とある勇者の心が折れる音 2
「シンドウ様! お待ちください!」
「《フォトンブレード》!」
ウォーロックさんの制止を無視して、神道の真装、エクスカリバーが光を纏って魔王に牙を剥いた。
あれは、ユニークスキル『勇者』の効果によって習得できるスキル『神聖魔法』による光。
普通の魔法とは威力が桁違いだ。
それが、魔物殺しの専用効果『
いくら魔王と言えども、まともに食らえばダメージくらい入るだろう。
そう、まともに食らえば。
「よっ」
「ッ!?」
魔王は、まるで郷田の攻撃を止めた時みたいに、片手であっさりと神道の攻撃を止めた。
今回はその手に剣を握ってるけど、やられる方にしてみれば関係ないだろう。
どっち道、魔王との間に、絶望的なまで力の差があるって事に変わりはないんだから。
魔王が神道とつばぜり合う腕に力を籠め、軽く薙いだ。
それだけで、神道が冗談みたいに吹き飛ぶ。
どんなチートだよ。
本当に勘弁してほしい。
「魔王よ。助太刀はいるか?」
「いらぬ。お主は十二使徒の相手でもしておれ。弱りきったあやつらなら、お主でも殺れるじゃろう」
「あいわかった!」
魔王とドラゴンの間で、そんな会話が交わされ、神道の援護に回ろうとしていたウォーロックさん達が、ドラゴンに襲われる。
これで協力プレイも封じられた。
まるで詰め将棋のように、逃れられない終末に向かって、着々と進んでいるような感じがする。
「くっ……! 《シャイニングレイ》!」
「ハッ! か弱いのう」
神道の放った神聖魔法。
正統派のレーザービームを、魔王は軽く剣を振って斬り裂く。
「そうら、お返しじゃ! 《ダークネスレイ》!」
「ぐっ……!?」
今度は、魔王が黒いレーザービームを放った。
神道の魔法どころか、明らかにドラゴンのブレスよりも強力な一撃が神道を呑み込む。
ああ、終わった……。
「ぐぅ……!」
「ほう。まだ生きておるのか。やはり他の勇者とは一味違うようじゃな」
と思ったら、ボロボロになりながらも、神道はまだ生きてた。
でも、それで状況が好転する訳じゃない。
マンガとかだったら、ここから奇跡の大逆転勝利があるのかもしれないけど、ここは理不尽で残酷な現実だ。
圧倒的な力の差は、どう足掻いても埋められない。
ネズミは、猫に勝てない。
「しかし、まあ、お主が成長しておれば厄介だったじゃろうな。
弱い内に潰せて万々歳じゃよ。
では、さらばじゃ。未熟な勇者よ」
魔王が、ボロボロの神道に向かって、黒い剣を振り上げた。
そして、それが高速で振り下ろされ、既に避ける力も残っていない神道を、今度こそ殺して……
「うぉおおおおおおおお!」
「ぬ!?」
その直前、ドラゴンを振り切ったらしい血塗れのウォーロックさんが、神道と魔王の間に割って入って、黒い剣の一撃を真装の大盾で防いだ。
代わりに、盾には凄いヒビが入ったけど、ウォーロックさんは気にも留めずに叫ぶ。
「エマ! シンドウ様だけでも連れて逃げなさい! あなたの『
「し、しかし……」
「十二使徒としての使命を果たしなさい! 人類の希望を絶やしてはなりません!」
「……了解しました」
ウォーロックさんの叱責を受けて、エマちゃんが覚悟を決めたような雰囲気になる。
そんなエマちゃんの視線が一瞬こっちに向いて、俺と目が合った。
驚愕された。
でも、エマちゃんは速攻で驚愕を振り払って、神道に右手を、俺とアイヴィさんに左手を向けながら、そのスキルを発動させる。
エマちゃんの真装の専用効果を。
「『
「な、なんだ!?」
俺達三人の背中から、エマちゃん達と同じ天使のような翼が生え、俺達の意思に関係なく、体がフワリと宙に浮かぶ。
目の見えていないアイヴィさんがびっくりしてしまった。
これが『
対象に魔力で出来た翼を生やし、飛行能力を与えると共に、まるでバーニアのように対象者の動きをサポートする。
そして、今みたいに、その翼の動きをエマちゃん自身が操る事もできるらしい。
だからこそ、既に動けない二人や、逃げる気力すら失った俺の体を勝手に動かして、全力逃走する事ができる。
「逃がすか!」
「行かせませんよ! 命に懸けて貴様を止めます!」
「オラァアアアアア!」
「ええい! 鬱陶しい! というか、ドラグライト! もっとしっかり仕事せい! マモリを見習え!」
「すまん! こいつら、予想以上に強かったのだ!」
そんな会話が、凄い勢いで遠ざかって行く。
ああ、これは、もしかしたら助かったのかもしれない。
でも、生き残ったところで、俺にできる事はないだろう。
もうダメだ。
心が折れてしまった。
ごめんなさい、カルパッチョ教官。
俺にはもう、ポジティブシンキングなんて無理です。
俺にはもう、戦いの場に赴く勇気すら残ってないんです。
俺はもう、勇者なんかじゃない。
圧倒的な恐怖に心をへし折られた、ただの負け犬だ。
飛行する俺の背後から、凄まじい轟音が聞こえた。
ウォーロックさんとガルーダさんが、命を捨てて恐怖の化身と戦ってる音だ。
そんな二人に守られて、そして、エマちゃんに助けられて。
生きる気力すら失った
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