20 VS真装使い

 驚いた。

 まさか、あれだけ弱りきった状態で、真装使いの男がボス部屋にまで辿り着いてしまうとは思わなかった。

 やっぱり、このダンジョンはまだまだ磐石には程遠いって事だろう。

 より一層の精進が必要だ。


 それはともかくとして、今は防衛だ。

 真装使いの男が開けたボス部屋の扉が、いつものように勢いよく閉じる。

 これで、お互いに逃走はできない。

 さあ、リビングアーマー先輩手動操縦モード。

 堂々のお披露目といこうか!


「一斉掃射!」


 まずは挨拶代わり。

 壁から一斉に矢を発射し、真装使いの男を狙う。

 だが、真装使いの男はこれを避けた。

 毒で弱りきってるくせに、意外と機敏な動きで上空にジャンプして避ける。

 でも、それは悪手でしょ。

 やっぱり、毒で頭をやられてるのか、正常な判断ができないらしい。


 上空に回避した真装使いの男を、発射方向を調節した大量の矢が襲う。


 壁にあるからって、別に水平方向にしか矢を放てない訳じゃないのよ。

 発射口の角度くらい、いくらでも調整できる。

 あと、この矢にも毒が塗ってあるから、掠りでもしたら症状が悪化します。

 ついでに、ボス部屋にも猛毒の霧が充満してる。

 猛毒フロアを抜けたからと言って、毒の脅威から解放されるなんて甘い話はないのだ。


 放った矢のいくつかが、上空で身動き取れない真装使いの男に命中する。

 槍を回転させて殆どの矢を打ち落としたのは凄いと思うけど、防ぎきれはしなかったようだ。


 そして、丁度真装使いの男の上に、天井に仕掛けたギロチンがあったので起動。

 矢に紛れて落ちてきたギロチンに直前まで気づかなかったのか、対応が致命的に遅れて、真装使いの男の片腕が切断される。


 しかし、そこはさすがの『不死身の英雄アキレウス』。

 切断した次の瞬間にはHPが回復し、腕が一瞬にして再生した。

 まあ、MPと引き換えの超回復だから、今の攻撃も決して無駄じゃない。


 更に、まだ真装使いの男が上空にいる内に、しこたま矢を射っておく。

 それを何とかしながら地面に着地したら、今度は新しい床トラップである地雷が炸裂。

 ダメージを与えつつ、爆風で真装使いの男を吹き飛ばす。

 吹き飛んだ先の床には剣山。

 前回、中年ゾンビの時の反省を活かして、今のボス部屋の床には、ほぼ隙間なくミッチリとトラップが仕掛けられているのだ。

 最後の砦という事で、この部屋の強化にはDPを惜しまなかった。


 ……というか、今のところトラップだけで圧倒できてるな。

 リビングアーマー先輩は、開始地点から一歩も動いてない。

 一応、この戦いはリビングアーマー先輩手動操縦モードのお披露目だというのに。

 まあ、圧勝できるに越した事はないし、文句はないけれども。


 そして、体に突き刺さった剣山から無理矢理脱出した真装使いの男は、その隣の床にあった落とし穴にハマった。

 あとは、このまま動けないところを矢の一斉掃射で終わりかな?

 そう思った時……


『《フリーズ》!』


 真装使いの男が、強力な冷気の魔法を発動させ、床一面を凍りつかせた。

 しまった!?

 そういえば、こいつ氷魔法のスキル持ってたんだった!

 これで、床トラップを封じられてしまった。

 地雷や剣山なら、氷の壁を突き破って使えるかもしれないけど、落とし穴は完全無効化だ。

 こんな事なら、火炎トラップでも造っておくんだった。


『《ファイアーボール》!』


 とか思っていたら、真装使いの男がセルフで火の魔法を使ってきた。

 大きな火の球が、ボス部屋の中心に太陽の如く浮かぶ。

 これは多分、視界の確保の為だと思う。

 最初の攻撃だけで、真装使いの男が手に持ってたカンテラは破壊してたから。


『ハァアアアア!』


 そして、床トラップを無効化し、視界を確保した真装使いの男が、最後の力を振り絞るとばかりに、リビングアーマー先輩に突撃してきた。

 そう、最後。

 これが最後の力だ。


 真装使いの男のMPは、猛毒フロアでの消耗に加えて、ボス部屋での戦闘で致命傷を何度も治し、更に今2つの魔法を使ってしまった事で、完全に尽きかけていた。

 故に、これが最後の特攻。

 リビングアーマー先輩は、私の操縦により、それを真っ向から迎え撃つ。


『《ソニックランス》!』


 なけなしのMPを全て注ぎ込んだ技。

 槍のアーツがリビングアーマー先輩に迫る。

 リビングアーマー先輩はそれを、


 盾を使って、軽やかに受け流した・・・・・


『なっ!?』


 まるで中年ゾンビのような、流麗な技。

 そう。

 私は、中年ゾンビとの特訓の中で、その技を確実に吸収しているのだ!

 まあ、さすがに今の私の腕前だと、テレフォンパンチを受け流すのが精一杯だけども。


 だが、真装使いの男の渾身の一撃を、ノーダメージで受け流したという事実は変わらない。


『そ、そんな……』


 真装使いの男が、絶望の表情で崩れ落ちた。

 MPが完全に尽き、真装が解除される。

 もう、こいつを守るものは何もない。


 私は、壁にある矢の発射口を、全て真装使いの男に向けた。


 さっきの火の球がまだ残ってるせいで、真装使いの男はその事を理解できてしまったのだろう。

 一気に顔が青ざめた。


『ひっ!? ま、待ってくれ! 助けて! 死にたくない!』


 待たない。

 グズグズしてたら、MP自動回復でまた真装を出されるかもしれないから。

 だから、さっさと終わらせる。


 私はリビングアーマー先輩を操作し、剣を天井に向かって上げさせた。

 そして、それを振り下ろす動作をさせる。

 まるで指揮者の持つタクトのように、リビングアーマー先輩の剣が振り下ろされた瞬間にトラップを起動。

 無数の矢が、真装使いの男の全身を貫いて絶命させる。

 きっと、リビングアーマー先輩の剣が振り上げられてから、振り下ろされるまでの瞬間は、

 死刑執行を待つ罪人のような気持ちになって、さぞや怖かった事だろう。

 仲間を囮にするようなクズには、お似合いの最期だと思う。

 ……まあ、私も人の事をクズとか言える人間じゃないけど。

 そもそも、私もう人間じゃないし。

 ダンジョンマスターだし。


 さて、それはともかく。

 真装使いの男を殺した事で、結構なDPが入ってきた。

 これで今回の侵入者は、ゴブリン達のおもちゃにされてる1人を除いて全滅したという事になる。

 今回も無事に生き残った。

 それに、ボス部屋の新体制を実戦で試せたのは良かったと思う。

 けど、やっぱり命懸けの戦いは疲れるわ……。

 戦果の確認を済ませて、早く休もう。


 そうして私は、ふかふかのソファーに座りながら、戦果の確認に移った。

 ふっ。

 私も偉くなったもんだぜ。

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