63 勇者狩り 3

「ぐっ……!?」


 正確無比に振るわれたオートマタの剣は、人体急所の一つである神道の眼球を貫くも、やっぱりステータス差が大きすぎるせいか、眼球の奥にある脳にまでは届かなかった。

 左目一つ潰しただけで、おしまい。

 残念だけど、私じゃこいつを倒せないっていうのは、半ば確信してた事だ。

 だから、落胆はない。

 それよりも、次の一手を放つ方が優先。


「悠真!?」


 神道のピンチに狼狽した魔木と、その魔木を庇っている剣の背後に、神隠しで気配を消した先生ゾンビを忍び寄らせる。

 そして、


「《テレポート》」

「え!?」

「何っ!?」


 二人をテレポートで、この場から消し去る。

 送り先は、ウチのダンジョンの第二階層に新しく造った、中ボス部屋。

 その名の通り、ボスモンスターを倒さない限り脱出不可能のボス部屋として設定してある。

 この部屋のボスは、創造ゾンビによって造られたミスリルで出来たゴーレム。

 ゴーレムのサイズに合わせた巨大な盾と剣で武装し、しかもボス部屋の効果でステータスが3倍になったゴーレム。

 それに加えて、大量のトラップと取り巻きモンスターが侵入者を叩き潰す。

 その中には、不死身ゾンビとゴブリンゾンビも交ざってる始末だ。

 おまけに、第二階層なので、もちろん毒霧がデフォルトで漂っております。


 これぞ、私の造った対お客様用トラップ!

 テレポートで、モンスターハウスにボッシュートである!


 凶悪な致死率を誇る最凶トラップだけど、自分から聖域に侵入者を招き入れる行為だから、あんまりやりたくはない。

 けど、必要とあらばやる。

 使える手は使う。

 それが私のやり方だ!


 ついでに、そろそろMPが限界に達してきた隠密ゾンビと先生ゾンビも、テレポートでダンジョンに戻しておいた。

 貴重な戦力だから、ここで戦いに巻き込んで破壊するのも嫌だしね。


「彩佳! 恭四郎!」


 突然消えた二人に動揺して、神道がそっちを振り向く。

 よそ見してる場合じゃないと思うけど、隙が出来るのは大いに結構だから何も言わない。

 無言で、爺ゾンビの冷凍ビームが、追撃として神道を襲う。


「うっ!?」


 爺ゾンビの魔法攻撃力なら神道にも通じる。

 それで殺せるかと言ったら微妙なところだけど、足止めくらいにはなると思う。

 その間に、私は他のクラスメイトどもを殺そう。

 ただ、爺ゾンビは神道の足止め。

 熱血ゾンビは、敵の雑兵と戦ってて手が離せない。

 オートマタだと、ステータス的に勇者の相手をさせるのは、ちょっと不安だ。

 それに、オートマタは失った時のコストが痛い。


 なので、新しい手駒を造る事にした。

 ちょうどよく新鮮な勇者の死体があったので、DPを使って、それをゾンビ化する。

 死体を中心に、いつもの魔法陣が現れ、頭部をグチャグチャミンチにされた上に、何故か土手っ腹に風穴が空いてる死体が起き上がる。

 クソゴミカスゾンビの出来上がりだ。

 いや、それだとわかりにくいから、ユニークスキルの『破壊王』にちなんで破壊ゾンビと呼んでおこう。

 ちなみに、ステータスはこんな感じ。


ーーー


 ハイゾンビ Lv27(lock)

 名前 ゴウダ・ダイチ


 HP 1/904

 MP 290/300


 攻撃 6321

 防御 770

 魔力 101

 魔耐 741

 速度 450


 ユニークスキル


 『破壊王』『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv8』『剣術:Lv3』


 称号


 『勇者』『異世界人』


ーーー


 破壊王


 攻撃のステータスを大幅に上昇。


ーーー


 まあ、強いっちゃ強い。

 凄まじくバランス悪いけど、攻撃だけはやたらと高いし。

 真装の能力次第では、普通に使えると思う。

 けど、肝心の真装が何故か出ない。

 破壊でもされたんだろうか?

 まあ、それでも、死の恐怖とホラー現象のせいで完全に戦意喪失してる勇者相手なら、普通に勝てるんじゃないかな。


 という訳で、DPで破壊ゾンビのHPを多少は回復させてから、勇者に向けて突撃させる。

 ついでに、黒鉄ゴーレムも何体か召喚しておいた。

 破壊ゾンビは足が遅いけど、黒鉄ゴーレムとオートマタのサポートもあり、加えて勇者どもが腰を抜かしてるのもあって、普通に戦えた。

 

「い、嫌ぁああああ!?」

「死ぬ! 死ぬぅ!」

「ああ、なんで……夢の異世界生活だった筈なのに……」


 そんな断末魔の声を上げながら、勇者どもは死んでいった。

 狂乱しながら放たれた反撃で破壊ゾンビがズタボロにされたけど、気にする事はない。

 どうせ、勇者どもの戦意を挫く為に使っただけの使い捨てだ。

 こんなバランスの悪いステータスじゃ、今後もろくな活躍は見込めないだろうし、HPが0になった時点で、さっさと還元しておいた。


 さて、この調子で、残りの勇者もさっさと殺そう。


「やめろぉおおお!」


 と思ったら、ここで神道が爺ゾンビの魔法を掻い潜って、こっちに向かって来た。

 黒鉄ゴーレムを破壊しながら、残りの勇者どもを守るような位置に立つ。

 だったら、爺ゾンビの魔法で集中砲火してやろう。

 そう思ったんだけど、それは無理みたいだ。


「さっきはよくもやってくれたな! 俺の完璧な肉体に傷をつけおって! 今度は油断せんぞ! 

 雄叫べ━━『ドラゴンオーラ』!」


 このタイミングで、吹っ飛んでたドラゴンが戻ってきたのだ。

 しかも、真装を発動している。

 なんか、オーラっぽい何かがドラゴンを包み込んだ。


「我が肉体美から放たれる、本気の一撃を受けて塵と化すがいい! 《ドラゴンクロー》!」


 思いっきり大きく振りかぶったドラゴンの腕が、戦場となっていた教会を叩き潰すように振るわれる。

 ヤバイと思った私は、全ての戦闘を放棄して、爺ゾンビと熱血ゾンビにオートマタの近くへ来るように指示し、転送機能でダンジョンへと緊急待避させた。

 そして、すぐに多少はMPが回復した先生ゾンビのテレポートを使って、教会から少し離れた場所へオートマタを転送。

 オートマタ視点のモニターに映ったのは、ドラゴンの一撃が教会を木っ端微塵に粉砕するところだった。


「これは、終わったかな?」


 多分、神道は死んでないと思うけど、残りは全滅してる気がする。

 仮に生きてたとしても、私がトドメを刺す事はできない。

 ドラゴンが暴れる現場に突撃しても、バラバラにされるのがオチだろうから。


 勇者の経験値を取られてしまった……。

 まあ、でも半分以上の勇者は私が殺れたんだし、及第点と思っておこうか。

 とりあえず、もう出番がなさそうな熱血ゾンビと爺ゾンビは、未だに中ボス部屋で抵抗を続ける魔木と剣の討伐に向かわせておいた。


「《フォトンブレード》!」

「グォオオオ!?」


 と、その時、瓦礫の山となった教会から飛び出した神道が、いかにもな光り輝く斬撃で、ドラゴンの翼を斬り落とした。

 マジかい。

 ちょっと、予想以上に強いな神道。

 あんなのと正面から戦ったら勝ち目薄いわ。

 オートマタのデザインを弄らなくてよかった。


 そんな事を思いつつ、神道とドラゴンがぶつかり合うのを見物しようとしてた時、━━突如、上空から降ってきた何かが、両者の間に落ちてクレーターを作った。


 クレーターの中身を見る為に、無事だった建物の上にオートマタを登らせる。

 そうして、土煙が晴れた後に目を凝らせば、クレーターの中心にいたのは、ボロボロになった一人の人間だった。

 ただし、犬っぽい耳が頭から生えてる。

 獣人か。

 リーフにこの世界の人種の事は聞いたから、獣人がいるのは知ってたけど、実物は初めて見た。


 続いて、その獣人を追いかけるように翼の生えた女が飛来し、同じく翼が生えた巨人が飛来した。

 ……翼が生えてる人種なんていたっけ?

 この距離だと、鑑定使えないのが痛いな。


「ほう! 我が遊んでおる間に、随分と片付いたようじゃな!」


 そして最後に、黒い大剣を手に持った魔王が現れた。

 飛んで来た三人と神道が、魔王と正面から対峙する。

 という事は、あの三人が十二使徒かな?

 なんにせよ、残りの役者が揃った。

 いよいよ最終局面だね。


 さて、魔王とドラゴンが戻って来た以上、あそこに参戦しても、巻き込まれて無駄に戦力を失うだけだろうな。

 なので、私は狩り残した勇者を確実に仕留めるべく、オートマタをダンジョンへと帰還させる事にした。

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