48 襲来!

 私が気持ちよく惰眠を貪っていた時、設定していたアラームがなった。

 目覚まし感覚でそれを止め、あと5分と言いたくなる心を叱責してモニターを開いた。


 どうやら、異常があったのはダンジョンの方らしい。

 侵入者が第一階層に入って来てる。

 ああ、そういえば、調査隊対策で、アラームが鳴る条件を侵入者全般に変更してたんだった。


 で、その侵入者だけど。

 数は一人。

 見た目は私より少し年下の女の子に見える。

 リーフよりは年上って感じだ。

 中学生くらいかな。


 でも、人族ではない。

 モニターで見たところ、肌は青いし、角が生えてるし、悪魔みたいな翼はあるし、目は赤いし、白目は黒い。

 でも、全体的なシルエットは人間。

 そんな感じの外見だ。

 ちなみに、幼い外見のくせに、やたらと扇情的な服を着てる。


 サキュバス、あるいは魔族という言葉が私の脳裏を過った。

 という事は、魔王軍の関係者だろうか?

 いや、魔王は魔物の王って話だから、魔族と関係があるのかはわからないけど。

 そもそも、この世界に魔族と呼ばれる種族がいるのかさえ知らないけど。


 まあ、とりあえず鑑定だ。


ーーー


 ダンジョンマスター Lv140

 名前 カオス


 HP 135600/135600

 MP 150000/150000


 攻撃 100000

 防御 99250

 魔力 110455

 魔耐 98820

 速度 110000


 ユニークスキル


 『魔王』『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv90』『MP自動回復:Lv150』『暗黒闘気:Lv110』『剣術:Lv120』『暗黒魔法:Lv105』『火魔法:Lv90』『雷魔法:Lv90』『回復魔法:Lv85』『統率:Lv45』『並列思考:Lv50』『演算能力:Lv50』『隠密:Lv30』『疑似ダンジョン領域作成:Lv30』


 称号


 『魔王』


ーーー


「……ホワッツ?」


 おかしいな。

 鑑定結果がバグって見える。

 鑑定機能が壊れたか。

 それとも私が寝惚けてるのか。

 両方だな。

 両方に違いない。


 とりあえず、鑑定結果を閉じて、もう一度開く。

 表示は変わらない。

 思いっきり頬を引っ張ってみる。

 超痛い。

 表示は変わらない。


 あ、現実だ、これ。


「はぁああああああああああああああ!?」


 私は絶叫した。

 な、なんじゃこりゃああああああ!?

 こんな、こんな化け物という言葉すら生易しい超生物が、この世に存在していいのか!?

 平均ステータス10万って何だ!?

 ゴ◯ラより強いだろ、これ!

 しかも、ダンジョンマスターで魔王!?

 もう訳がわからん!


「落ち着け……落ち着け、私……!」


 焦って対応を間違ったら死ぬぞ!

 その一心で深呼吸を繰り返し、並列思考と演算能力を駆使して、解決策を模索する。


 まず、この脅威を排除できるか、つまり戦って勝てるかどうか。

 無理。

 勝ち目は万に一つもない。

 例え、ダンジョンの仕掛けがことごとく上手くハマった上に、魔法を速攻で習得した私が、リビングアーマー先輩を着込んで戦ったとしても、絶対に勝てない。

 勝てる訳がない。

 こんな超生物に勝てるか、ボケ!


 じゃあ、プランB。

 静観、つまり洞窟巡りだけして帰ってください作戦。

 魔王なんて存在がこんな所にいるのは、どう考えても魔王軍幹部だったゴブリンロードが関わってるとしか思えない。

 でも、この洞窟がゴブリンロード殺しの現場だという証拠はない、筈!

 なら、このまま帰ってくれる可能性は0じゃない!


『ほほう。トラップもなくモンスターもいないとは、中々に斬新なダンジョンじゃな!』


 そんな淡い希望は、モニター越しに聞こえてきた魔王の声で、木っ端微塵に打ち砕かれた。

 そうか、魔王にはここがダンジョンだとわかってるのか。

 バレた原因は、どう考えても鑑定機能のせいだろう。

 疑似ダンジョン領域作成持ってるんだし、オートマタと同じ事が、この魔王にできない筈がない。

 ダンジョンだってバレてるなら、最下層まで降りて来る可能性高いよ!

 チクショウ!

 

 なら、プランCだ!

 というか、ぶっちゃけ最初からこれしかないと思ってた。

 私は、宿の一室で横にしていたオートマタを再起動させる。


 プランCの内容は簡単。

 戦っても勝てない、逃げる事もできないのなら、交渉して見逃してもらうしかない。

 つまり、私はこれから、このオートマタを使って魔王と交渉する。

 この作戦が失敗した時が、私が死ぬ時だ。

 今だけは、侵入者死すべし例外はない、とか言ってる場合じゃないよ。

 せっかく最高の聖域が出来てきたのに、死んでたまるか!

 私は何としてでも生きて、平穏なる引きこもりライフを満喫してやる!


 オートマタに仮面をつけさせながら、同時に『魔王』のユニークスキルと称号を鑑定した。

 交渉するには、少しでも相手の情報が必要なのだ。


ーーー


 魔王


 全ステータスを大幅に上昇。

 専用スキル『暗黒闘気』『暗黒魔法』を習得。


ーーー


 まずはユニークスキルの魔王から。

 これは、私の大魔導先輩みたいな強化スキルだった。

 でも多分、スキルとしての格は大魔導先輩よりも上だと思う。

 何せ、ステータス増強だけじゃなく、チートスキルが二つもおまけで付いてくるんだから。


ーーー


 暗黒闘気


 魔王専用スキル。

 発動中、全ステータスを大幅に上昇させ、自身の体に闇属性攻撃を付与する。


ーーー


 暗黒魔法


 魔王専用スキル。

 闇魔法の上位魔法。


ーーー


 どっちもヤバイ。

 暗黒闘気の効果は、バフ+属性攻撃。

 分類としては、熱血ゾンビの『熱き青春の拳ヒートナックル』に近いと思う。

 というか、魔王の高すぎるステータスが更に上がるってだけで、もうダメだろ、これ。


 そして、暗黒魔法は説明があんまりない。

 ただ、上位魔法ってからには、普通の魔法よりも遥かに強いんだろう。

 少し違うけど、これは爺ゾンビの『氷獄の魔杖ヴァナルガンド』みたいなものかな。

 ヤバイ魔法が飛んでくるって意味で。


 そして、本命。

 『魔王』の称号だ。


ーーー


 魔王


 魔神に選ばれ、魔王城の主となった者に与えられる称号。

 この称号の持ち主に、ユニークスキル『魔王』を付与する。

 この称号の持ち主に成長補正を付与する。


ーーー


 効果としては、勇者の称号とあんまり変わらない。

 ただ、『魔神』という単語が出てきた事で、リーフの言ってた話が、俄然真実味を帯びてきた。


 そして、魔王城。

 魔王の種族がダンジョンマスターな事を考えると、その魔王城が魔王のダンジョンなのだろうか?

 大いに、あり得る。


 実は、ダンジョンマスターになる条件は意外に複雑で、偶発的にダンジョンマスターが誕生する確率はかなり低いのだ。

 これは、余裕ができた時に、ダンジョンコアから与えられた情報を整理してわかった事だから間違いない。


 でも、『魔王』の称号の説明文を見る限りに、魔王は魔神に選ばれて魔王城の主、つまりダンジョンマスターになった可能性が高い。

 なんで、魔神に選ばれるとダンジョンマスターになるのかはわからないけど、自然にこんな超生物が生まれたと言われるより、よっぽど説得力がある。

 

 とりあえず、今集められる情報はこれだけだ。

 あとは、この情報と、今までに知った情報を合わせて、何とか交渉を乗り切るしかない!


 その覚悟を決めて、オートマタを転送機能で回収しようとした時、その視界にもう一つのベッドで眠るリーフの姿が映った。

 そういえば、こいつがいたな。

 私よりも色んな事を知ってる奴だし、少しは交渉の役に立つかもしれない。

 成功率は0.1%でも高い方が良いから、できれば連れて行きたい。

 それに、街に置いてきぼりにしたら回収がめんどくさそうだし。

 何とかして、転送機能で送れないものか。


 とか思ってたら、割りと普通にできる事が判明。

 奴隷はダンジョンの配下、もしくはアイテム扱いらしい。

 多分、奴隷契約の時、奴隷紋にオートマタダンジョンの魔力を流したのが原因だと思う。

 

 という事で、リーフの肩を揺すって叩き起こす。

 そして一言。


「行くよ」


 とだけ言って、問答無用で転送機能を発動。

 さて、魔王が第二階層に入る前に、歓迎の準備を整えなくては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る