とある勇者達と最悪のお披露目式

「勇者様方、お時間でございます」


 遂に、お披露目式の時間。

 俺達は教会の人に声をかけられて、待機してた部屋からテラスみたいな場所へと移動する。

 そこから、国民の人達に向かって手を振るだけの簡単なお仕事だ。

 ちなみに、式典という事で、現在、テラスでは王様が演説を行い、アイヴィさんがその護衛に付いてる。


 でも……そんな日になったのに、カルパッチョ教官達は帰って来なかった。


 あれから半月くらい経ったのに、全くの音沙汰なしだ。

 さすがに何かあったんじゃないかと思う。

 でも、鑑定以外無力な俺にできる事はない。

 それに、鑑定を持つ俺だからこそ、カルパッチョ教官やランドルフお爺様の化け物じみた強さも知ってる。

 今はあの人達を信じるしかない。


 でも、それとは別件で心配な事ができた。

 なんと、このお披露目式に、ソラちゃん先生の姿がないのだ。

 生徒のいる所、常にソラちゃん先生ありってくらいだったのに、今日に限っていない。

 教会の人達が探しまくってるみたいだけど、見つからないらしい。


 不安だ。

 前から感じていた不安が、より大きくなったような気がする。

 けど、やっぱり俺にできる事はない。

 俺にできる事と言えば、せいぜい勇者の一人として堂々と手を振る事くらいだ。

 かー、情けない!

 早く俺も力が欲しい!


 そんな悶々とした気持ちを抱えながら、俺は他のクラスメイト達と一緒にテラスに向かう。

 ちなみに、ここにいるのは戦闘組の10人だけだ。

 非戦闘組は国民の皆さんにお披露目せずに、女神教の総本山とかいう国で保護されるらしいよ。

 この前、その為の護衛の人達が来たけど、その内の三人が、ちょっと目を疑うレベルで強かったね。


 身長5メートルくらいある巨人族のお爺さんである、ウォーロックさん。

 目付きが鋭くて怖い、狼の獣人族の、ガルーダさん。

 とても目に優しい人族の美少女、エマちゃん。


 何でも、女神教の最高戦力『十二使徒』とかいう中二病全開な異名で呼ばれてる人達の中の三人らしい。

 三人とも、カルパッチョ教官とは比べ物にならないくらい強かった。

 世の中には、こんな超人がいるんだなぁって、インフレの容赦のなさを感じたよ。

 しかも、超人三人組の皆さん曰く、「勇者様であれば、我々などすぐに超えられる事でしょう」との事。

 実際、神道とかはもうちょっとLv上げれば、普通にあの三人より強くなりそうで怖い。

 ああ、俺の無双ルートが遠ざかっていく……。

 一応は同じ勇者の筈なのに、なんでこんなに差が……。


 そうして、俺が異世界の不条理に憤慨してる内に、テラスに到着。

 そして、


『ワァアアアアアアアアアアアアアアア!』


 俺は、眼下に見える人の群れに圧倒された。

 もはや絶叫に聞こえる大歓声を受けて、俺は固まる。

 それは俺だけじゃなくて、大体全員が固まってた。

 だが、しかし。

 我らがイケメン筆頭勇者の神道が、まるで気負いしてない感じで、堂々と手を振り、

 それを見て落ち着いたのか、他の面子も正気に戻って手を振った。

 もちろん俺も。

 クッ!

 俺のモブっぷりが酷い!

 思わず、遠い目になってしまう。


「ん?」


 遠い目になりながら、ふと遠くを見つめた時、俺は違和感を覚えた。

 遠くの空に黒点が見える。

 まるで飛行機みたいだ。

 でも、この世界に飛行機はない。

 空を飛ぶ魔物はいるけど、王都の近辺で見かけるなんて話は聞かない。

 そういう危険な魔物は、騎士団の人達が徹底的に駆除してるって聞いた事がある。


 俺が不思議に思ってると、その黒点はドンドン大きくなっていった。

 つまり、飛行機もどきが近づいて来てるって事だ。

 もう少しで、そのシルエットが明らかになりそう。

 そんな距離まで飛行機もどきが近づいた瞬間。


 ━━飛行機もどきから、黒いレーザービームが放たれた。


「は?」


 黒いレーザービームが、街の城壁を吹き飛ばし、眼下で歓声を上げていた人達を消し飛ばして、俺達に迫る。

 何が、起きたんだ……?

 突然の終末の光景に思考が完全に停止した。

 俺には、その光景を、ただボーと見ている事しかできなかった。


「立ち塞がれ━━『タイタン』!」


 そして、黒いレーザービームが俺達まで呑み込もうとした時、呆然とする事しかできない俺と違って、両腕に巨大な真装の盾を出現させたウォーロックさんが飛び出し、黒いレーザービームを真っ向から止めた。


「ぬぅううん! 《フルガード》!」


 ウォーロックさんのアホみたいな防御力によって、黒いレーザービームの軌道は逸れて、教会の天井を消し飛ばしながら空へ向かって飛んで行った。

 た、助かった。

 けど、助かった事を喜ぶ余裕なんて俺にはなかった。

 未だに、俺には何が起こったのか理解できなかったのだから。


 そんな俺を無視して、事態は止まる事なく動く。


 さっきの飛行機もどきが、もうすぐそばにまで近づいていた。

 それは、巨大な黒いドラゴンだった。

 本当に飛行機くらい大きい、巨大なドラゴン。

 今まで見てきた魔物とは格が違う力強さに、俺は咄嗟に鑑定を使っていた。


ーーー


 ブラックドラゴン Lv108

 名前 ドラグライト


 HP 25300/25300

 MP 22000/23000


 攻撃 20300

 防御 20015

 魔力 18840

 魔耐 17550

 速度 19991


 ユニークスキル


 『真装』


 スキル


 『ドラゴン:Lv108』『HP自動回復:Lv84』『MP自動回復:Lv71』 


ーーー


 化け物だ。

 俺なんて、軽く体当たりされただけで余裕で死ねる。

 でも、俺には逆立ちしても倒せないけど、十二使徒の三人やアイヴィさん、神道達が力を合わせれば、多分、勝てる。


 でも、そんな儚い希望は一瞬にして打ち砕かれた。


「ほう! 誰かと思えば、ウォーロックの爺ではないか! 最近、戦場で見ないと思えば、こんな所にいたんじゃな!」


 ドラゴンの上から、そんな声が聞こえた。

 女の子の声だ。

 そして、声の主がドラゴンの背中から飛び降りて来た。

 やたらとエロい服を着た、魔族っぽい見た目の人外美少女。

 その子に対しても、俺は咄嗟に鑑定を使った。


ーーー


 ダンジョンマスター Lv140

 名前 カオス


 HP 135600/135600

 MP 150000/150000


 攻撃 100000

 防御 99250

 魔力 110455

 魔耐 98820

 速度 110000


 ユニークスキル


 『魔王』『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv90』『MP自動回復:Lv100』『暗黒闘気:Lv110』『剣術:Lv120』『暗黒魔法:Lv105』『火魔法:Lv90』『雷魔法:Lv90』『回復魔法:Lv85』『統率:Lv45』『並列思考:Lv50』『演算能力:Lv50』『隠密:Lv30』『疑似ダンジョン領域作成:Lv30』 


 称号


 『魔王』


ーーー


 訳がわからない。

 ダンジョンマスター?

 ステータス10万?

 スキル多過ぎじゃね?

 勝てる訳ねぇだろ。

 死ぬわ。


 そんな色々な考えが頭に浮かび、混乱の極地に達した俺は、


「魔王……?」


 咄嗟に、唯一理解できた言葉を口にしていた。


 俺の言葉を聞いた他の皆が、ぎょっとした顔で魔王を見る。

 そして、クラスメイト達は警戒した顔や、好戦的な顔に。

 王様やアイヴィさんは、敵意剥き出しの顔に。

 十二使徒の三人は、苦々しい顔になった。


「そして、お主らが勇者じゃな。

 はじめまして。我の名はカオス。魔王カオスじゃ。

 お主らを殺しに来たぞ」


 魔王は、可愛い顔でニッコリと笑いながら、俺達に死刑を宣告した。

 同時に、王都の中へと大量の魔物が雪崩れ込み、街を守る兵士達とぶつかった。

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