32 ここからが本番だ

「あー……」


 燃えていく、くっ殺ゾンビと俊足野郎を見て、私はこうなったかと若干頭を抱えた。

 あれだけ派手に燃えたんじゃ死体も残らないだろうし、これは失敗したかもしれない。



 こうなる少し前。

 恐れていた事態が発生し、ゴブリンロードが第二階層に逃げ込んでしまった時点で、私は準備していた作戦を開始した。

 というか、討伐隊が氷魔法で道を塞ぐというガチの姿勢を見せた時点で、こうなる事は半ば確信してたんだけど。


 まず、ゴブリンロードが迎撃に出たせいで放置された、くっ殺女の死体を回収。

 まず一つ言っておくと、このくっ殺女を殺したのは私じゃない。

 ゴブリンロードに死ぬ一歩手前までお楽しみされた後に放置され、

 そこに現れた普通のゴブリンどもが、おこぼれだヒャッハー! みたいなノリで◯◯◯ピーして殺してしまったのだ。

 死ぬ一歩手前まで弱っていた為に、普通のゴブリンにお楽しみされただけで死んだ。

 全ては、統率なんてスキルを持ちながら、部下に命令するのを忘れたゴブリンロードのせいだな。

 ちなみに、下手人のゴブリンどもは、ゴブリンロードの応援に行って俊足野郎に殺されている。


 それはいいとして、私はその回収したくっ殺女の死体で、いつもの如くハイゾンビを造った。

 くっ殺ゾンビだ。

 ネーミングに反論は受け付けない。


 でも、本当なら、くっ殺ゾンビなんて造るつもりはなかった。

 確かに、真装使いの戦力は喉から手が出る程欲しいけど、討伐隊の会話の中に「お転婆王女」なんて単語が出てきた時点で、ゾンビにするつもりはなくなったと言っていい。

 こいつ王女だったんか!? と驚愕しつつ、私は回収機能を使おうとして弄ってたモニターから、慌てて手を離した。


 だって、たとえ討伐隊がゴブリンロードを第一階層で仕留めたとしても、王女が見つからないと帰らないと思ったから。

 逆に、ゴブリンロードを第一階層で倒して、死体でも何でも王女を発見すれば、討伐隊は洞窟の奥になんて進まずに帰ってくれる可能性が高かったと言える。

 だからこそ、くっ殺王女の死体は回収しなかった。


 しかし、ゴブリンロードが逃げてしまえば、その気遣いも無駄だ。

 討伐隊は第二階層に進出するだろうし、ここがダンジョンだと気づくだろう。

 少なくとも、普通の洞窟じゃない事くらいは気づくだろう。

 そうしたら、今回は帰っても、また別の調査団とかが来るかもしれない。

 それは駄目だ。

 だから殺す。

 皆殺しにする。


 その為には、少しでも多くの戦力がいるって事で、王女の死体を回収して、くっ殺ゾンビを造った。

 そして、第二階層に侵入して来たゴブリンロードを、動く壁トラップで討伐隊と引き離し、黒鉄ゴーレム部隊と三体のゾンビを派遣。

 弱りきったところを袋叩きにして仕留めた。


 この時、地味にくっ殺ゾンビが良い仕事した。

 くっ殺ゾンビの真装の専用効果『踊る姫君フランチェスカ』は、なんとなくダンスっぽい動きのアーツをいくつも使えるようになるって効果なんだけど、

 そのアーツの攻撃力が、明らかにステータス以上の破壊力を持ってたのだ。

 それこそ、ゴブリンロードに致命傷をガンガン与えられるくらいに。


 思い返せば、最初に侵入して来た時もそうだったわ。

 生前のくっ殺ゾンビは、真装を使ってもせいぜい互角くらいの筈のゴブリンチャンピオンを、アーツの連打で一方的にボコボコにしてたのだ。

 これは良い拾い物したかもと、私は内心喜んでた。


 でも、その良い拾い物が、次の瞬間にはお釈迦になっちゃったけどな!


 討伐隊への罠として、あえて負傷を治さなかった裸のくっ殺ゾンビ(ちなみに、最初から服は着せてないから、ゴブリンロードと戦ってる時も全裸だった)を地面に寝かせ、見事に俊足野郎を釣り上げて、真装で心臓を一突きにしたところまでは良かった。

 しかし、まさか俊足野郎が、くっ殺ゾンビもろとも焼身自殺を図るとは。

 混乱の中で死んでくれると思ってたのに。


 でも、まあ、くっ殺ゾンビ一体の犠牲で、敵の重要な戦力を一人潰せたと思えば、そう悪くもないかな。

 それに、くっ殺ゾンビがいなくなっても、私はそれ以上の良い拾い物をしたし。

 それが、こいつだ!


ーーー


 ハイゾンビ Lv88(lock)

 名前 ギラン


 HP 8955/8955

 MP 7623/7623


 攻撃 4649

 防御 4554

 魔力 4590

 魔耐 4498

 速度 4500


 ユニークスキル


 『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv6』『MP自動回復:Lv8』『斧術:Lv9』『火魔法:Lv10』『回復魔法:Lv11』『統率:Lv10』『隠密:Lv10』


ーーー


 そう!

 ゴブリンロードのハイゾンビ、ゴブリンゾンビだ!

 なんで、わざわざゴブリンロードを討伐隊から引き離して討伐したかって言ったら、この為だよ。

 今は私のダンジョンの一員として、黒鉄ゴーレムと他二体のゾンビと共に、残りの討伐隊を元気に相手してる。


 あと、嬉しい誤算だったんだけど。

 ゴブリンゾンビの真装の専用効果『蛮族の狂宴バーバリアン』による同族強化が、他のゾンビ二体に対して有効だったのだ。

 種族がゴブリンからゾンビに変わったせいだと思う。


 おかげで、インフレに置いていかれてた中年ゾンビと真装使いゾンビ(真装使いのゾンビが増えてきたから、これからは不死身ゾンビと呼ぶ事にする)が、最前線で討伐隊と張り合えてる。

 あ、討伐隊一人死んだ。

 でも、こっちの黒鉄ゴーレムも大分減ってる。

 戦闘に夢中で残骸を拾う奴がいないのを良い事に、回収機能で回収してゴーレム生産部屋に突っ込んで復活させてるけど、戦線復帰までは時間がかかりそう。

 何せ、モンスターの転送機能だと、侵入者のいるフロアへは送れないから。

 だから、第二階層の別の所に転送して、そこから走りで戦線に戻さなきゃいけない訳だ。

 それは時間がかかる。

 

 このままだと、替えの利かない戦力であるゾンビどもがやられそうだったので、今まで弱すぎて出番がなかったロックゴーレム部隊を戦線に投入。

 ロックゴーレム達を壁にして、主戦力を撤退させた。

 この後はゾンビをDPで修復して、ヒットアンドアウェイで討伐隊を弱らせてもらおう。

 その前に、動く壁使って分断させてもらうけど。

 さっきまでは、くっ殺ゾンビのトラップを上手く使う為に、ダンジョンのトラップは使ってなかったからね。


「さて、ここからが本番だ」


 私は、居住スペースでいちごミルクを飲みながら気を引き締めた。

 甘くて美味しい。

 糖分によって頭が冴えるぜ。

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