115 神を殺せ

「《ゼウス・ザ・ライトニング》!」


 余裕ぶっこいて私の出方を見ていた魔神に対して、先制で手加減抜きの一撃を叩き込む。

 初手から全力だ。

 様子見も手加減もしない。

 それを、魔神はやっぱり余裕ぶっこいて片手で受け止めようとした。


 その手が、強烈な電光によって消失する。


「痛っ!?」


 思わずといった様子で、魔神が悲鳴を上げた。

 確実にダメージが通っている。

 魔神は驚愕の表情で私を見つめてきた。


 今の一撃は、『機械仕掛けの神剣デウス・エクス・マキナ』の効果により、神道の『勇者の聖剣エクスカリバー』をコピーした上で放った。

 本当なら魔神の真装をコピーできればもっと良かったのかもしれないけど、さすがに鑑定でも詳細がわからない能力はコピーできない。

 それでも、これなら充分。

 『勇者の聖剣エクスカリバー』による攻撃なら魔神にも通用する。

 しかも、今の私のステータスは神道よりも遥かに上。

 いける!

 これなら勝てる!


「舐めるな」


 そう思った瞬間、消し飛んだ魔神の腕が即座に元へと戻った。

 回復魔法……いや、どっちかっていうと『不死身の英雄アキレウス』を彷彿とさせる超速再生。

 でも、あれだって決してノーコストで回復してた訳じゃない。

 回復には、それに見合ったMPを消費してた。

 多分、魔神だって同じだ。

 魔神の目的は女神を殺してエネルギーを奪う事。

 それが本当なら、魔神だってエネルギーという概念に囚われている事になる。

 なら、攻撃し続ければ、いつかはエネルギーが尽きる。

 それが無理でも、回復が間に合わない程のラッシュを叩き込んでやればいい。


 大丈夫、私の勝ち目は消えていない!

 その程度じゃ、絶望するには早すぎるわ!


「レーザービーム!」


 続けて、DPによる超強化を果たしたボス部屋トラップの一つ、レーザービームをぶっ放つ。

 威力だけなら《ゼウス・ザ・ライトニング》よりも上の攻撃だ。

 その威力、その身で味わえ!


「小癪な」


 魔神がレーザービームを迎撃するように、掌をこっちに向けた。

 あ、それはマズイ!


「《闇神の裁き》」


 そして魔神は私の予想通り、あの地平線の彼方まで吹き飛ばした大魔法を放ってきた。

 闇がレーザービームを容易く呑み込み、精鋭部隊の何体かを消滅させていく。

 でも、こっちにだって対抗手段くらいある!

 食らえ!

 対遠距離用の奥の手!


「《ディメンションゲート》」

「なっ!? ぐっ……!?」


 先生ゾンビのユニークスキル『空間魔法』によって闇の進路を歪める。

 こっちを殲滅する筈だった闇は、空間の歪みに呑まれて魔神の頭上へと降り注いだ。

 その威力は凄まじく、破壊不能な筈のダンジョンに巨大なクレーターを作り出していく。

 おかげで、あの辺りに仕掛けておいた床トラップがお釈迦になったけど、それ以上に魔神へと有効打を与えられた事の方が大きい。

 神を倒すなら神の力って訳じゃないけど、いくらなんでも自分の大技を自分で食らえば、それなりのダメージを負う筈だ。

 最悪、空間ごと破壊してくるかとも思ってたんだけど、そんな事はなかった。

 まあ、さっきもこの方法で闇の槍を防げたから、多分いけるだろうなとは思ってたけど。


 私は、そんなとても良い働きをした先生ゾンビを見る。

 アワルディア共和国から盗ってきたオリハルコンで造ったリビングアーマーを纏い、『聖域の守護者ガーディアン』による強化を受けて、充分に魔神との戦闘でも使えるレベルまで強くなった先生ゾンビを。

 やっぱり、オリハルコンを先生ゾンビの強化に使ったのは間違ってなかった。

 

 そして、先生ゾンビが作ったチャンスを無駄にはしない。

 魔神は、叩ける内にタコ殴りにする!


「一斉攻撃! 《ゼウス・ザ・ライトニング》!」

「《フォトンストリーム》」

「《ダークストリーム》」

「《ドラゴンブレス》」

「《フェンリルロア》」

「《アイシクルノヴァ》」


 私は命令を下し、使えるだけの遠距離攻撃を絶え間なく撃ち続けさせる。

 魔法持ちのゾンビが、精鋭としてこの場に配置しておいたミスリルガーゴイル軍団が、魔法の雨を魔神に浴びせた。

 当然、その全てが『聖域の守護者ガーディアン』の効果によって強化されている。

 その強化倍率は、かつて反則とまで思わされた『勝者の加護ティルファング』を大きく上回っているのだ。

 しかも、今さっき配下に加えたゾンビの真装『導きの魔導師オルフェウス』の効果で更にドン!

 いくら魔神でも、ダメージを受けない筈がない!


「撃ち続けろ!」


 魔法の雨のせいで、魔神の姿は見えない。

 でも、ダンジョンマスターとしての感覚が確実に魔神を捉えていた。

 魔神は、闇の魔法で真っ向からこの絨毯爆撃をガードしてる。

 でも、防ぎきれてない。

 魔王ゾンビや神道ゾンビの強力な魔法でガードは破れ、そこへタイミングを合わせた私の魔法と、偶然タイミングが合った他の魔法が直撃して、その体をボロボロにしていく。

 やっぱりと言うべきか、ダメージは与えたそばから回復してるし、何故か服まで再生してるけど、その顔は苦悶に満ちている。

 効いてる!

 このまま削りきってやる!


「ああああああ! 本当に鬱陶しい! 下等生物風情が! この僕をイラつかせるなぁあああ!」


 魔神が叫びながらガードをやめ、魔法の発動準備を始めた。

 攻撃魔法が来る!


「《暗黒界》!」

「亀ゾンビ!」

「《タートルガード》」


 魔神を中心にして、円のように広がる闇の魔法。

 広範囲攻撃。

 それは先生ゾンビでも防げない。


 私はそれに対して、亀ゾンビの人化を解いて巨大な壁とする事で対処した。

 精鋭部隊を配置する為に昔より広くしたとはいえ、このボス部屋に本来の大きさの亀ゾンビを収納するだけのスペースはない。

 でも、それが逆に良かった。

 魔神にのし掛かるような場所で人化を解いた亀ゾンビは、一部の隙間もない巨大な壁となって魔神の魔法を防ぐ。


「チェンジ『聖域の守護者ガーディアン』!」


 同時に、私は『機械仕掛けの神剣デウス・エクス・マキナ』によって『聖域の守護者ガーディアン』の効果をコピーし、強化の二重掛けで衝撃に備える。

 おまけに、替えの利くミスリルゴーレムを他の奴らの壁にして、更にその後ろへと防御力の高い奴を配置。

 一瞬の判断で、これ以上ないと思える陣形を構築し、魔神の魔法を迎え撃った。


「くぅ!」


 それだけやっても尚、魔神の魔法は凄まじい。

 亀ゾンビが消し飛び、ミスリルゴーレムが消し飛び、その後ろにまで多数の被害が出た。

 でも、それでも耐えた。

 一発は耐えきってやった。


「耐えただと!? 神であるこの僕が、殺すつもりで放った魔法を!?

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!

 認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!

 下等生物が! 神の手を煩わせるなぁあああああ!」


 ヒステリックに叫ぶ魔神。

 そのまま、その手を地面に置いた。

 これは、さっき神道達に向けて使った魔法か!?


「《暗て……」

「させない!」


 魔神が魔法を使う前に、魔神の真上にある天井のトラップを起動。

 超高速で射出されたギロチンが、魔神の首筋を捉えた。

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