17 真装使い
ダンジョンも良い感じに仕上がり、特訓の成果もようやく少し出てきた今日この頃。
ダンジョンの方は未だにゴブリンが住み着いててウザイし、しかも何か外から数匹新しいゴブリンが増えて心底不快だけど、問題という程じゃない。
むしろ、ゴブリンどもが居座ってる事で、一応は私にもメリットがある。
それは、DPの入手だ。
今までは侵入者が全員すぐに死んでたから関係なかったけど、一応、侵入者がダンジョン内に居る状態を維持する事でもDPは入ってくる。
ゴブリン全員合わせて、大体一日1000DPくらいが入ってくるようになった。
これは無視できない数字だ。
まるで家賃でも払われているような気持ちになる。
これならまあ、第二階層に進出してくる様子もないし、第一階層に居座るくらいなら別に許してやろうかな、とか思ってしまっている自分がいるのが怖い。
それに、そもそもボス部屋から動かせないリビングアーマー先輩以外だと、ウチの戦力でゴブリンチャンピオンを倒せる奴はいないから、どの道、放置するしかないんだけども。
だからもう、ゴブリンの事はいいや。
ほっとこう。
それより、特訓の話だ。
成果が出たというのは、リビングアーマー先輩とトラップを上手く動かせるようになったっていうのもそうだけど、
それ以上に、私が新しいスキルをゲットした事が大きい。
その名も『並列思考:Lv1』と『演算能力:Lv1』。
どっちも頭の働きを補助してくれるスキルだ。
並列思考のおかげで、リビングアーマー先輩とトラップを同時に動す時、楽になったし、
演算能力のおかげで、常に位置取りやトラップの発動箇所を計算しながら動かせるようになった。
おかげで、遂にステータスによるゴリ押しを使わずに、中年ゾンビを倒す事ができたのだ!
これは大いなる進歩である。
このまま特訓を続け、スキルLvが上がっていけば、更なる戦闘力の向上が見込めるだろう。
やっぱり、私がリビングアーマー先輩を操作するという作戦は間違ってなかったんだ!
これからも頑張ろう!
そう思いながら特訓を続けていた時、私の感覚がまた侵入者の存在を感知した。
またゴブリンか?
そんなうんざりとした気持ちでモニターを確認すると、なんと侵入者は人間だった。
別に驚く事じゃないんだけど、ここ数日ゴブリンしか見てなかったから、なんとなく新鮮だ。
こんな事を考えられる辺り、私も余裕が出てきたな。
で、今回の侵入者は、槍を持った男1人と、女が3人。
最初の侵入者3人や生前の中年ゾンビみたいに、全員冒険者みたいな格好してる。
やっぱり、冒険者なのだろうか?
冒険者という名称の職業についてる連中なのだろうか?
うん。
冒険者と呼んでおこう。
冒険者どもは、女の1人が手に持ったカンテラで洞窟の中を照らしながら、内部を探索していく。
このままだと、ゴブリンどもとぶつかりそうだ。
私としては共倒れが一番嬉しい。
という事で、この冒険者どもがゴブリンどもに勝てるのかどうか調べるべく、鑑定を使った。
そしたら、予想外の結果が出た。
ーーー
人族 Lv40
名前 ケビン
HP 760/760
MP 600/600
攻撃 513
防御 534
魔力 490
魔耐 509
速度 511
ユニークスキル
『真装』
スキル
『MP自動回復:Lv2』『槍術:Lv6』『火魔法:Lv4』『氷魔法:Lv4』『隠密:Lv6』
ーーー
鑑定して見た冒険者の男のステータスが、これだ。
単純なステータスなら中年ゾンビと同程度。
つまり、生前の中年ゾンビよりは弱い。
その代わりに魔法スキルを持ってるけど。
でも、そんな事は些事だ。
こいつには、私と同じ『ユニークスキル』がある。
初めて、自分以外のユニークスキル持ちに会った。
……これ、ヤバイんじゃないか?
私の大魔導先輩のチートっぷりを考えると、こいつのユニークスキル『真装』とやらが大魔導先輩と同程度の性能を持っていた場合、とてもゴブリンどもじゃ太刀打ちできない筈。
相性によっては猛毒フロアも越えられかねない。
もっと言えば、リビングアーマー先輩までやられる可能性すらある。
ヤバイ!
お、落ち着け!
まずは深呼吸だ!
「ヒッ、ヒッ、フー!」
よし落ち着いた!
次は、とりあえず、真装とやらの詳細を鑑定!
ーーー
真装
この世で唯一、後天的に習得できるユニークスキル。
己の真なる武装を顕現させる。
ーーー
んん?
よくわからないぞ。
とりあえず、この真装とやらが後天的に獲得できるユニークスキルだって事はわかったけど、肝心の効果説明が意味不明だ。
何?
己の真なる武装を顕現させるって?
中二心が疼くワードだけど、今欲しいのは中二的で難解な言い回しじゃなくて、具体的な効果説明なんだよ。
効果がわからなきゃ、対策が立てられないじゃん!
……でも、まあ、わからないものは仕方ない。
奴のステータス的に考えて、ゴブリンチャンピオンとぶつかれば真装を使わざるを得ないだろうし、分析はその時にするしかないか。
そう考えると、ゴブリンどもも少しは役に立つな。
災い転じて福と成すとはこの事だ。
それはそれとして、今度は仲間の女どもを鑑定しておこう。
これで全員がユニークスキル持ちとかだったら目も当てられないな……。
どうか、違いますように。
ーーー
人族 Lv10
名前 ハンナ
状態異常 奴隷
HP 70/70
MP 40/40
攻撃 42
防御 44
魔力 28
魔耐 41
速度 55
スキル
『剣術:Lv1』
ーーー
人族 Lv8
名前 アナ
状態異常 奴隷
HP 51/51
MP 55/55
攻撃 15
防御 17
魔力 43
魔耐 32
速度 40
スキル
『回復魔法:Lv1』
ーーー
人族 Lv6
名前 クララ
状態異常 奴隷
HP 33/33
MP 26/26
攻撃 10
防御 11
魔力 12
魔耐 18
速度 14
スキル
なし
ーーー
これは……違う意味で予想外。
まず、ユニークスキル持ちどころか、思いっきり弱かったのは嬉しい誤算だ。
それどころか、戦闘員として通用するのは、ハンナとかいう女だけだと思う。
ただ、表示された状態異常は予想外だった。
奴隷だったのね、あの3人。
というか、奴隷って状態異常扱いなんだ……。
一応、奴隷の項目を詳細鑑定しておこう。
ーーー
奴隷
奴隷紋という特殊な刻印を刻まれ、主に逆らう事ができなくなった状態。
ーーー
うん。
奴隷紋とか、ちょっとファンタジーな単語が出てきたけど、概ね予想通り。
となると、この3人は肉壁だろうか?
いや、ゴブリン程度になら通用すると思って連れて来られたのかもしれない。
実際、剣術のスキル持ってるハンナとかいう女なら、ゴブリンくらい倒せるだろう。
アナとかいうのは回復要員として、スキル持ってないクララとかいうのは……荷物持ち?
あるいは、性奴隷という可能性もあるか。
あの3人、私程じゃないけど結構な美少女だ。
ハンナとアナが私と同い年か少し上くらい。
クララって奴は中学生くらい。
あの男の性欲処理に使われててもおかしくはない。
まあ、その場合は、なんで性奴隷を洞窟に連れて来てんだって話になるけど。
なんにせよ、警戒に値するのはケビンとかいう男のみ。
ただし、こいつだけはユニークスキル持ちで、強敵の予感しかしない。
死ぬ気で防衛せねば。
私は、第一階層を進む侵入者達の姿を、モニター越しに睨み付けた。
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