61 勇者狩り
お披露目式が行われる時間。
私、というかオートマタは、裏路地の中から式典の会場である教会のテラスを見つめていた。
現在は、国王っぽい偉そうな中年が、テラスで演説を行っている。
多分、それが終わったら勇者どもが出て来るんだと思う。
オートマタをここに配置した理由は、二つ。
一つは確認の為。
勇者どもの正体が、本当にクラスメイトどもなのかの確認。
もしそうなら、
まあ、先生一行がいた以上、十中八九間違いないだろうと思ってるけど。
で、もう一つの理由は、何とか魔王を出し抜いて、私の方で勇者を殺せないかなと思ってるから。
復讐したいという気持ちも多少は影響してるけど、本命は勇者を殺す事による莫大な経験値と、ユニークスキル持ちのゾンビを手に入れる事。
まあ、ゾンビに関しては、先生のLvを鑑みるに、対魔王用の戦力としては当てにならないと思う。
でも、先生ゾンビみたいな掘り出し物があるかもしれないし、普通の戦力として考えれば悪くはないだろうから、積極的に殺っていきたい。
そんな事を考えてる内に、教会のテラスに勇者どもが現れた。
……うん。
クラスメイトどもだ。
不愉快な顔がいくつもある。
この距離だと鑑定ができないけど、そんな事しなくてもわかる。
でも、私が殺した分を差し引いても数が少ないな。
これは、どういう事だろうか?
ちょっと首を傾げてたんだけど、それを気にしてる時間はなかった。
突如、モニターから轟音が聞こえてくる。
多分、魔王が到着して何かやったんだろうと思えば、案の定、黒いレーザービームみたいなのが王都を破壊する光景が目に飛び込んできた。
慌てて転送機能を使い、オートマタを回収。
あのままだと、大枚はたいたオートマタが、フレンドリーファイアに巻き込まれて消滅するところだった。
おのれ魔王。
私の事、一切考えずにぶちかましやがって。
いや、オートマタが消滅しても私は死なないとわかってるからやったんだろうけど。
それでも、いつか殺してやりたい。
まあ、怖いから下剋上なんて起こす気はないけどさ。
そんな事を考えつつ、そろそろレーザービームの嵐が過ぎ去ったかなー、と思った辺りで、先生ゾンビのテレポートを使ってオートマタを王都に戻した。
オートマタを王都に。
略して王都マタ……いや、何でもない。
下らない事を考えながら王都に戻れば、目の前に城みたいに大きな黒いドラゴンの姿があった。
あれが、ウチに来た魔王軍幹部の真の姿か。
ずっとあの状態なら、サイズ的にダンジョンには入って来れないから安心できるのに。
それに、王都の色んな所から戦闘音が聞こえてくる。
魔王本人が戦ってるのか、それとも他のモンスターを召喚したのか。
まあ、なんにせよ本格的に戦争が始まったっぽい。
私が状況把握に努めていると、教会の裏口から飛び出してくる集団を見つけた。
多分、というか間違いなく、戦場となった王都から逃げる為だと思う。
でも、そいつらを見て私は思った。
なんとも運が良いと。
教会から飛び出して来たのは、黒髪黒目の見覚えがある奴らが7人くらいと、鎧姿の護衛っぽいのが数人。
何故か、お披露目式に参加しなかった残りの勇者で間違いない。
それにしても、昨日の先生達といいい、こうも都合のいいタイミングで遭遇できるなんて、なんたる幸運。
今までの不幸の反動が来てるのか、それとも運命が私に復讐を果たせと言っているのか。
まあ、どっちでもいいや。
私のやる事は変わらない。
私はオートマタの近くに、戦力として熱血ゾンビと爺ゾンビを召喚し、熱血ゾンビを壁にしてオートマタを突撃させた。
「燃エ滾レ━━『ヒートナックル』」
「え?」
真装の力によって5000を超えた熱血ゾンビのスピードに対応できず、護衛の一人が間の抜けた声を上げた瞬間、熱血ゾンビのパンチによって上半身を爆発四散させた。
「キャアアアアア!?」
クラスメイトの一人が、身を切るような絶叫を上げた。
他のクラスメイトも相当動揺してる。
でも、護衛の兵士達は意外と落ち着いたもので、仲間が一人死んだのに、そこまで動揺していない。
剣を構えて、熱血ゾンビとオートマタに対峙している。
手練れか。
そう思って鑑定してみれば、どいつもこいつも、平均ステータス2000超えの大物揃いだった。
オートマタより強い。
そんなのが10人。
なるほど、勇者の護衛を任される訳だ。
でも、その程度の戦力じゃ私は止められない。
「凍リツケ━━『ヴァナルガンド』」
「な!?」
「《アイシクルノヴァ》」
真装を解放した爺ゾンビの援護射撃が飛来する。
狙いはクラスメイトども。
護衛なら、護衛対象を守る為に、身を盾にするしかないよね。
「ぐっ!?」
真装を解放した爺ゾンビの魔力は、2万を超える。
そんな攻撃に、高々2000ぽっちのステータスしか持たない護衛達が耐えられる訳もない。
速攻で凍りついて砕けた。
ギリギリ生き残った奴らも、熱血ゾンビの追撃によって呆気なく死ぬ。
そして、クラスメイトどもは丸裸になった。
そいつらを、オートマタを使って流れ作業で殺していく。
「ひっ!? や、やめて!」
「助けてください! 助けてください!」
「い、嫌だ! 死にたくないぃいいい!」
「いだい!? 死ぬぅううう!?」
醜い悲鳴には聞く耳持たぬ。
オートマタの持つ剣、創造ゾンビに造らせておいた『ミスリルソード』の切れ味を確かめるように、撫で斬りにしていく。
もたもたしてたら、さっきの黒いレーザービームとかで経験値を横取りされそうだから。
それでも、できるだけ痛くて苦しむような斬り方したのはご愛敬だ。
そうして、私はこっちにいた勇者を全滅させた。
それが終わった瞬間、ドラゴンが教会目掛けて黒いレーザービーム、ブレスを放つ。
ああ、あれ魔王じゃなくて、このドラゴンの仕業だったのか。
って、呑気に観察してる場合じゃない!?
急いで勇者の死体を回収し、ゾンビ二体とオートマタも回収しようと思ったけど、なんだか様子がおかしい。
教会から放たれた魔法が、ドラゴンのブレスと拮抗しているのだ。
それどころか、ちょっと押し返してる。
これは、もしかしたらもしかするかもしれないと思った私は、とりあえず死体だけ回収して、代わりに隠密ゾンビを王都に送り、
オートマタとゾンビ三体の気配を『神隠し』で消して、既に天井がなくなっている教会のテラスへと向かわせた。
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