62 勇者狩り 2

 オートマタ達がテラスに到着した時、そこにいる敵はほぼ全員がドラゴンのブレスを相殺する為の魔法を放っていた。

 それに全神経を集中してるのか、神隠しの効果も相まって、こっちに気づいてる奴は一人もいない。


 あと、遠目に一際派手な戦闘が見える。

 世界観が違うんじゃないかって程、広大な王都を盛大にぶっ壊しながらの戦いが見えた。

 多分、あそこで戦ってるのは魔王だろうな。

 相手は、護衛にいるかもしれないって言ってた十二使徒とやらの可能性が高そう。


 というか、マジで魔王とまともに戦える人間が存在するんだね……。

 恐ろしい事この上ないけど、今はチャンスだ。

 今なら、魔王を出し抜いて勇者狩りができそう。


 並列思考のスキルを使い、そんな考察と同時にこの場にいる戦力の鑑定を行う。

 鑑定が有効な半径10メートル以内に近づいても、誰も気づかないとか。

 神隠しがヤバイ。

 成長される前に潰せて、本当に良かった。


 それはともかく。

 鑑定した結果、この場で一番厄介そうなのは、こいつだった。


ーーー


 人族 Lv90 

 名前 アイヴィ・ブルーローズ


 状態 真装発動中


 HP 12400/12400(6200)

 MP 8421/10080(5040)


 攻撃 10510(5255)

 防御 9986(4993)

 魔力 9800(4900)

 魔耐 10002(5001)

 速度 11442(5721)


 ユニークスキル


 『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv35』『MP自動回復:Lv31』『剣術:Lv50』『火魔法:Lv40』『統率:Lv25』

 

ーーー


 強い。

 平均ステータス約5000で、真装込みなら1万。

 しかも、一番厄介なのはステータスではなく、真装の能力だ。


ーーー


 真装『ティルファング』 耐久値30000


 効果 全ステータス×2

 専用効果 『勝者の加護ティルファング


 真装のスキルによって顕現した力。

 本来の持ち主以外が使う事はできない。


ーーー


 勝者の加護ティルファング


 味方全員のステータスを大幅に向上させる。


ーーー


 ふざけてるのは、『勝者の加護ティルファング』による強化の倍率だ。

 なんと、全ての味方のステータス1.5倍!

 ちょっと、チートとしか言えない。

 ゴブリンゾンビの『蛮族の狂宴バーバリアン』とは比べ物にならないよ。

 まあ、あっちは一律でステータス+1000だったから、雑魚の群れを率いる場合は、ゴブリンゾンビの方が強いんだろうけど。

 唯一の救いというか、弱点は、この強化が自分にまでは及ばないってところか。


 そして、次点でヤバイのが勇者。

 どいつもこいつも真装を会得してて、ユニークスキルを二つ持ってるって時点で相当ヤバイ。

 けど、やっぱりLvが低すぎるから、そこまでの脅威って程じゃない。


 でも、勇者の中にも別格が三人くらいいて、そいつらは現時点でも相当の脅威だ。

 特に、こいつ。


ーーー


 異世界人 Lv28

 名前 シンドウ・ユウマ


 状態 真装発動中 強化中


 HP 33750/33750(7500)

 MP 28831/33750(7500)


 攻撃 31500(7000)

 防御 31275(6950)

 魔力 32175(7150)

 魔耐 30978(6884)

 速度 32508(7224)


 ユニークスキル


 『勇者』『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv14』『MP自動回復:Lv30』『聖闘気:Lv21』『神聖魔法:Lv20』『剣術:Lv19』


 称号


 『勇者』『異世界人』


ーーー


 勇者


 全ステータスを大幅に上昇。

 専用スキル『聖闘気』『神聖魔法』を習得。


ーーー


 真装『エクスカリバー』 耐久値100000


 効果 全ステータス×3

 専用効果 『勇者の聖剣エクスカリバー


 真装によって顕現した力。

 本来の持ち主以外が使う事はできない。


ーーー


 勇者の聖剣エクスカリバー


 魔を斬り払う勇者の力。

 魔に属する者に対して特化ダメージを与える。


ーーー



 ふざけるな。

 なんだ、平均ステータス3万て。

 いくら、真装と『勝者の加護ティルファング』で強化されてるからって、これはない。

 その真装だって、今まで見てきた中で最強の性能だし。

 それを抜きにしても、Lv28で平均ステータス7000。

 スキルだって、どことなく魔王と被るチートスキルがいくつかあるし。

 『勇者の聖剣エクスカリバー』の効果だって、私にとっては相性最悪だ。


 これ、成長したら本気で魔王に届くかもしれないよ。

 確信した。

 勇者を召喚した女神とやらの本命はこいつだ。

 私に色欲全開の目を向けてきた変態のくせに、こんなに強いとは。

 腹立つ。


 残りの別格二人、魔木と剣も強いけど、こいつには到底及ばない。

 できれば、こいつだけはここで確実に仕留めたいけど、今動かせる戦力だと倒せる気がしない。

 リビングアーマー先輩IN私なら勝てるかもしれないけど、あれは最終手段だから論外。

 誠に遺憾だけど、こいつを倒したいなら、魔王が戻って来るのを待つしかなさそう。

 なら、私はそれまでに他の戦力を削っておこうか。


『うぉおおおおおおおお!』

「ぬぉお!?」


 あ、私が戦力分析してる間に、合体魔法がドラゴン吹っ飛ばした。

 ドラゴンが、結構なダメージ食らって王都の中に墜落する。

 でも、死んではいなさそう。

 死んでたらゾンビにしてたのに。

 いや、魔王が近くにいたら謀反と捉えられかねないから無理か。


 まあ、とにかく。

 今、敵の目はドラゴンに釘付け。

 ドラゴンのブレスでオートマタが消し飛ぶ恐れもなくなった。

 よし。

 私もそろそろ動こう。


 まずは、神隠しの効果が持続した熱血ゾンビに、一番厄介なアイヴィとかいう女を襲わせる。

 こいつがいるだけで、この場の敵全員が超人になってしまう。

 最初に脱落させるべき奴だ。


 という事で、熱血ゾンビに指示。

 前にリビングアーマー先輩に向けて放った、あの捨て身の全力攻撃をぶちかまして来いと。


「《オーバーヒート》」


 そのアーツの発動と同時に、熱血ゾンビのHPが急速に減り始める。

 代わりに、熱血ゾンビの拳が、とてつもない破壊力を持った青い炎に包まれた。

 その状態で、アイヴィとかいう女の顔面に全力パンチ。

 神隠しの効果で、こっちから仕掛ける直前まで察知されなかった攻撃は、相手がノーガードという事もあり、ステータス差を覆して、アイヴィとかいう女に大ダメージを与えた。


『団長!?』


 敵の雑兵が驚愕する中、アイヴィとかいう女の真装が解除され『勝者の加護ティルファング』の効果が切れる。

 熱血ゾンビに追撃を指示しつつ、相手が動揺している内に次の一手を打つ。

 これまた、神隠しの効果で隠させた爺ゾンビに、魔木と剣を狙わせる。


「《アイシクルノヴァ》」

「え? キャアアア!?」

「彩佳!?」


 狙い通り、冷凍ビームが二人に命中する。

 殺せなかったのは残念だけど、それでも半身が凍りついて砕けるくらいのダメージは与えた。

 これなら、もう一手で確実に退場させられる。


 続いて、オートマタも動かす。

 何故か、既に虫の息になってる勇者が一人いたので、そいつの経験値を回収するべく、トドメを刺す。


「ギャアアアアア!?」


 おっと、一撃じゃ死ななかったか。

 これは予想外。

 悲鳴を上げる暇もなく殺そうと思ったのに。

 さすが勇者。

 無駄にしぶとい。


 仕方ないので、ミスリルソードで死ぬまで刺した。

 頭部がグッチャグチャのミンチになって絶命するまで刺した。

 よく見たら、こいつは私に度々絡んできて「俺の女になれよ」とか血迷った事を言いまくってたクソゴミカスだったので、恨みを籠めて念入りに刺した。


 その作業が終わるまで、数秒もかからない。

 復讐としては物足りないけど、また莫大なDPと経験値が入ってきたから良しとする。

 クソゴミカスも、最期くらいは私の役に立った。


 さて、他のが動揺して止まってる間に、さっさと次の奴を……


「《聖闘気》!」


 とか思ってたら、色欲勇者こと神道が例のチートスキルを発動させながら、オートマタに向かって突撃してきた。

 まだスキルLvが低いせいか、ステータスの上昇率はそれ程でもないけど、オートマタにとっては十分すぎる脅威だ。

 まともに食らったら、一撃で壊されると思う。


 だからこそ、私はオートマタの仮面を外した。


 敵の更なる動揺を誘う為に。

 敵がオートマタに攻撃するのを躊躇うように。

 心の隙を作って、その隙を容赦なく突く為に。

 私は、オートマタの仮面を外した。


「守……?」


 すると予想通り、日本の平和ボケが抜けきっていないと思われる勇者様は、殺し合いの最中だというのに動きを止めた。

 本体は、そのバカっぷりにほくそ笑みながら、ひたすらに無表情なオートマタを使って、隙だらけの神道を突き刺した。

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