15 第二階層

 中年ゾンビとの特訓を始めた翌日。

 私は例によって全快したMPをダンジョンコアにぶち込み、これを使って造りかけの第二階層を完成させる事にした。

 特訓も大事だけど、そもそもボス部屋まで辿り着かれない方が良いに決まっているのだから、ダンジョンの強化は特訓よりも優先度が高い。

 最優先事項だ。


 さて。

 現在のDPは約12000DP。

 凄い数字だ。

 これが日給だと言うのだから、本当に大魔導先輩の働きっぷりは凄まじい。

 ステータス画面を拝みながら、三度礼拝しなければならないレベルだよ。


 そして、今回は潤沢な資金があるという事で、ダンジョンの改造も思いきって贅沢に行く。


 まずは、1000DPを使い、第二階層の規模を拡大する。

 直径200メートルの迷宮から、一気に直径500メートルの大迷宮になった。

 どうも、階層の拡張は、階層の追加よりも安く済むらしい。

 ただし、これ以上広げようとすると、相応のDPを持っていかれるみたいだけど。


 そこから、更に1500DPを使って、前回仕掛けた動く壁を拡張した部分にも仕掛ける。

 これで、残り10500DP。

 まだまだ金はある!

 ドンドン行こう!


 次はもっと大胆だ。

 なんと、一気に8000DPを使って、フロア全体の環境を変える。

 第二階層のコンセプトは『猛毒フロア』だ。

 これによって、第二階層はフロア全体に猛毒が発生している死の迷宮となった。

 毒霧、毒液、毒の塗り込まれたトラップ。

 毒の効かないモンスター以外は、解毒薬とかを大量に持ち込みでもしない限り、探索しただけで確実に息絶えるだろう。


 第二階層をこんな仕様にした理由は、このダンジョンに来る侵入者が、今のところ人間とゴブリンだけだからだ。

 奴らになら、確実に毒が効く。

 しかも、第一階層には毒のどの字もないから、ネタバレでもしない限り、解毒薬を大量に持ち込むなんて発想は出てこない筈だ。


 しかも、この第二階層。

 初めの内は毒が薄いというのがミソだ。


 第一階層から繋がる道(ボス部屋が移動したので、扉ではなく下り坂になった)から入った時点では毒に気づかず、少し進んだ時点で、ようやく毒の存在と体の異常に気づく。

 その時には、もう手遅れだ。

 帰りの道は動く壁によって塞がれ、侵入者はダンジョンの情報を外に持ち出す事なく死ぬのだ。

 完璧である。


 つまり!

 これにて、ほぼ攻略不能な迷宮が完成した訳だよ!

 それこそ毒の効かない化け物でも現れない限り、私はようやく枕を高くして眠れる!


 このフロアの弱点としては、味方のモンスターにまで毒の影響が出る事だけど、

 私は今のところ、毒の効かない無生物系やアンデット系のモンスターしか使うつもりはないから無問題。

 だって、意思のあるモンスターとか、裏切りそうで何か嫌じゃん。

 警備員はロボットに任せるに限る。

 私的には、アンデットだってギリギリだ。

 ギリギリアウトだ。

 利益の為に、それを我慢して使ってるに過ぎない。


 まあ、それはともかく。

 最後に猛毒の第二階層をボス部屋の前に持ってきて、これで一応完成。

 本当はこのフロアを徘徊させるモンスターが欲しいところだけど、残り2500DPしかないから、今日は諦める。

 潤沢な資金とはなんだったのか……。

 やっぱり、本格的なダンジョン造ろうと思うと、凄い勢いで資産が飛んでいく。

 大魔導先輩がいるウチですらこれなんだから、普通のダンジョンは、いったいどうやって発展してるんだろう?

 もしかしたら、凄い長い時間をかけて、地道に成長してるのかもしれない。

 まあ、他のダンジョンなんて見た事ないし、今後も引きこもりを続けるつもりだから、外の事なんてどうでもいいけどね。


 さて、今日の分の改造も終わった事だし、特訓に戻るか。


 前よりも遥かに到達困難になったボス部屋にて、リビングアーマー先輩と中年ゾンビが戦う音が響いた。






 ◆◆◆





 そんな感じで猛毒フロアを造った翌日。

 MPも回復した事だし、今日はモンスターでも造るかー、と思っていた時、私は侵入者の存在に気づいた。


 ちなみに、猛毒フロアが完成したので、前まで設定してたアラームは解除した。

 正確には、第一階層に入った時点ではなく、第二階層に入った時点で鳴るようにしてる。

 そうじゃないと、睡眠に支障が出そうだし。


 そういう事情につき、私は寝てる隙に入って来た侵入者に気づかなかった訳だ。

 まあ、前にも決めたように、第一階層を彷徨く程度なら許してやらん事もない。

 そのまま立ち去るのなら、見逃してやるよ。


 そんな気持ちでモニターを出し、侵入者の姿を確認する。

 ゴブリンだった。

 またか!

 このダンジョン、ゴブリン来すぎじゃない?

 近くに大きな巣穴でもあるんだろうか?

 なら、どうにかして潰すべきかな?

 ……いや、現状無理でしょ。

 私が動かせる戦力なんて、リビングアーマー先輩と中年ゾンビしかいないし。

 リビングアーマー先輩はともかく、中年ゾンビはゴブリン退治の為に使い捨ててもいいかなと思わなくもないけど、

 まだまだ中年ゾンビには教わる事が残ってる。

 今はまだ手放す訳にはいかない。

 使い捨てにできる戦力が増えてから考えよう。


 それはともかく、今回のゴブリンどもは、また数が多い。

 普通のゴブリンが20匹くらい。

 前回見たホブゴブリンが3匹。

 あと、よくわからない新種のゴブリンが2種類。

 とりあえず鑑定だ。


ーーー


 ゴブリンシャーマン Lv25


 HP 150/150

 MP 250/250


 攻撃 50

 防御 62

 魔力 201

 魔耐 105

 速度 44


 スキル


 『火魔法:Lv3』『統率:Lv1』


ーーー


 ゴブリンチャンピオン Lv40


 HP 1540/1540

 MP 300/300


 攻撃 1321

 防御 950

 魔力 140

 魔耐 557

 速度 603


 スキル


 『棍棒術:Lv2』『統率:Lv2』


ーーー


 強っ!?

 ゴブリンのくせに強っ!?

 シャーマンも大概だけど、チャンピオンが別格でヤバイ。

 これ生前の中年ゾンビ超えてるじゃん!

 もうゴブリンじゃねぇだろ、こいつ!

 体格もホブゴブリンより一回り大きいし、筋肉の塊だし、中年ゾンビよりLv低いのにステータス上だし。

 もう、種族的な格で人間超えてるんじゃない?


 そんなゴブリンどもは、第一階層の中を探索し出した。

 そして、数時間かけて第一階層を探索し終えると、第二階層への入り口まで見つけ、数匹のゴブリンとホブゴブリン一匹が、チャンピオンの命令で第二階層へと足を踏み入れる。

 そいつらは、そのまま20分くらい第二階層をさ迷った末に、猛毒の餌食になって死んだ。

 ……意外と粘ったな。

 もっとも20分持ったのはホブゴブリンだけで、残りは数分で死んでたけど。


 で、探索隊が帰って来ない事を確認したチャンピオンは、前の奴らと同じように第一階層に住み着いた。

 だから帰れ!


 でも、チャンピオンが第二階層に入って来ないだけでも一安心と言うべきか。

 こいつのHPの多さなら、猛毒フロアすらゴリ押しで踏破できるかもしれないし。

 まあ、その時には相当弱ってるだろうから、リビングアーマー先輩で普通に殺せると思うけど。


 そして、奴らが好き勝手やってる間、私が何もしなかった訳ではない。

 MPをDPに変換し、今度こそモンスターを造った。

 リビングアーマー先輩みたいなボスじゃなくて、量産型の使い捨てモンスターを。


 今回のモンスターに求めるのは、猛毒の第二階層で活動できる事と、使い捨てにしても痛くない事。

 つまり、ローコストで生産できる事だね。


 その結果、私は量産型自宅警備員として、ゴーレムを選択した。

 ゴーレム。

 言わずと知れた、あのゴーレムだ。

 土とか岩とかで出来てる巨人。

 無生物系モンスター。

 100DPで召喚できる弱いモンスターなんだけど、今回は普通に喚び出すんじゃなくて、『ゴーレムメーカー』という謎の装置を造って、それでゴーレムを造った。


 このゴーレムメーカー、ダンジョンの生産可能なトラップ一覧の中にしれっと紛れ込んでたんだけど、その性能は破格だ。

 なんと、素材をゴーレムメーカーの中に入れると、その素材を使ってタダでゴーレムを造り出してくれるのだ!

 これにより、実質ノーコストで量産型自宅警備員を造る事ができるようになった。

 ……まあ、ゴーレムメーカーのお値段は10000DPとかしたから、どっちかって言うと料金先払いなんだけど。

 でも、100体造れば元が取れるし、頑張って生産していこう!


 という訳で、私は今日は特訓をやめて、中年ゾンビを第二階層に派遣し、つるはし(10DP)を持たせてダンジョンの壁をひたすら掘らせた。

 本来なら、ダンジョンの内装は破壊不能なんだけど、ダンジョンマスターの意思によっては『破壊可能オブジェクト』として壊す事ができるようになる。

 そうして壊した壁、もとい岩壁の欠片をアイテム回収機能で回収し、ゴーレムメーカーに突っ込む。


 そして、生まれてきたゴーレムの性能が、こちら。


ーーー


 ロックゴーレム Lvーー


 HP 200/200

 MP 0/0


 攻撃 100

 防御 100

 魔力 0

 魔耐 50

 速度 50


 スキル


 なし


ーーー


 うん。

 まあ、量産型と見ればそれなりに高性能ではある、かな。

 一対一だとホブゴブリンにも勝てなそうだけど、そこは数の暴力と第二階層の猛毒を使って何とかしよう。


 こうして、ダンジョンを徘徊する量産型モンスターも生まれ、このダンジョンは、やっと洞窟から真のダンジョンへと進化したのだった。

 ここまで長かったよ……。

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