111 魔神復活
辿り着いた黒い光の柱の根本。
そこには、破壊の力が渦巻いていた。
柱の周辺には巨大なクレーターが出来上がり、柱を中心に嵐のような黒い風が吹き荒れ、あらゆる者の侵入を拒む。
十二使徒も、魔王軍幹部も、先に到着してたらしい勇者も、迂闊には近づけない。
そうしている内に、黒い光は消えてなくなった。
そして、それが消えた場所に二人の人物がいる。
一人は膝をついた魔王。
神道との戦いに加え、封印の解除で消耗したのか、疲れた顔をしている。
でも、それと同時にやりきったような清々しい顔だ。
もう一人は、豪奢な黒いローブを身に付けた黒髪の若い男。
見た目は私と同い年くらいの、ごく普通の少年に見える。
でも、モニター越しにでも感じる圧倒的な力。
鑑定するまでもない。
本能で理解する。
こいつは格が違う。
生物としての格が違う。
さしずめ、蟻と象だ。
勝てるビジョンが浮かばない。
これが魔神。
敵対せず、恭順を示したのは正解だった。
「ご復活、おめでとうございます、魔神様」
膝をついたまま魔王が言う。
魔神は、そんな魔王に対して穏やかに微笑んだ。
「うん、ありがとう。君のおかげで僕は封印を破る事ができた。
あの日、君を魔王に選んだのは間違っていなかったようだね。
本当によくやってくれた」
「……勿体なきお言葉!」
魔王が感動したように頭を下げた。
魔神はそんな魔王から視線を外し、辺りを見回す。
勇者、十二使徒、魔物と、順に魔神は見回していく。
その間、全員が蛇に睨まれた蛙の如く微動だにできなかった。
魔神の目がオートマタに留まる。
その目が、少し驚いたように見開かれた。
その瞬間、私はモニター越しに極大の悪寒を感じた。
別に性的な目で見られた訳じゃない。
ほんの少しだけ興味を持たれただけだ。
その興味も、次の瞬間には消えたかのように視線は外される。
なのに、それなのに、生きた気がしなかった。
なんなの、この感覚は。
魔神は味方。
味方の筈なのに。
そして、魔神は一通り辺りを見回した後、視線を正面へと戻して顎に手を当てた。
「うん。勇者に使徒に魔物。色々集まってるね。なら、少し試してみようか。《アドミニストレーション》」
魔神が何かしらのスキルを使った。
その瞬間、オートマタを含めた魔物どもの体から黒い光が発生する。
でも、その光は一瞬で消えた。
何かが変わったようには見えない。
今のはいったい?
「魔神様?」
「ああ、予想はしていたけど、やっぱりダメだね。封印され続けたせいで接続が切れたせいか、それとも世代を重ねすぎたのが原因か。
どちらにせよ、君達魔物は既に僕の支配下にはないみたいだね」
今、不穏な話が聞こえた。
そういえば、以前魔王に、魔神は全ての魔物の生みの親とか聞いた事がある。
なら、魔物を生み出して操るダンジョンみたいに、全ての魔物を操れても不思議じゃない。
ヤバイ、その可能性を失念してた。
目の前の魔王ばっかり警戒し続けたツケがこんなところに!
これじゃ脳筋を笑えないぞ!
まあ、結果的にその心配はなかったみたいだから良かったけど。
……良かったんだよね?
「ま、別に構わないんだけどね。魔物を造った目的は達したし、あとは自由に生きればいいよ。
といっても、そんなに長い余生は送れないだろうけどね」
魔神が更に不穏な事を言う。
……長い余生を送れないって、どういう意味だ?
「あの、魔神様……」
「ああ、そうだ。その前に魔王城に割いていた力は返してもらおうかな」
そう言って、魔神は、
「《黒槍》」
魔法で、闇その物のような漆黒の槍を造り出し、
「お疲れ様。今までありがとう」
その黒い槍で、魔王を貫いた。
魔王の体に巨大な風穴が空く。
一目見てわかる致命傷。
多分、内臓の殆どが消し飛んでいる。
回復魔法でも、HP自動回復でも治らないだろう。
そんな、いきなりの惨劇を前に私は、
「……は?」
理解不能とばかりに、間抜けな声を上げる事しかできなかった。
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