14 特訓中なう

 中年ゾンビを仲間に加えた後、早速、木剣(10DP)と木の盾(10DP)を二組出し、中年ゾンビとリビングアーマー先輩に装備させた。

 特訓用の装備だ。

 これなら、少しは安心して打ち合えるだろう。

 それでも、リビングアーマー先輩のステータスなら木剣でも致命傷を与えそうなので、特訓中は力をセーブするように命令しておいた。


 そして、いざ尋常に特訓開始!


 力をセーブしたリビングアーマー先輩が中年ゾンビに襲いかかり、中年ゾンビがそれを軽く受け流す。

 ……なんか、中年ゾンビ、生前より強くなってない?

 いくらリビングアーマー先輩が力をセーブしてるとは言え、軽く受け流すとか。

 あ、もしかして視覚の問題かな。

 ゾンビになった事で闇の中でも見えるようになった筈だし、そうなれば松明の明かりだけで戦ってた時よりも強いのかも。


「……って、のんびり見てる場合じゃなかった」


 のんびり見てたら意味ないって事で、私もトラップを作動させて特訓に参加する。

 リビングアーマー先輩を巻き込まないように矢とかを放つも、中年ゾンビには通用しない。

 リビングアーマー先輩に張り付くような位置取りをするから、中々上手くトラップが使えないのだ。

 ぐぬぬ。


 ならばと、リビングアーマー先輩を防御モードにチェンジさせる。

 中年ゾンビから距離を取らせ、トラップのみで攻撃してみる。

 だが、これでも中年ゾンビは捉えられない。

 ヒラリヒラリとトラップをかわしていく。

 こいつ、負傷してなかったら、こんなに強いのか……。

 ゾンビになってこれとか、本当によく勝てたな。


 その後も同じように特訓を続けるけど、上手くいかない。

 どうも、このやり方だと限界があるような気がする。

 なんていうか、こう、トラップとリビングアーマー先輩が上手く連携できてないみたいな。

 お互いのポテンシャルを上手く引き出せてないというか。

 息の合ってないダブルスみたいな感じがする。


 これじゃマズイって事で、一旦特訓を中断して考える。

 

 どうすれば、もっと上手くいくのか?

 普通に考えれば、私がリビングアーマー先輩のサポートを完璧にこなせるようになる事なんだけど、それでもダメな気がしてならない。

 何故なら、リビングアーマー先輩の戦闘技術は、決して高くないから。

 だって、トラップによるサポートなしだと、負傷した生前の中年ゾンビにすら勝てないんだもん。


 それに、今見てて気づいたけど、リビングアーマー先輩の動きは単純なんだ。

 まるでゲームのAIみたいな感じ。

 それだと達人ゲーマー……じゃなかった、中年ゾンビみたいな達人戦士には通用しない。

 そして、無生物系モンスターは強化はできても成長はしないから、リビングアーマー先輩の動きがこれ以上良くなる事はない。


 それはマズイ。

 達人ゲーマーだって、モ◯ハンとかのボスモンスターの動きをパターン化して、ノーダメージで狩るなんて芸当ができるんだ。

 というか、そのくらい私にもできた。

 なら、この世界の達人戦士達が同じ事をできない筈がない。

 中年ゾンビ以上のステータスと技術を持った手練れが現れれば、リビングアーマー先輩は簡単にやられてしまうかもしれないという事になる。

 それはダメだ。

 絶対にダメだ。

 何としても対抗策を捻り出さなくては。


「うーん……」


 私は考えた。

 頭を抱えながら布団の上を転がり、糖分を求めてミルクティー(20DP)を飲み干し、気分転換に一回寝て、起きて、そして遂に思いついた。

 会心の策を。


「そうだ。私が戦えば良いんだ」


 何を血迷った事を言ってるんだと思うかもしれない。

 だが、もちろんこれは、私がリビングアーマー先輩を着込んで戦うという意味ではないのだ。

 それは、あくまでも最終手段。


 私が考えついたのは、無生物系モンスターの動かし方の話だ。

 最初に詳細鑑定した時、チラッとその方法は二種類あると書いてあったのを思い出した。

 一つ目は、今までも使ってた自動操作。

 二つ目は、術者が直接操る手動操作。

 この二つ目って多分、ダンジョンの外で造られた無生物系モンスターに対応してるんだと思う。

 こんなファンタジー世界なら、ゴーレムとかを造る魔法くらい普通にあそうだし。

 土魔法のスキル持ちが「クリエイトゴーレム!」とか叫んでも、私は驚かないよ。


 要するに何が言いたいかというと、この手動操作を使って私がリビングアーマー先輩を動かせば良いんじゃないかって事。

 リビングアーマー先輩の技術は成長しないけど、私の技術なら成長する。

 それに、私がリビングアーマー先輩の動きを完全に掌握すれば、トラップとの完璧な連携も可能なんじゃないかと思うんだ。

 だって、どっちも私が動かしてるんだから。

 右手と左手で連携を取るみたいな感じになるんじゃないかと。


 という事で、早速やってみた。


「おお! 動く! 動くぞ!」


 リビングアーマー先輩は、私の操縦通りに動いた。

 感覚としては、ゲームのキャラを動かしてる感じ。

 ただし、ゲームではないのでコントローラーはない。

 メニューをポチポチやってる訳でもない。

 念じれば、その通りに動く。

 これって、ある意味、魔法なんじゃなかろうか?

 いや、それを言ったらトラップも似たようなもんか。

 トラップも念じただけで動くもんね。


 とにもかくにも、リビングアーマー先輩を手動操作に切り替え、ボス部屋の全てを手動にした上で、改めて中年ゾンビと戦ってみた。

 しかし……


「えい! あ!? この! 逃げるな!」


 当たり前の事だけど、最初から上手くはいきませんでした。

 リビングアーマー先輩を動かしながらトラップも動かす。

 これは思った以上に難易度が高かった。

 ゲームやりながら本を読むみたいな。

 二つ以上の事を同時にやるというのは、本当に難しい。


 それに、リビングアーマー先輩の操縦一つ取っても、私は戦闘の素人。

 いきなり、中年ゾンビと戦えるレベルの操縦なんてできる訳がない。

 正直、今の段階だと自動操縦の方が強いまである。

 まあ、当たり前なんだけど。

 世の中、そう上手い話はないって事だ。


 こればっかりは、時間をかけて鍛えるしかない。

 でも、鍛えれば確実に強くなる筈だ。

 根気強く行こう。


 そうして私は、とりあえず中年ゾンビの動きを見て真似る事にした。

 中年ゾンビもリビングアーマー先輩と同じ、剣と盾のスタイルだし、お手本にするには丁度良い。

 師匠とでも呼ぶべきだろうか?

 ……いや、やめておこう。

 死体とはいえ、元は私の聖域を踏み荒らしやがった侵入者だ。

 敬意を払う必要などない!


 でも、その技術は大いに役に立ってるから、このダンジョンに住む事くらいは許してやろう。

 ありがたく思え!


 そんな感じで、私は特訓を続けた。

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