47 ハーフエルフの過去
「なんなんだろう、この人は……」
ボクは、変な質問をするだけして、寝息も立てずに寝てしまった新しいご主人様の寝顔を見ながら、なんとも言えない気持ちになっていた。
その無防備な姿を見ても、何かしようという気は起きない。
何かしたらあれを潰すって言われたし。
あれを潰されるのは凄く痛いんだ。
前のご主人様がクソ野郎……変態で、「こうすればよく締まるな!」とか「もっと泣け!」とか言いながら何度も潰してきたから、よく知ってる。
その度に回復魔法で時間をかけて治してたけど、治しても、治しても、また潰されるあの恐怖は、もうトラウマだ。
でも、そのおかげと言っていいのか、こんな美人さんが近くで寝てても、ボクは興奮するどころか縮み上がってる。
決してボクが不能になった訳じゃない……と思いたいけど、何度も男の象徴を潰された身としては、その可能性を否定できないのが怖い。
もしそうだったら、そんな体にしてくれた変態野郎は絶対に許さない。
……まあ、許さないって言っても、無力なボクじゃ何もできないんだけど。
そういえば、あの変態、今頃どうしてるんだろう?
どこかで野垂れ死んでるといいな。
あんなのでも、この街で最強の冒険者って呼ばれてたから、無理か……。
「…………」
ボクは改めて、今のご主人様を見る。
凄い美人さんだと思う。
でも、変な人だとも思う。
最初は襲われるかと思ったのに、何故か誰でも知ってるような常識ばっかり聞いてきて、その後はマイペースに寝ちゃった人。
寝てる時も起きてる時も、表情がピクリともしなくて怖い。
声も無機質で、何考えてるのかわからなくて怖い。
それでも、あの変態よりはマシ……だと思いたい。
これから何されるかわかんないけど。
ボクの人生、これまで不幸だらけだったんだから、そろそろ報われてほしい。
「はぁ……」
ボクは昔を思い出してしまって、小さくため息を吐いた。
一番昔、子供の頃はまだよかった。
お父さんとお母さんがいた。
家は貧乏で、お母さんは体が弱かったけど、それでも幸せと言えるくらいの暮らしはできてたし、実際、ボクは幸せだったんだ。
でも、ボクがまだ3歳か4歳くらいの頃に、お母さんは病気で死んじゃって、そこからは不幸が続いた。
冒険者だったお父さんは、ある時、依頼に失敗して片手と片足を失った。
その頃に、お父さんはなけなしのお金を使って魔導書を買って、ボクに魔法を覚えさせたんだ。
今思えば、それは自分が死んだ後に、ボクが一人でも生きていけるようにって事だったんだと思う。
その後は、突然魔王が現れたとかで、魔物の大群に住んでた村を滅ぼされた。
元々そんなに仲の良い人はいなかったから、故郷が滅んだ事はそこまでショックじゃない。
でも、そのせいでボク達は家を失い、魔王から逃げるように、危険から遠ざかるように、お父さんと二人で旅をした。
でも、魔王から逃げても、他にも危険はいっぱいある。
ボクのLv上げをかねて、お父さんの仕事に付いて行った時、盗賊に襲われて、お父さんは殺された。
そして、ボクは盗賊に拐われて、奴隷として売られたんだ。
ボクは恨みと怒りと恐怖で狂いそうだった。
そうして奴隷として売られれば、変態に買われてグチャグチャにされた。
盗賊と同じくらい恨んだけど、奴隷紋のせいで逆らえなかったし、そもそも力の差も大きすぎたしで、抗う事もできずに、ただ痛みと不快感に耐える日々。
変態が「飽きた」と言って再び売りに出されるまで、本当に地獄だった。
そして、再び奴隷として売られたボクを買ったのが、今のご主人様だ。
変な人だとは思う。
不気味な人だとも思う。
でも、それだけなら今までよりも遥かにマシだ。
どうか、このご主人様に付いて行った先が、今まで以上の地獄じゃない事を女神様に祈る。
まあ、祈っても一度も助けてくれなかった女神様だし、お祈りの効果は期待できないけど。
そんな事を考えてる内に、ウトウトと眠くなってきた。
今までの疲労に加えて、新しいご主人様に何をされるんだろうとビクビクして緊張してたせいか、まだお昼だというのにボクも眠い。
何かあったら起こせって言われたから起きてないといけないんだけど、座ってた場所がベッドだった事もあって、気づいたらボクの意識はなくなっていた。
そして、起きた時。
目の前には、ボクの肩を揺するご主人様がいた。
宿に入る前につけてた仮面を被ってる。
「行くよ」
ご主人様は無機質な声でそう言って、━━次の瞬間、ボクの視界は闇に覆われた。
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