54 王都への道中と、魔法の習得
オートマタはリーフを連れて半日歩き(途中でリーフが疲れたり、お腹が鳴ったりしたので、休憩と食事を挟みつつ)、再びボルドーの街を訪れた。
道中でリーフに聞いた話だと、ボルドーの街から馬車を乗り継げば、10日くらいでこの国の王都に行けるらしい。
奴隷のくせに物知りな奴。
やっぱり、良い買い物だった。
ちなみに、この情報は前の主人に連れ回された時に知ったんだって。
その話をした時のリーフの目が濁りきってたのが印象的だったわ。
前の主人に、何か恨みでもあるようだ。
まあ、どうでもいいけど。
それはともかく。
オートマタはリーフに案内されて、馬車の出るバス停みたいな場所にやって来た。
その中から王都行き(正確には、中継地点の街行き)の馬車に乗り込み、御者に代金を支払う。
この手続きは、全部リーフがやってくれた。
私はこの世界の常識に疎いので、正直助かる。
そして多分、リーフもそれをわかってやってんだろうなと思う。
私が異世界人とまではわからなくても、昨日の魔王との会話で、私が普通の人間じゃない事くらいは気づいただろうし。
私がリーフにこの世界の常識を聞いたのも、人外だから人間の事情を知らなかったとか、そんな感じで自己解釈しているものと思われる。
まあ、それはいい。
便利だし。
そう思わせておこう。
そんな事を考えている内に、馬車には定員と思われる人数が乗り込み、出発した。
満員電車並みとまでは言わないけど、中々の混みっぷりだ。
本体だったら、絶対に行きたくない。
セクハラされるのが目に見えてる。
私がモニター越しにうんざりしている間にも、馬車はガタゴトと進む。
さすがに、典型的なファンタジー世界であり、中世ヨーロッパくらいの文明レベルである、この世界の馬車は揺れる。
だって、日本と違って、道がコンクリートで舗装されてる訳ないんだから。
一応、街道は舗装っぽい事がされてはいるけど、それでも完璧には程遠いから、揺れる揺れる。
オートマタ視点のモニター見てたら、こっちまで酔いそう。
「何かあったら起こして」
「え? あ、ちょ!? ご主人様!?」
それは嫌だったので、隣に座らせたリーフにそう言ってから、オートマタをまるで眠ってるかのような体勢にして、オートマタ視点のモニターを切る。
俯瞰視点のモニターは残してあるから、大きな問題はないだろう。
念の為に、異常が起きたらアラームが鳴るようにセットしておこう。
で、この馬車が中継地点の街に着くまでにも数日かかる。
その間、オートマタはひたすら馬車に揺られてるだけだろうし、私が操作する必要がある時間はぐっと減る。
せっかくだから、この空いた時間を利用して魔法を覚える事にした。
DPで入手可能なアイテムの一覧を開き、そこにある色んな魔導書の表示を見つめながら考える。
とりあえず、最初に読む魔導書は『初級魔法の魔導書』にしよう。
何事も基本が大事。
これは、どんなものでも、どこの世界でも変わらない筈だから。
それはいいとして、問題はどの属性の魔法を覚えるかだ。
今まで見た魔法使い(というか侵入者)は、殆どが二種類くらいの魔法しか覚えていなかった。
爺ゾンビですら三種類、魔王ですら四種類だ。
これはつまり、あんまり多くの魔法を覚えるより、自分の得意な魔法だけを集中して鍛えた方が強くなれるという事。
考えてみれば当たり前の話で、スキルLv10の魔法が十種類あるより、スキルLv100の魔法が一つあった方が強い。
魔法スキルは、Lvを上げれば上げる程、強力な魔法を使えるのだから。
そして、スキルを鍛えてスキルLvを上げるのには時間がかかる。
一つの魔法を徹底的に鍛えれば、必然的に他の魔法を鍛える時間はなくなる訳だ。
だからこそ、魔法スキルの習得は一つか二つか、多くても三つくらいまでに留めて、その魔法を徹底的に鍛え上げるのが魔法使いの常識。
そんな話を、ボルドーの街まで歩く道中でリーフに聞いた。
ついでに、真装の会得方法も聞き出したんだけど、これについては後でいいだろう。
どう考えても、一朝一夕で身に付くものじゃないし。
まずは、大魔導先輩のおかげで、簡単に覚えられそうな魔法からだ。
改めて、どの属性の魔法が良いか考える。
とりあえず回復魔法は必須かな。
私が魔法を使って戦う時は、まず間違いなくリビングアーマー先輩を着込んでいるだろう。
そして、リビングアーマー先輩にはDPを使った回復手段がある。
なのに、中身の私に回復手段がなかったら、せっかくのリビングアーマー先輩という最強の鎧を有効活用できない。
という事で、DPで『初級回復魔法の魔導書』を購入。
早速、読んでみる。
最初のページに書かれていたのは、最も初歩的な回復魔法と思われる《ヒール》の効果説明と詠唱。
まあ、とりあえずやってみようではないか。
「彼の者を癒したまえ━━《ヒール》!」
その詠唱を唱えた瞬間、淡い光が私を包み込んで消えた。
今のが《ヒール》の効果、癒しの光だ。
あれに包み込まれた対象を回復させるのが《ヒール》の魔法。
というか、魔導書を読む限り、回復魔法は大体がこんな感じみたいだけど。
で、私は無傷で回復する必要がないから、魔法は効果を発揮せずに消えたと。
でも、効果はなくとも発動はしたし、MPもほんのちょっと減ってる。
成功だ。
リーフの話だと、この魔法習得の第一歩で躓く奴も多いらしいから、非常に順調なスタートと言える。
あとは、これを繰り返す内に魔法スキルが獲得できる筈だ。
時間はあるんだし、今日は回復魔法の習得に費やしちゃおっかな。
そう思ってたんだけど……10分後、私の予想は裏切られた。
良い意味で。
「嘘……もう習得できた?」
まさかのスピード展開。
私は、僅か10分で回復魔法のスキルを習得した。
ステータスに『回復魔法:Lv1』が追加されてたから間違いない。
私、天才すぎである。
「まあ、大魔導先輩のおかげって事はわかってるけど」
大魔導先輩には、MPと魔力のステータスを爆上げする以外に、魔力関連スキルの獲得熟練度を大幅に上昇させる効果がある。
あと、勇者の称号の成長補正も仕事したんだろう。
改めて、勇者ってチートすぎる。
さすが、あの
確かに、最大強化された勇者が10人くらいいれば、魔王を倒せるかもしれないと思えるわ。
もちろん死闘になるのは間違いないだろうし、私はそんな危ない橋渡りたくないから、できるだけ魔王とは敵対しないようにするけどね。
それはともかくとして。
思いのほか速く回復魔法を習得できた訳だけど、次はどうしようか?
このチート成長速度があっても、魔法は二種類くらいしか習得しないという前提を崩す気はないから、覚えられる魔法は、あと一種類。
とりあえず、攻撃魔法を覚える事は確定。
私のバカ高い魔力のステータスを攻撃に使わないなんて、あり得ないから。
問題は、どの属性の魔法を覚えるかだ。
対魔王を想定するなら光魔法とかよく効きそうだけど、それはボス部屋のレーザービームで間に合ってるんだよなー。
あのトラップなら、今のままでも少しは魔王にダメージ与えられそうだし、莫大なDPを使えば強化ができる。
せっかく魔法を覚えるんだから、今ある攻撃手段とは被らないようにした方がいいような気がするんだ。
なんとなくだけど。
同じ理由で、火と風と氷も却下。
火と風のトラップは、あんまり使わないけどボス部屋に仕掛けてあるし、氷は爺ゾンビと被る。
あと、闇は魔王に通用するイメージがどうしてもわかなかったから却下。
残るは、水と土と雷。
この三つの中だと、雷かな。
水は攻撃力低そうだし、土は地面を動かせないダンジョンの中だと弱体化しそうだ。
幸い、と言っていいのかはわからないけど、雷のトラップはDP的に高くて、リビングアーマー先輩の強化とレーザービームを優先して手を出してなかったから、被る事もない。
それに、敵が雷で痺れて一瞬でも動きが止まれば、ボス部屋のトラップ地獄の餌食にできるし、ボス部屋との相性も悪くない気がする。
よし、決めた。
雷魔法を覚えよう。
早速、『初級雷魔法の魔導書』をDPで購入する。
でも、回復魔法と違って居住スペースの中で発動させるのも怖いから、新しく広めの訓練場みたいな部屋を造って、そこで練習を始めた。
まずは、《ヒール》と同じく最も初歩的な雷魔法《サンダーボール》から。
「我が敵を穿て━━《サンダーボール》! わ!?」
その瞬間、凄まじく巨大な雷の玉が現れて、目にも留まらぬスピードで訓練場の壁に叩きつけられた。
破壊不能なダンジョンの壁じゃなければ、消し炭にしてたと思う。
初歩的な魔法でこれとか、さすが大魔導先輩のチート魔力……。
居住スペースで使わなくてよかった。
「……でも、これは期待できる」
私はニヤリと笑った。
今でこれなら、Lvを上げて、努力で鍛えて、真装を会得すれば、私の魔法は十分魔王に通用するだけのポテンシャルを秘めている。
希望が出てきた。
よっしゃ!
頑張ろう!
『あの……ご主人様……そろそろ起きてください……』
そんな意気込みで魔法を練習しまくり、スキルLvが5くらいに上がった時、モニターから消え入りそうなリーフの声が聞こえた。
どうしたと思ってモニターを見るも、異常は見受けられない。
あれ?
でも、この映像、なんか違和感が。
そう思ってモニターの視点を変えてみると、なんとオートマタがリーフに寄りかかっていた。
ああ。
馬車の振動で体勢が変わっちゃったのか。
オートマタはセクハラ対策で角の席に座らせておいたし、防波堤として、その隣にリーフを座らせた。
そうなると、体勢が崩れれば必然的にリーフに寄りかかる姿勢になると。
で、リーフは女体との接触で赤面してる訳か。
んー。
まあ、放置でいいや。
他の人間ならともかく、リーフなら変な事はできないだろうし。
したら去勢するだけだし。
実害もないから、魔法の練習を優先しよう。
そうして、私は魔法を撃ち続け、リーフは煩悩に耐え続けるのだった。
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