83 砦の現状

 翌日。

 入国の時にも通った国境の砦へとやって来たオートマタは、他の冒険者どもと一緒に、現地の指揮官っぽい奴から現状の説明を受けた。


 指揮官の話によると、この砦はつい先日、大規模な魔物の群れによる襲撃を受けたらしい。

 それは辛くも撃退できたけど、魔物の群れが現れたのはウルフェウス王国の方角から。

 しかも、魔物の群れの規模からして、そいつらは魔王軍である可能性が高い。

 なら、その進軍経路上にあったウルフェウス王国が突破されたという事。


 それに危機感を覚えた指揮官は、既に方々へと早馬を走らせ、この事態の説明と援軍の要請をしたとの事。

 今回、冒険者どもが集められたのも、その一環。

 共に力を合わせて、悪しき魔王軍に立ち向かおう。

 そんな感じの説明がされた。


 でもこれ多分、意図的に話してない事もあるんじゃないかな。

 つい先日、魔物の群れに襲われただけにしては対応が早すぎるし、相手を魔王軍と断定してる。

 そこまでわかってるのに、街の方では噂話程度にしか情報が流れてなかったのも不自然だ。


「リーフ、どう思う?」

「多分、混乱を避ける為に情報を制限してるんだと思います。そうじゃなかったら、今頃バロムの街は大混乱に陥ってたでしょうから」


 あー、なるほど。

 時と場合によっては、そういう事もするか。

 納得した。

 そして、冒険者になっておいてよかったと思う。

 普通に街中にいたんじゃ、制限された情報しか知れなかっただろうし。


 私とリーフのそんな会話も、他の冒険者どものザワめきに紛れて目立ちはしない。

 その内に、指揮官は次の話を始めた。


「そして、君達への最初の仕事だが、ギルドへの依頼にも書いた通り周辺の偵察だ。敵がどこまで近づいているのかを調査してもらいたい。

 もっとも、敵が魔王軍となれば危険な仕事だ。

 受けたくなければ受けなくても構わない。

 だが、受けてくれれば相応の報酬は約束しよう。

 誰かいるか?」

「はいは~い! あたしがやるにゃ~!」


 それに対して、猫耳が真っ先に手を上げた。

 まあ、あいつのステータスは速度寄りだったし、隠密のスキルも持ってたから、こういう仕事には向いてるのかもしれない。

 他にも似たような連中が何人か手を挙げる。

 冒険者は命知らずが多い。


 そして、迷った末に私も手を挙げた。

 目的は言わずもがな、偵察部隊の壊滅である。

 それと、近場まで来てる魔王軍をこの目で確認したかったから。

 どれくらいの規模なのか。

 ドラゴンは来てるのか。

 脳筋じゃない奴はいるのか。

 その辺りを把握して、作戦を立てる時の参考にしたい。


 ちなみに、迷ったのは、砦に残っての内部構造を把握する作業をするのと天秤にかけたからだ。

 暗躍するなら、砦の構造は知っておいた方がいいと思って。

 でも、それは帰って来てからでもできると判断した。

 なんなら、留守中にリーフにやらせてもいい。

 今は今しかできない事、私にしかできない事をやろう。


 という事で、砦にリーフを置いて、オートマタは他の偵察部隊が準備してる場所へと向かわせる。


「ご主人様……くれぐれも気をつけてくださいね」


 別れ際にリーフがそんな事を言ってきた。

 本当に心配そうな顔で、手を胸の前で組んで、まるで祈るようなポーズを取りながら。

 美少女顔エルフのリーフがやると、凄く絵になってる。

 というか、いくら主人とはいえ、殺戮者相手にこんな態度を取るなんて、随分と調教が進んだなー。

 

 私は、いつものように、オートマタの手をリーフの頭に乗せながら、安心させるように言葉を紡いだ。


「心配しなくていい。この程度の事で私は死なないから。

 それより、あなたも自分の仕事を頑張ってね」

「……はい!」

「よろしい。じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 そうしてリーフと別れを済ませ、改めて偵察部隊の所へ。

 でも、その歩き出してすぐの所で、ニヤニヤと笑う猫耳と出くわした。

 殴りたい、この笑顔。


「うふふ~、随分と仲が良いにゃ~」

「悪いですか?」

「いんや、仲良き事は良い事にゃん。ただ、背景に百合の花が咲いてるように見えたから、おもしろそうだと思っただけにゃん♪」


 何を言っているのだろうか、この猫畜生は。

 百合も何も、リーフは男だしペットだ。

 ペットとそういう関係になる訳ないでしょう。

 まあ、こいつにはリーフが奴隷って事くらいしか教えてないし、勘違いするのも仕方ないか。

 そして、勘違いを訂正する必要もない。

 どうせ短い命なんだから。

 

「さて、あんな可愛い子が待ってるんだから、偵察くらい軽くこなして、さっさと帰るにゃ!」

「そうですね」


 お前は始末するけどな。

 そんな事を内心で考えながら、オートマタと猫耳は他の偵察部隊と合流した。

 ちなみに、志願者の数が思ったより多かったので、偵察部隊はいくつかの部隊に別れている。

 それぞれ、4~6人くらいの部隊が5つ。

 オートマタが振り分けられた部隊は、オートマタと猫耳を含めて6人である。

 これは、一般的な冒険者パーティーの人数と同じらしい。

 リーフに聞いた。


「さて、それじゃあ出発だにゃ!」


 全員が揃い、この中で一番ランクが上である猫耳が指揮を執って宣言する。 

 そうして、偵察任務はスタートしたのだった。

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