49 交渉準備

「え? え?」


 リーフは、いきなりの転送に驚いたのか、ダンジョンの暗闇に驚いたのか、挙動不審になった。

 とりあえず無視して抱き抱える。


「ふぇ!?」


 オートマタとリーフを転送したのは、第二階層の入り口である下り坂の下だ。

 微量ながら毒が漂ってる場所なので、交渉の場には向かない。

 リーフを抱えたまま、オートマタに坂を上らせて第一階層に出る。

 そして、その天井に、居住スペースで使ってるのと同じ電気というか、光の魔石を設置した。

 これは後で回収しておこう。

 その時に、私が生きていれば。


「眩しい!?」


 オートマタの腕の中で悲鳴を上げるリーフを床に下ろし、今度はテーブルを一つと、椅子を二つを設置する。

 これも後で回収しておこう。

 その時に、私が生きていれば。


 これで、とりあえず場所の準備は完了。

 次は、道具に状況説明だ。


「これから、ここに人が来る。絶対にその人の機嫌を損ねないように」

「えっと……」

「命令」

「はい」


 こういう時、奴隷って便利。

 命令一つで何でもするとか、まさに道具。


「そして、あなたは私の後ろに控えて、私がわからない事があったら説明する事。

 これも命令。やらないと潰す」

「やります! やりますから、その脅しやめてください!」


 やめない。

 これは、やる気を出させる為の気付けみたいなもんだ。

 お仕置きが怖ければ、必死にやるだろう。


 あ。

 今気づいたけど、リーフの格好は買った時のまま、いかにも奴隷が着るようなボロ着のままじゃん。

 魔王の前に出すには、見苦しいな。


「とりあえず脱いで」

「何ですか、いきなり!?」

「いいから脱げ。命令」

「は、はい……」


 リーフは恥ずかしそうに服を脱いだ。

 ……わかってたけど、本当に男なんだな。

 胸がなくて◯◯◯ピーがある。

 あんまり見たくない物見た。


「これ着て」


 続いて、DPで適当な服を出して着るように命じる。

 こんな事なら、侵入者とか村人の服を、もう少し取っておけばよかった。

 まあ、この程度は些細な出費だから仕方ない。

 ついでに、ボロ着は還元しておいた。


「え……今どこから服が出て……? それに服が消えて……?」

「早く着て。潰されたいの?」

「ごめんなさい!」


 まったく。

 驚きで一々動きを止めるなんて、使えない奴隷だな。

 後で教育しよう。

 その時に、私が生きていれば。


 さて、これで準備は完了だ。

 そして、魔王もすぐ近くまで来ている。


「命令。必要な時以外は静かにしててね」

「わかりました!」


 よろしい。

 これで、ビックリ仰天して奇声を上げ、魔王の機嫌を損ねるなんて事もないだろう。

 多分、奇声を上げる前に奴隷紋が発動する。


 そうして遂に……


「ようこそ、おいでくださいました。魔王様」


 オートマタの目で目視できる距離に、照明の光で照らされる位置に、魔王が現れた。

 オートマタに静かに頭を下げさせる。

 リーフは、魔王という言葉を聞いて、その内容を理解した瞬間、悲鳴を上げそうになったけど、奴隷紋の効果で黙った。

 よし。


「ほう。まさか、わざわざ出迎えに来るとは。お主は中々に賢き者のようじゃな」


 魔王は、何故か嬉しそうにウンウンと頷いていた。

 もてなされるのが嬉しいのだろうか?


「リーフ、椅子をお引きして」

「は、はい!」

「どうぞ、お座りください」

「うむ。良きに計らえ」


 そうして、魔王が椅子についたのを確認してから、オートマタも、もう一つの椅子に座る。

 リーフは命令通り、立ったままオートマタの後ろに控えた。


 さあ、命懸けの交渉の始まりだ。

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