65 勇者狩り 5
オートマタを歩かせ、まずは魔木に近づかせる。
近づくごとに魔木の顔が青くなり、小刻みに震え、ボロボロの体を引き摺って逃げようとした。
なので、とりあえず両腕両脚をオートマタの足で踏みつけ、へし折っておいた。
「ギャアアアアアアア!?」
「彩佳ぁ!」
魔木が悲鳴を上げる。
それにしても、ギャアアア、って。
女らしくない声だなぁ。
ゴブリンに犯されてた連中でも、もう少しマシだったよ?
まあ、それはともかく。
続いて、痛みに悶える魔木の服をズタズタに引き裂く。
そして、抱き起こして股を開かせ、一糸纏わぬ姿と恥部を
男子からの嫌らしい視線という、私が味わった地獄を少しでも味わえという粋な計らいだ。
「やめろ本城っ!」
「い、痛いよぉ……」
……まあ、剣は劣情よりも心配と怒りが先にきてるみたいだし、魔木は痛みでそれどころじゃなさそうだから、効果は今一つだったけど。
まあ、気を取り直して次に行く。
私は、オートマタに腰の収納の魔道具の中から、小さな杖を取り出させた。
「これ、なんだかわかる?」
返事はない。
剣は怒りに満ちた視線でオートマタを睨むだけだし、魔木は痛みにうめいて泣くだけ。
答えないなら仕方ない。
教えてあげよう。
「これは水の魔道具。MPを籠めると水の魔法が発動するの。
まあ、攻撃に使える程の威力じゃないから、飲み水の確保とかに使うんだけどね」
そう。
それは、今も私がお世話になってる水の魔道具の杖だ。
どうも旅の必需品扱いだったみたいで、侵入者の殆どが持ってたんだよね。
だから、在庫は結構ある。
ここで一本ダメにしちゃっても惜しくはない。
「お、お前……! まさか!?」
「そのまさか」
「……え?」
驚愕する剣と、困惑する魔木を無視して、私は無慈悲に告げる。
「じゃあ、いくよ」
「やめろ! やめろぉ!」
そうして、あんまり時間を掛けず、しかし、私の思いつく限りでは凄まじく残酷な処刑が幕を開けた。
「たす……けて……悠真……」
処刑が進み、末期の状態になった時。
最後の最後に、魔木が掠れきった小さな声で、そう呟いた。
ユウマ。
たしか、神道の下の名前だったっけ?
この状況で口にするなんて、よっぽど信頼してたのか、それとも好きだったのか。
なら、魔木への最後の言葉は決まりかな。
「安心して」
私は魔木の耳元に話しかけた。
オートマタの無機質な声で。
どこまでも無慈悲に。
心をへし折る言葉を。
「神道くんもその内、あなたの後を追わせてあげるから。
その時は、あなたの死体が役に立つでしょうね。
私は、死体を使ってゾンビを造る事ができるから。
大切な友達が突然襲ってきたら、神道くんはきっと、ろくに戦えもせずに死んでくれると思うし」
「あ、ああ……」
もっとも、その神道も今頃、魔王に殺されてると思うけどね。
そこまでは言わなかったけど、魔木は私の言葉を聞いて、心から絶望したみたいな表情を浮かべた。
そして、その直後、━━遂に魔木は、見るも無惨な姿となって息絶えたのだった。
「彩佳ぁあああ!」
剣が悲しみの絶叫を上げる。
魔木のHPは0になった。
もう死んだのだ。
剣がどれだけ泣き叫ぼうとも、生き返る事はない。
「本城ぉおおおお! 許さねぇ! 絶対に許さねぇ! 殺してやる! 殺してやるぅううう!」
剣が、滂沱の涙を流しながら、ズタズタになった手足を必死で動かして、オートマタの方へ這いずって来る。
まるでホラー映画のようだ。
怖いから、さっさと殺してしまおう。
さて、こいつはさっきから彩佳彩佳と連呼して煩いし、死んだらこんなに怒り悲しんでいるし、よっぽど魔木が大切だったんだろう。
なら、その大切な人の手で、ズタズタに引き裂かれてもらおうか。
私は、魔木の死体を使い、例によってハイゾンビを作成。
死体を中心に魔法陣が浮かび上がり、無惨な姿のまま魔木の死体がムクリと起き上がる。
「彩佳!?」
剣が困惑と驚愕、そしてほんの僅かに期待が籠ってるような声を上げた。
生き返ったとか、死んでなかったとか、そんな奇跡を信じたくなる気持ちはわかるけど、それはない。
そして、僅かでも希望を抱くと、絶望はより深くなるものだ。
私はダンジョンマスターとしての力を使い、無言で魔木ゾンビに命令した。
ダンジョンのモンスターとして、魔木ゾンビは命令に忠実に従い、魔法を発動させる。
「《ストーンブラスト》」
出来上がったのは岩の弾丸。
それが剣の頭上に浮かぶ。
魔木ゾンビは、その魔法を躊躇なく発動させ、勢いよく射出された岩の弾丸が、剣の下半身を撃ち抜いた。
腰の骨とかと一緒に、剣の男の象徴がグチャッと潰れた。
「~~~~~~~~~~~!?」
剣が声にならない叫びを上げる。
それを無視して、魔木ゾンビに更なる命令を下す。
今度は、オートマタの声も使って。
「殺れ」
その一言が発せられた瞬間、魔木ゾンビが新しい魔法を発動させる。
「《アイスランサー》」
今度の魔法は、爺ゾンビも使っていた氷の槍。
ただし、爺ゾンビの物よりもかなり細い。
これは、できるだけ死体を傷つけないようにする為だ。
ゾンビにするには、死体は綺麗な方がいい。
そして、細い氷の槍が、悶絶する剣の心臓を刺し貫く。
これによって、剣もまたHPを0にして死亡した。
DPと経験値が入ってくる。
これにて、侵入者のお掃除完了。
勇者狩りも終了だ。
残りの勇者は魔王が狩ってるから、私には手が出せないしね。
「ふー、終わったー」
そして、一応の復讐を成し遂げた私は、どこかスッとした気分で勝利の味を噛み締めた。
「さて」
それじゃあ、こっちは終わった事だし、魔王の首尾の確認とリーフの回収を兼ねて、オートマタをもう一回王都に送りますか。
戦果確認は、その後だね。
そうして、私は最後に一仕事をこなすべく、先生ゾンビのテレポートで、仮面を付け直したオートマタを、王都へ向けて転送した。
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