89 国境砦の戦い、終結

 戦いに決着がついたボス部屋で、私は一人勝利の味を噛み締める……という訳にもいかない。

 まだ国境砦の戦いは続いてるんだから、ここからどう動くか考えないと。

 そう思って、とりあえず指揮官をゾンビにするべく死体を確認したところ。


「ぅ……ぁ……」


 なんと、指揮官にはまだ息があった。

 辛うじてだけど。

 うわー、凄いなー。

 まあ、さっきのは私の最強の魔法とは言え、真装も使ってない状態での攻撃だ。

 だから、一万近い魔耐のステータスがあれば、死体の原型くらいは残ると思ってたけど、まさか生き残るとは。

 なんという、しぶとさ。

 黒焦げなのも相まって、まるでゴキブリのようだ。

 気持ち悪い。


 じゃあ、さっさとトドメを刺しますか。

 そう思って剣を振り上げた瞬間、━━私の脳裏に電流が走った。


「そうだ……!」


 閃いた。

 閃いたよ。

 国を落とし、上手くすれば勇者を殺せるかもしれない方法を。

 ローリスクハイリターン、失敗しても勿体ないくらいで済む素晴らしい作戦を閃いた!


 そうと決まったら、こいつを殺す訳にはいかない。

 いや、最後には殺すんだけど、その前に有効活用させてもらおう。


 そうして、私は回復魔法の準備をしながら、とあるゾンビをボス部屋に呼び出した。

 そのゾンビの名は……調教ゾンビ。

 殺してゾンビにした勇者の一人であり、他者を強制的に従わせるユニークスキル『調教』を持ってるゾンビだ。

 調教の発動条件は、対象のHPが一定以上に弱ってる事。

 指揮官は弱ってるどころか、瀕死を通り越して死ぬ半歩手前くらいの重傷。

 スキルの発動条件は満たしてる。

 

「やれ」


 そして私は、調教ゾンビにスキルの発動を命じた。






 ◆◆◆






 さて、私がボス部屋でドンパチやってる間、オートマタは砦の戦況を監視し続けていた。

 戦いながらオートマタの操作までできるのは、ひとえに並列思考のスキルのおかげだ。


 で、本体が指揮官の調教をしてる間、同時進行でオートマタには現場の証拠隠滅をさせておいた。

 とりあえず、全身がすっぽり隠れるフード付きのローブ(街からの略奪品、それなりに高価な装備)を着た魔木ゾンビを召喚し、私と同じ雷魔法で砦を攻撃させた。

 特に、指揮官を拉致った場所は念入りに。

 死体が跡形もなく消えてても不自然じゃない程に。

 主力である指揮官率いる部隊が根こそぎ抜けてしまった砦の戦力ではこの魔法を防げず、何発か撃てば砦はいとも簡単にボロボロになった。

 さすが、腐っても勇者の魔法ってところかな。


 あと、突然の電撃で神道達の注意が一瞬こっちに向いたけど、すぐにドラゴンの攻撃に晒されて目の前の相手に集中し出した。

 そのまま注意散漫で死んでくれてもよかったのに。

 さすがに、そこまで甘くはないらしい。


 そして、気を取り直して、特に損傷が激しい場所。

 まるで本物の雷が落ちたみたいに荒れている拉致現場に、最低限の回復魔法をかけた指揮官を放置しておく。

 全身に電撃によるダメージが残ってるから、他の奴らから見れば、さっきの魔木ゾンビの攻撃でやられたと思ってくれるだろう。

 多分。


 正直、本気で騙そうとするなら杜撰もいいところな工作だけど、やらないよりはマシでしょう。

 これでも、詳しく調べられなければ誤魔化せる筈。

 ダメなら、それでもいい。


 で、そんな事をやってる間に戦いは終局へと向かっていた。

 ボロボロのドラゴンと、まだ余裕のありそうな勇者一行が、最後の攻防を繰り広げる。


「これで終わらせる!」

「祖国の仇、討たせてもらう!」

「行きます!」


 勇者一行の三人が、空中で必殺技っぽい構えを取る。


「最強の竜を……なめるなぁあああああ!」


 それに対し、ドラゴンも最後の力を振り絞るかのように、ブレスの発射態勢に入った。

 そして、両者の攻撃がぶつかる。


「《ドラゴンブレス》!」

「《アポロスラッシュ》!」

「《トルネードブラスト》!」

『合体奥義! 《クリムゾンロード》!』


 ドラゴンのブレスと、女二人の攻撃、炎と風の合体魔法が激突し、相殺。

 最後の攻撃を防がれたドラゴンに向かって、神道が大きく剣を振りかぶる。


「終わりだ! 《ブレイブソード》!」

「ぐぁああああああああああ!?」


 神道の剣から巨大な純白の光の斬撃が放たれ、ドラゴンの体を袈裟懸けに斬り裂く。

 ドラゴンの断末魔が轟き、その巨体が真っ二つに両断された。


「や、やった!」

「勇者様がやってくれたぞ!」

「凄ぇ!」

「よし! 俺達も続くぞ!」

「ヒャッハー! 覚悟しろ残党ども!」


 その姿を見た砦の連中が、歓声を上げて残りの魔物を駆逐していく。

 それに対して、魔物の大部分は逃げ出した。

 残って徹底抗戦を挑んだ魔物も、すぐに制圧されるだろう。

 勝負ありだ。

 今回の戦いは、魔王軍の負けである。

 

 それを見届けない内に、私はオートマタを動かした。

 このままだと、一部の奴らは派手に雷魔法をぶっ放した現場に直行しそうだったので、急いで魔木ゾンビを送還。

 オートマタもその場から離脱させて、ドラゴンの死体の下へと向かわせる。

 目的は当然、死体の回収だ。

 あれだけの力を持った化け物をゾンビにしないなんてあり得ない。


 そうして、ドラゴンの下へと辿り着いた時、


「おのれぇ……! おのれぇ勇者ぁ……!」


 真っ二つに斬られたドラゴンが、怨嗟の声を上げ始めた。

 まだ生きてたんだ。

 凄い。

 これが爬虫類の生命力。

 なんにしても、これはラッキーだ。


「ただでは死なんぞ……! お前らも道連れにしてやる!」


 そう言って、ドラゴンは最後の抵抗とばかりに、ブレスの発射態勢に入った。

 黒い光が、ドラゴンの口の中に収束していく。

 これで神道達が死ぬとは思えないけど、相当数の兵士達は道連れにできるかもしれない。


 でも、私はそれを阻止するように、爺ゾンビを召喚した。

 そして、


「《アイスピラー》」

「なっ……!?」


 爺ゾンビの放った魔法。

 地面から突き出た氷の柱が、ドラゴンの喉を貫通する。

 それによって、元々風前の灯火だったドラゴンのHPが、急速に減少していく。

 

「お前は……!?」


 最期の一瞬。

 ドラゴンの大きな瞳が、オートマタの姿を捉えた。

 爬虫類の表情なんてわからないけど、その声音は驚愕に満ちている。


 でも、これ以上何かできる訳もなく、今度こそドラゴンのHPが完全に0になった。

 ドラゴンの瞳から光が消え、莫大な経験値とDPが私に入る。

 まさか死体だけじゃなくて、経験値とDPまで手に入るなんて。

 本当にラッキーだった。


 そして、他の連中にオートマタの姿を発見されない内に、ドラゴンの死体をアイテム回収機能で転送。

 送り先は、ウチのダンジョンで一番広い中ボス部屋だ。

 あそこじゃないと、馬鹿デカイドラゴンの体は収用できない。

 同時に、オートマタと爺ゾンビもダンジョンへと送還。


 こうして、国境砦の戦いは終わったのだった。

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