とある勇者達と魔王軍の戦い
「これは、とんでもない事になりましたねぇ……」
ウォーロックさんが、普段は温厚な声を苦々しく歪めて、真装を出したまま魔王と対峙する。
それと同時に、騎士団の何人かが王様を連れて教会の中に逃げて行った。
俺も逃げたい。
でも、恐怖なのか何なのか足が動かない!
「引き裂け━━『ワイルドクロー』!」
「羽ばたきなさい━━『エンジェルウィング』!」
俺がブルッてる間に、ウォーロックさんに続いて、ガルーダさんとエマちゃんも真装を発動した。
ガルーダさんの手に、本物と見分けがつかない獣の爪が。
エマちゃんの背中に、神々しい天使の翼が現れる。
「我らに勝利を━━『ティルファング』!」
更に、アイヴィさんも真装を出した。
そして、味方強化の専用効果『
強化された騎士団が魔王に対して剣を向ける。
でも、彼らは動かない。
動けない。
多分、彼らは魔王との力の差を理解してるんだ。
無闇に攻めたら一瞬で死ぬってわかってる。
だが、そんな事が理解できないバカもいた。
「おいおい。やらねぇなら、俺がやらせてもらうぜ」
クラスの不良筆頭、郷田がそんなバカな事を口走りながら前に出る。
「魔王だか何だか知らねぇが、敵の総大将がこんな所まで出て来るとかバカじゃねぇか。
俺が仕留めてやるよ!」
「ダイチ!? やめろ!」
アイヴィさんの静止も聞かず、郷田は魔王に向かって突っ込んで行った。
不良グループが即座に後を追う。
「ぶっ壊せ━━『バスターソード』!」
郷田が真装の大剣を出して、魔王に斬りかかる。
郷田のユニークスキル『破壊王』によってバカみたいに高くなったステータスと、真装のコラボレーション。
今の郷田の攻撃をまともに食らったら、カルパッチョ教官でも一撃で死にかねないと思う。
魔王はそんな攻撃を……
あっさりと片手で止めた。
「なっ!?」
「ハッハッハッ! 痒いわ!」
そして、反撃のパンチが郷田を襲う。
それは、本当に軽い一撃に見えた。
腰も入ってない。
力も籠ってない。
カルパッチョ教官が見せてくれたパンチとは比べ物にならない、軽いパンチ。
女の子が繰り出したって事も相まって、当たっても全然痛くなさそうな錯覚を覚える。
なのに、そのパンチは、咄嗟に防御に回した郷田の真装をあっさりと砕いて、郷田の土手っ腹に風穴を空けた。
「あ……あああああああああああ!?」
郷田が、魂でも削られてるんじゃないかと思えるような絶叫を上げた。
その悲鳴を聞いて、意気揚々と突撃しようとしてた不良グループの足が止まる。
あいつらは調子に乗っていた。
自分が負ける訳ないとか思ってたのかもしれない。
だから、目の前の光景が信じられずに硬直してるんだ。
「うっわ、よっわいのう。ステータス以上に弱く感じるわ。あやつの予想は正解じゃったな」
そんな事を言いながら、魔王が倒れた郷田にトドメを刺すべく、地面で腹を抱えて踞る郷田に、蹴りを繰り出した。
「『
「らぁああああ! 《スラッシュクロー》!」
そんな魔王を阻止するように、ガルーダさんが凄いスピードで魔王に突貫した。
その背中には、エマちゃんと同じ天使みたいな翼が生えてる。
似合わない!
でも、強い!
速い!
そして、ガルーダさんに続いて、ウォーロックさんも突撃した。
やっぱり翼を生やしてる。
似合わない!
でも、強い!
速い!
「我らが魔王を押さえまする! 勇者様達は、早くお逃げを!」
「させると思うか? ドラグライト! 我が遊んでおる間に勇者どもを殺せ!」
「承知した!」
ウォーロックさん達が魔王と戦えてると思って、ちょっと希望が出てきたと思った。
それを打ち砕く魔王の声。
その命令を受けたのは、あの巨大なドラゴンだ。
上空から、ドラゴンでお馴染み、ブレスの発射態勢に入ってる。
ドラゴンの口に、黒い光が収束していった。
これって!?
さっきの黒いレーザービーム!?
「させるか! これ以上、我が国での狼藉は許さん! 《フレイムソード》!」
ドラゴンのブレスが発射され、アイヴィさんが剣に纏わせた炎を射出して迎え撃った。
他の騎士団の人達も魔法でサポートする。
でも、あまりにもドラゴンが強い。
強すぎる!
「皆! 僕達も加勢しよう! 光れ━━『エクスカリバー』!」
「お、おう! 叩き斬れ━━『カラドボルグ』!」
「わかったわ! 綴れ━━『グリモワール』!」
神道達が真装を出して、それぞれの遠距離攻撃でアイヴィさん達に加勢した。
他のクラスメイト達も正気に戻って、同じく加勢する。
俺も、微力ながら魔法を使って援護した。
本当に微力だけどな!
『うぉおおおおおおお!』
「ぬぉお!?」
全員の力を合わせた合体魔法によって、何とかドラゴンのブレスを相殺した。
それどころか、ブレスを突き破って、ドラゴンの巨体を吹っ飛ばす事にまで成功した。
やった!
あの化け物相手に反撃に成功した!
希望が出てきた!
勝てる!
俺がそんな希望を抱いた瞬間……
「追撃だ! 即座にあのドラゴンを倒し、十二使徒に加勢する……グハッ!?」
『団長!?』
目の前に突然現れた
直前まで気配も何もなかった攻撃に、さしものアイヴィさんと言えども防御ができず、吹き飛んで教会の壁にめり込んだ。
俺は、それをやった下手人を見て、頭が真っ白になった。
だって、それは俺がよく知る顔だったんだから。
「カルパッチョ教官……?」
アイヴィさんを殴った体勢のまま停止するカルパッチョ教官は、いつもの暑苦しさなんて欠片もなく、不気味な程に静かで。
俺にはそれが、カルパッチョ教官の姿をしたナニカにしか見えなかった。
更なる衝撃の展開に俺が混乱している間にも、事態は動く。
今度は、どこからともなく飛来した氷のビームが、魔木を狙って飛来する。
「え? キャアアアアア!?」
「彩佳!?」
その攻撃を咄嗟に剣が庇って、二人とも怪我をした。
そして、ビームが飛んできた場所を見れば、これまた知った顔がある。
「ランドルフさん……!?」
ランドルフお爺様と仲が良かった魔木が、傷を押さえながら驚愕の声を上げる。
何が起きているのかわからない。
超展開すぎて頭が付いていかない。
だが、まだ終わらない。
この悪夢は、異世界無双のぬるい夢に浸かっていた俺達を、容赦なく潰しにきた。
「ギャアアアアアアア!?」
今度は、倒れていた筈の郷田の悲鳴が聞こえた。
見れば、仮面を付けた女が、倒れる郷田にザクザクと剣を突き刺していた。
何度も、何度も。
郷田がミンチみたいになって、動かなくなるまで。
「え……死んだ……?」
クラスメイトの誰かが、ポツリとそう呟いた。
死んだ。
郷田が死んだ。
クラスメイトが死んだ。
それを理解した瞬間、俺はドッと冷や汗をかき、凄まじい悪寒と恐怖に襲われた。
確かに、郷田はいけ好かない奴だった。
不良で、自分勝手で、真装を使えない俺をバカにしてきて。
でも、同じ境遇のクラスメイトだったんだ。
つまり、そんな郷田が死んだのなら、次は俺の番かもしれない。
超展開すぎて付いていけなかった頭が、一つだけ明確な事実を理解する。
ここは戦争中の世界で、戦えば当然、人は死ぬ。
勇者だって死ぬ。
何が異世界無双だ。
甘かった。
甘すぎた。
そこら中の砂糖を残らずぶち込んだミルクティーのように、俺達の考えは、胸焼けがしてゲロを吐くレベルで甘すぎたんだ。
「《聖闘気》!」
そして、ミンチになった郷田の死体を見てゲロを吐く奴が大量発生し、俺もまたゲロと過呼吸で何もできなくなる中、
神道がユニークスキル『勇者』によって習得できる専用のスキルを発動して、真っ先に女へと斬りかかった。
でも、振りかぶった神道の剣は止まる。
女が防いだ訳じゃない。
神道が自分で止めたのだ。
何故なら、神道が動いた瞬間、女が仮面を外したから。
あの顔を見て、神道が戦える訳がない。
だって、それは神道が好きだった人の顔なんだから。
「え?」
悪い事は重なる。
理解できない超展開も重なる。
現実というやつは、俺達の頭が追い付くのを待ってはくれない。
俺はまるで現実逃避のように、そんな事を思った。
「守……?」
神道が、彼女の名前を口にする。
学校中のアイドルで。
不登校になってからしばらく経つのに、誰一人としてその顔を忘れないような、絶世の美少女。
そんな彼女はたった今、元クラスメイトを殺したというのに、欠片も動揺した様子がなくて。
そして、目を見開いて動揺する神道に向かって、本城さんは剣を振るった。
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