13 苦戦の後で
「勝ったー……」
侵入者がサンドイッチになってDPが入ってきた事を確認してから、私はようやく緊張を解いて布団に倒れ込んだ。
今回は危なかった。
だって、リビングアーマー先輩の攻撃がことごとく通用しなかったんだもの。
中年の意地を見せつけられた気分だ。
最初の不意討ちで足をやってなかったら、本当に危なかったと思う。
まあ、最初の不意討ちの後に、侵入者が運良く足下に落とし穴も剣山も伸びる床もなく、上にギロチンも吊り天井もない、ボス部屋の盲点とも言える場所に辿り着かなかったら、そこで終わってたような気もするけど。
今回、私がやった事は簡単だ。
途中でリビングアーマー先輩への命令を攻撃から防御に、つまり『ガンガンいこうぜ』から『いのちだいじに』に変えて、その後はひたすらトラップを使いまくった。
これだけ。
いやー、途中で気づいたんだよね。
相手は足を怪我してるんだから、無理に攻める必要なくね? って。
ボス部屋はリビングアーマー先輩がやられない限り破られないんだから、攻撃はトラップに任せて、リビングアーマー先輩はひたすらやられないように逃げ回っとけば、とりあえず負けはしないんじゃないかと思ったのが発端。
その作戦が、これ以上ないくらい上手くハマった訳だ。
「さて」
私は寝ながらメニューを操作する。
今回の戦果確認といこう。
まず、手に入ったDPは1490DP。
あの中年侵入者が1000DPで、その前に死んだホブゴブリンが400DP、
それとプチッと潰されてた普通のゴブリンが9匹で90DP。
ゴブリンは10匹いたんだけど、一匹は逃げた。
……というか、 あの中年侵入者1000DPて。
どんだけ強かったんだ。
本当に、勝ててよかった。
で、DPとは別に手に入ったアイテムもある。
戦利品だね。
まず、中年侵入者の持ってた装備。
奴のステータスが高かったのが幸いしたのか、伸び上がる床で天井とサンドイッチしても完全には潰れずに、持ってたアイテムを回収できたのだ。
……でもそれって逆に言えば、アレよりも強い奴だとサンドイッチにしても死なないって事だから、ちょっとゾッとするけど。
ま、まあ、それはともかく戦利品だ。
一つは、腰にぶら下がってた道具入れみたいなやつ。
鑑定したら『収納の魔道具』って出た。
中が異空間になってて、見た目以上の物を入れられるらしい。
アイテムボックスか。
アイテムボックスだな。
中には色んなアイテムが入ってて、それも手に入った。
これ、還元したらかなりのDPになる気がするけど、勿体ないから取っておく。
だってこれ、どう考えても希少品だもの。
いつか使う日が来るかもしれないという事で。
次に、中年が装備してた武器。
『黒鉄の剣』『黒鉄の盾』『鋼の胸鎧』『亜竜の籠手』『亜竜のレザーブーツ』、それと、その下に着てた服。
どれも高級な匂いがする。
まあ、どれもこれもサンドイッチにしちゃった影響で破損してるから、もし使う場合はDPで修復しないといけないだろうけど。
でも、破損してても問題なく使えるやつがある。
それは金属だ!
そう!
これさえあれば、リビングアーマー先輩を強化できる!
無生物系モンスターの材質変更。
DPでやろうとすると、黒鉄なら6000DP、鋼でも1500DPはかかる。
しかし!
現物があるのなら話は別だ!
50DPもあれば換装できる!
これはやるしかないでしょう!
という訳で、『黒鉄の剣』と『黒鉄の盾』、『鋼の胸鎧』を潰して、リビングアーマー先輩の素材とした。
その結果、リビングアーマー先輩の胴体が黒鉄になり、兜が鋼になった。
……なんか、継ぎ接ぎみたいなデザインでカッコ悪かったから、1DPを使ってカラーリングを変更。
全身ブラックにした。
これなら、ダンジョン内の暗さと合わせて、さぞ見えにくかろう。
それに、やっぱり単色のカッコよさってあると思うんだ。
あと、いらなくなった鉄の胴体と兜は還元しておいた。
ついでに、ちょっと思い至って20DPを使い、リビングアーマー先輩のデザインを変更した。
今までの男性用鎧から、ちょっと小柄な女性用鎧へと変更。
なんでこんな事をしたのかというと、まあ、いざという時の為だ。
もしも、リビングアーマー先輩を含めたダンジョンの全機能を使っても倒せないような化け物が現れた時の為。
その時、
何せ、私は勇者だ。
大魔導先輩のおかげで魔法系ステータスだけは凄まじいし、リビングアーマー先輩に防御を任せて魔法に専念すれば、かなりの戦力になるんじゃないかと考えた。
リビングアーマー先輩は魔法能力が0だから、お互いの欠点を上手く補えるんじゃないかと。
まあ、あくまでも最終手段だし、使う日が来ない事を祈るけどね。
それに、そもそも、私まだ魔法とか使えないし。
どうすれば覚えられるのかも知らないし。
現時点では机上の空論だよ。
そして、DPと戦利品の次は経験値だ。
今回の戦いによって、私のLvは7から15に上がった。
やっぱり強い敵を倒すと、その分、経験値も凄まじい。
ちなみに、ステータスはこんな感じになった。
ーーー
ダンジョンマスター Lv15
名前 ホンジョウ・マモリ
HP 38/38
MP 86/11500
攻撃 31
防御 29
魔力 6600
魔耐 51
速度 37
ユニークスキル
『大魔導』
スキル
『MP自動回復:Lv4』
ーーー
MPが、遂に一万の大台超え。
大魔導先輩、マジパネェっす。
MP自動回復も地味に成長してるし、順調と言えよう。
他のステータスも、魔力以外はカスみたいな数字だけど、一応は上昇してる。
そりゃ、Lv的には前の侵入者三人組と同じくらいなんだから、強くもなるか。
……でも、ほぼ同じLvなのに、魔力以外のステータスは、あの三人より遥かに低い。
私、勇者なのに。
やっぱり、鍛えてる奴とそうじゃない奴の違いって事だろうか?
ステータスって、Lvだけじゃ計れないのね。
でも、この調子でLvを上げていけば、いつかはリビングアーマー先輩を着こなせるくらいには強くなれそうだ。
ちなみに、強化を果たしたリビングアーマー先輩のステータスはこんな感じ。
ーーー
リビングアーマー Lvーー
HP 3000/3000
MP 0/0
攻撃 2100
防御 4530
魔力 0
魔耐 4350
速度 900
スキル
なし
ーーー
強い。
めっちゃ強い。
これなら、今回の中年侵入者くらいなら、ステータスによるゴリ押しだけで勝てそう。
材質の変更でここまで強くなるなら、もっと早く強化するべきだった。
明日MPが回復したら、更に強化してあげよう。
インフレの始まりじゃー!
そして、これが最後のリザルトだ。
私はモニターで、ダンジョンの回収機能を使って身ぐるみ剥がされた中年侵入者の死体を見る。
最初はとっとと還元しちゃおうと思ったんだけど、ここに来て少し思い直した。
それと言うのも、今回追い詰められた最大の要因は、リビングアーマー先輩と私の戦闘技術の未熟さだと思ったからだ。
私がもっと上手くトラップを使えていれば、リビングアーマー先輩が過度なダメージを受ける事もなかっただろうし、
リビングアーマー先輩がもっと上手く動けていれば、ステータス的に考えて、もっと普通に勝てていただろう。
その弱点を解消するにはどうしたらいいのか。
練習を重ねるしかないと思う。
そして、それには練習相手がいた方が良いと思うのだ。
一人でやる練習には、必ず限界があるものだから。
ずっとお一人様だった私が言うんだから間違いない。
で、その話が侵入者の死体とどう繋がるのかというと、簡単だ。
こいつに練習相手、もといサンドバッグになってもらおうと思ってる。
何を言ってるんだと思われるかもしれないが、ダンジョンには死体をそういう目的で使える機能があるのだよ。
その機能とは、モンスターの作成。
今回は、この侵入者の死体を
そのモンスターの名は『ハイゾンビ』。
言わずと知れた動く死体『ゾンビ』の上位モンスターだ。
メニューの召喚可能モンスターの一覧でハイゾンビの説明を見ると、ハイゾンビとは普通のゾンビと違って、ある程度、生前の力を残したハイスペックなゾンビなのだ。
それに、普通のゾンビと違って、時間経過で腐らない。
怨念的なものが残る心配もない。
完璧である。
……まあ、それはあくまでも理論上の話であって、心情的にはあんまりやりたくないけども。
死体とは言え、一度敵対した相手を自分の聖域の中に置いておきたくはない。
「でも、背に腹は代えられないか……」
幸い、飲み込めない程の不快感じゃない。
所詮は死体だ。
ただの道具と割り切ろう。
という事で、1500DPを使ってハイゾンビを作成。
中年侵入者の死体を中心に、リビングアーマー先輩を召喚した時と似た魔法陣が広がり、それが消えた時には、血塗れで人間としての原型を留めていない死体が、ムクリと起き上がった。
早速、鑑定を使ってみる。
ーーー
ハイゾンビ Lv48(lock)
名前 ゲイル
HP 1/738
MP 140/268
攻撃 631
防御 639
魔力 290
魔耐 500
速度 530
スキル
『剣術:Lv8』『盾術:Lv8』『隠密:Lv3』
ーーー
うん。
まあ、全体的に弱体化してる。
全ステータス一割減ってところかな。
でも、思った程の低下じゃない。
ちなみに、Lvのところに書いてある(lock)の表示は、死体だから、これ以上成長しないって意味。
HPが1しかないのは、生前のダメージを引き摺ってるんだと思われる。
とりあえず、DPを使ってゾンビを修復した。
リビングアーマー先輩と同じで、ゾンビも自然回復しないから、一々DPで回復させなきゃならない。
コスパは悪いけど、まあ、仕方ないよね。
「これからよろしく。中年ゾンビ」
こうして、私の仲間に中年ゾンビが加わったのだった。
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