りに訓練が行われ、今日も俺の真装ちゃんは出てくれなくて落ち込み、そんな感じで訓練終了の時間になった時。
なんか深刻そうな顔したアイヴィさんとランドルフ爺様が帰って来た。
まあ、俺達への配慮なのか、深刻そうな顔は隠してるけどね。
だが、人間観察のプロたるこの俺の目までは欺けんよ。
でも、そんな顔してるって事は、なんかヤバイ事でも起こったんだろうか?
俺が人知れず嫌な予感に苛まれていると、ランドルフ爺様が努めて気楽そうな声で話し出した。
「全員注目! ちょいと遠くの辺りの村で厄介な魔物が出たらしくてのう。
儂が軍を率いて、それを討伐する事になった。
それと、その討伐隊にはカルパッチョも入れる予定じゃ。
よって、儂らはしばらくお主らの指導ができなくなる。
寂しいじゃろうが、我慢してくれ」
そんな事を言うランドルフ爺様。
でも、あの深刻そうな顔を見るに、その魔物って、もしかしなくても、かなりの大物?
しかし、せっかくランドルフ爺様が俺達に心配かけないようにしてくれてるんだ。
ここで俺が不安を煽るような事言っても何にもならない。
黙ってよう。
「儂らがいないからといって気を抜くなよ。
特にアヤカ。
彼氏とイチャつくのは構わんが、イチャつきすぎて堕落せんようにな」
「そんな事しません!」
おっと、魔木が弄られておる。
でも、この二人の間には、盛大な認識違いがあるんだよなー。
魔木は神道が好きな訳だけど、ランドルフ爺様は、何かにつけて魔木の事を気にかけてる剣が魔木の彼氏だと思ってる。
その勘違いが正されないまま、今日に至るという訳だ。
まあ、魔木に惚れてる剣からしたら、その勘違いが本当になってほしいんだろうけど。
「という訳で、儂らは早速出撃の準備に入るから、お主らとはここでお別れじゃ。
アイヴィの嬢ちゃん、こやつらを任せたぞ」
「……はい。お任せください」
一瞬、アイヴィさんの顔が心配そうに歪んだ。
あ、やっぱりこれ、ガチのやつかもしれない。
その翌日、ランドルフ爺様とカルパッチョ教官をはじめとした討伐隊の人達が、静かに城から出撃して行ったらしい。
……カルパッチョ教官、大丈夫かな。
俺は一番付き合いが深い教官である熱血筋肉色物の顔を思い浮かべ、とりあえず彼が無事に帰ってくる事を祈っておいた。
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