46 教えて、ハーフエルフ先生!  2

「じゃあ、次の質問。魔王って何?」


 この質問に、またもリーフはポカンとした。

 何言ってんだこいつ? と言わんばかりの表情だ。


「えっと……さっきから、なんで、そんな常識ばっかり聞くんですか?」


 とうとう口に出しやがった。

 口答えするな、奴隷!

 いいから早く答えろ!


「質問を質問で返さない。早く答えて」

「え、えぇ……」

「早くしないと◯◯◯ピーを潰すよ」

「うぇ!?」


 脅しが効いたのか、リーフ困惑しながらも普通に話し始めた。

 どうやら、奴隷紋で命令する必要も、◯◯◯ピーを潰す必要もなさそうだ。


「ま、魔王は、数百年に一度現れる、魔物の王と言われています。

 ある日突然現れて、魔物の大群を率いて人を襲うんです。

 今の魔王は10年くらい前に現れて、今も色んな国の人達と戦ってる筈です」


 なるほど。

 魔物の王。

 故に魔王か。

 まあ、これは予想通りだ。

 ゴブリンロードが幹部だった時点で、魔物関連の何かだとは思ってた。


「続けて」

「続きって……ボクは魔王の何を語ればいいんでしょう?」

「目的とか知らないの?」

「目的……魔王の目的……?」


 リーフは考え込んでしまった。

 ……さすがに、一般人に魔王の詳しい事情を答えろっていうのは無理だったか。

 案外、常識として知られてないかなって思ったけど、そんな事はなかったみたいだ。


 しかし、私が諦めて次の質問に移ろうかとした時、リーフがハッとしたように顔を上げて「あ!」という声を上げた。

 何か思い出したのか!?


「そういえば、お母さんが教えてくれたエルフのおとぎ話に、そんな感じの話がありました」

「詳しく」

「ええっと、ええっと、確か……魔王は『魔神』という魔物にとっての神を蘇らせる為に戦っている、という感じだったと思います。

 聞いたのが昔すぎて、あんまり自信ないですけど……」


 リーフは自信なさそうに、そう言った。

 魔神?

 また新しい単語が増えたぞ。

 そろそろ寝たいのに、聞きたい事が増えたよ。


「その魔神って何?」

「わかりません。他のおとぎ話にも出てこないので、もしかしたら作り話かもしれないとしか言えないです……」


 ぬぅ……。

 ここにきて謎が謎のまま終わるのは気持ち悪い。

 でも、知らないものは仕方ないか。

 無い袖は振れないし、無い知恵は出せない。


 とりあえず、魔王は魔物の王で、人間達と絶賛戦争中って事が知れただけでも良しとしよう。

 これは、かなり重要な情報だし。

 何せ、魔王も人間も戦争で忙しいなら、私にまで構ってられないという可能性も高いのだから。

 運が良ければ、魔王軍も調査隊も来ないかもしれない。

 まあ、もちろん備えはしておくけど、敵なんて、来ないなら来ない方がいいに決まってるのだ。


「じゃあ、次の質問。勇者って何?」

「また常識問題……」

「文句ある?」

「ないです! だから潰さないでください!」


 オートマタに手をニギニギさせるジェスチャーをさせると、リーフは内股になって股の間を両手で隠し、ガクガクと震えながらも話を再開した。

 やっぱり、◯◯◯ピーを潰すのって、そんなに痛いんだろうか?

 痛いんだろうな。

 私が最初に殺したストーカーも、相当痛がってたし。


「勇者様は、魔王を倒す為に女神様が遣わされた救世主と言われています」


 女神様?

 そういえば、マーヤ村の村長も女神様とか言ってたような。

 それに、勇者が女神の遣いか。

 私には心当たりが一つある。

 勇者の称号にあった説明の一文だ。


ーーー


 勇者


 神の選別によって異なる世界から召喚され、人類の為に魔王と戦う事を宿命づけられた者達に与えられる称号。


ーーー


 この説明に出てくる神が、女神様とやらと同一の存在なら、辻褄は合う。

 まあ、同時に『誤転移』の称号を持つ私にはあんまり関係ないけど。

 でも、者って言うからには、私以外の勇者もいるんだと思う。

 その情報くらいは知っておきたい。

 主に敵対した時の為に。


「勇者って、今どのくらいいるの?」

「いえ、今はいない筈です。少なくとも、ボクが奴隷になった2年前まではいませんでした」


 ふむ?

 どういう事だ?

 魔王と戦うのが勇者の使命なら、魔王が現れた段階で勇者も現れなきゃおかしいと思うけど。

 召喚の儀式的なものが難易度高いとか、そんな感じかな?

 実際、私を呼び寄せたんだろう召喚も、こうして失敗に終わってる訳だし。


 というか、勇者の召喚って、具体的にどうやるんだろう?

 私が誤転移って事は、本来なら決められた場所に召喚されるんだろうし。

 リーフに聞いてみよう。

 奴隷に聞くだけならタダだ。


「勇者って、どうやって現れるの?」

「わからないですけど、女神様の神託を受けた女神教の人達が何かやってるんじゃないかとは言われてます」


 女神教?

 また知らない単語が増えた。


「女神教って何?」

「女神様を信仰する人達です。女神様の神託を受けて、世界の為に奔走してるって言われてます。

 魔王との戦いでも、一番頑張ってるらしいです」


 つまり、あのゴブリンロードを従えるような魔王バケモノと、正面から戦える集団って事か。

 何それ怖い。

 敵に回したくないなぁ。

 きっと、真装使いとかウジャウジャいるに違いない。

 想像しただけで嫌だ。

 どうか、魔王と共倒れになってくれますように。


 それはそれとして。

 これで、とりあえず最低限聞きたい事は聞けたかな。

 まだ、お金の話とか聞きたいけど、それは一刻も早く知らなきゃならない事じゃないし、また今度でいいや。


 よし。

 寝よう。


「質問は終わり。じゃあ、私は寝る」

「え!? まだ、お昼ですよ!?」

「関係ない。それと、私との会話内容は他人に話さないように。これは命令」

「あ、はい」

「それじゃあ、お休み。何かあったら起こして。

 ちなみに、変な事したら◯◯◯ピーを握り潰すから」

「やりませんよ!」


 なら、いい。

 最後に、ダンジョンとオートマタに何かあったらアラームが鳴るように設定して、私はベッドに潜り込んだ。

 寝室の電気を消し、モニターも消して布団を被る。

 それじゃあ改めて、お休みなさい。

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